第21話 保守扉の向こうに、帰るための古い道がまだ残っていた
変異蜘蛛を倒して見つけた旧保守扉は、翌日にはきっちり封鎖されることになった。
「当然よね」
エルフィーが腕を組んで言う。
「当然だな」
俺もそう思う。
思うんだけど、こっちにはもう“ただの怪しい扉”では済まない事情がある。
クロハから渡された旧路鍵片。
蜘蛛の奥で反応した奇妙な紋様。
それに、俺の危機察知があの扉にだけ妙に静かだったこと。
副支部長は頭痛をこらえた顔で俺たちを見た。
「本来なら都市管理局へ回す案件だ。だが、お前たちが最初に見つけた。確認だけなら今日の昼まで許可する」
「確認だけ?」
「潜り込むなよ、という意味だ」
そう言われても、確認してみた結果さらに奥へ行く必要が出る未来しか見えない。
同行者は俺、エルフィー、セラ、クロハ。それにギルドの監察補助が二人。完全な秘密行動ではないが、少なくとも今すぐ誰かに全部を取り上げられる形でもない。
扉の前へ着くと、クロハが懐から金属片を取り出した。
「たぶん、これで噛み合う」
「本当に仮拠点の鍵みたいに出してくるな」
「そういう人生なんだって」
軽く言うが、彼女の目は少しだけ張っていた。
鍵片を古い凹みに差し込む。
硬い手応えのあと、内部で何かが噛み合う低い音がした。
次の瞬間、俺の視界に文字が走る。
【旧保守路を検知しました】
【帰路関連設備との近接反応があります】
心臓が跳ねた。
「開くぞ」
エルフィーが前に出て、俺と一緒に重い扉を押す。
ぎ、と長年閉じていた音がして、隙間の向こうから乾いた空気が流れ出てきた。
中は意外なくらい綺麗だった。
石の通路。
壁沿いに埋め込まれた古い導光管。
崩れてはいるが、ただの抜け穴じゃない。最初から人が管理する前提で作られた道だ。
「迷宮の中に、こんなのが……」
セラが小さく息を呑む。
「都市の上が知らないわけないわね」
エルフィーの言い方は辛いが、その通りだと思う。
通路を少し進んだ先に、小さな保守詰所らしい部屋があった。机の残骸、壁掛けの地図板、それと腐りかけた木札。
俺が拾い上げると、文字はかろうじて読めた。
『第四層監理塔 第七保守線』
四層。
今の俺たちが正式にはまだ深く踏み込めない領域だ。
しかも“監理塔”なんて、いかにも何かありそうな名前がついている。
「……確認だけ、で済む気がしないな」
俺が言うと、エルフィーもセラも、ついでにクロハまでほぼ同時にうなずいた。
旧保守扉の向こうには、確かに古い道が残っていた。
しかもそれは、俺が帰るための門へ続く匂いを、もう隠し切れていなかった。




