第22話 旧保守路の地図庫で、俺たちは迷宮都市の裏側の構造を初めて知る
副支部長の“確認だけ”は、十分後にはきれいに破綻した。
だって詰所の奥に、どう見ても確認しない方がおかしい扉がもう一枚あったからだ。
「これは不可抗力ってことでいい?」
「駄目です」
セラが真面目に返す。
ただ、監察補助の二人もここまで来ると完全に好奇心の顔になっていた。迷宮都市で働く人間が、自分たちの足元の構造を知らないままなのは変な話だ。
奥は小さな地図庫だった。
丸められた古紙の束。
石板へ刻まれた導線図。
そして、現在の都市地図には載っていない縦横の保守線。
「迷宮都市って、迷宮の上に乗っかってるだけじゃなかったのね」
エルフィーが低く言う。
「最初から、この迷宮を管理する前提で街が作られてる」
俺も同じことを思っていた。
今の都市が迷宮に寄生して育ったんじゃない。
もっと古い段階で、管理設備ごと何かを隠すために街が組まれている。
俺は中央の導線図へ手を伸ばした。
触れた瞬間、淡い反応が走る。
【帰路関連設備の経路情報を取得しました】
【第四層監理塔を中継点とする外環搬送路が存在します】
外環搬送路。
帰路関連設備。
完全に当たりだ。
「ユウトさん、こっち」
セラが呼ぶ。
彼女の前には、古い保守日誌が広げられていた。半分以上は読めないが、一部だけやたら新しい墨で上書きされている。
『帰路環保守停止』
『監理権限を上層へ移譲』
『未承認開門の痕跡あり』
未承認開門。
つまり、俺みたいに帰り道を探した人間が過去にもいたということだ。
その時、クロハが一番奥の棚の前で止まった。
「これ……」
彼女が指した石棚の裏には、短い刻み傷が三本入っていた。
意味のない傷に見える。
でもクロハの顔色が変わる。
「兄貴分の印だ」
「生きてたってことか?」
「少なくとも、ここまでは来てる」
軽口の多い彼女にしては珍しく、声が少し震えていた。
印の横には、さらに小さく一文字だけ残っていた。
『上』
四層監理塔へ向かった、という意味にしか見えない。
俺は古紙を巻き直しながら、胸の中で何かがはっきり形になるのを感じた。
俺の帰り道。
クロハの兄貴分の行方。
迷宮都市が隠してきた旧保守路。
これ、たぶん全部同じ線の上にある。




