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第20話 正式パーティ《深路標》、初依頼でさっそく普通じゃないものを引き当てる

 正式パーティ登録の翌日。


 俺たち《深路標》の初依頼は、見た目だけならかなり普通だった。


 三層手前の巡回補助。

 異常兆候がないかの確認。

 ついでに素材回収。


 ここまでなら、まあ普通だ。


「普通に終わるといいですね」


 セラが言う。


「ほんとにな」


「無理じゃない?」


 クロハがあっさり言った。


「なんでいるんだお前」


「外部協力者だから」


 もうそのポジションで通す気らしい。


 エルフィーは呆れつつも、完全には追い返さなかった。実際、旧路絡みではクロハの知識が有用すぎる。


 三層手前までは、本当に普通だった。


 魔物の数も通常。

 空気も比較的安定。

 俺の危機察知も過剰には反応しない。


「……今日は静かね」


 エルフィーが言う。


「ちょっと不安になります」


 セラが小さく笑う。


 その時だった。


 通路脇の崩れた石積みの下で、何かがきらりと光った。


【幸運補正が発動しました】

【埋没物を検知】


 来た。


「そこ、何かある」


「もう嫌な予感しかしない」


 エルフィーが言いながらも近づく。


 石をどける。

 土を払う。

 出てきたのは、小さな黒い板片だった。


 まただ。


【帰路残片:接続候補】

【照合中……】

【既存部位との共鳴率:中】


 帰路系。


 やっぱり俺の初依頼は普通じゃ終わらないらしい。


「それ、また古いやつ?」


 クロハが覗き込む。


「たぶん」


 俺は慎重に回収した。


「……こういうの、本当に吸い寄せてるみたいですね」


 セラが感心半分、不安半分で言う。


「ええ。認めたくないけど、もう偶然ではないわ」


 エルフィーの言う通りだった。


 ただ、その直後。


 迷宮全体が低く震えた。


「っ!?」


 壁が鳴る。

 床石の下を何かが走る感覚。


【高反応警報】

【前方に広域変動を確認】


「何か来る!」


 俺が叫ぶのと同時に、通路の奥から崩落音が響いた。


 砂煙。

 砕ける石。

 そして、その向こうから這い出してきたのは、巨大な甲殻の魔物だった。


 蜘蛛に似ている。

 だが脚は八本どころじゃない。

 節足の隙間に赤い目がいくつも光る。

 口器からは白い糸ではなく、鈍く光る灰色の線が滴っている。


「なにあれ……!」


「トラップスパイダーの変異種か……!? 三層手前に出るサイズじゃない!」


 エルフィーの声が張る。


 蜘蛛系は嫌だ。

 見た目からして嫌だ。


 でもやるしかない。


「セラ、拘束警戒! クロハ、脚に何かできるか!?」


「やってみる!」


 自然に指示が出ていた。

 自分でも少し驚く。

 でも今は考えてる余裕がない。


 変異蜘蛛が通路いっぱいに糸を吐く。


 灰色の糸が石壁に触れ、じゅっと煙を上げた。


「腐食糸!? 最悪!」


 エルフィーが悪態をつく。


 回避。

 狭所。

 脚の数が多い。

 しかも糸持ち。


【戦闘解析を開始】

【脚部関節破壊を推奨】


「脚を狙う!」


 エルフィーがすぐ反応し、前へ出る。


 細剣で真正面は難しい。だから脚関節を削る。そこへ俺も横から入る。


 新しい剣が金属質の外殻を叩く。硬い。だが完全には弾かれない。


 クロハは側面からすべり込み、蜘蛛の脚の間に小さな罠釘を打ち込んだ。


「ほい、足止め!」


 次の瞬間、蜘蛛の二本の脚が一瞬絡まり、動きが乱れる。


「今です!」


 セラの光弾が眼の一つを焼く。


 怯んだ。


 その隙に、エルフィーの突きが一脚の関節を貫いた。


 ぎい、と嫌な音を立てて、脚が一本折れる。


 だが、変異蜘蛛は止まらない。

 逆に暴れた。


 通路の壁にぶつかり、天井が崩れる。


「散って!」


 石が降る。


 俺は咄嗟にセラの肩を引いて避ける。

 その直後、さっきまで彼女がいた場所に石塊が落ちた。


「ありがとう、ございます……!」


「後で!」


 蜘蛛がこちらへ向き直る。

 赤い目が一斉に光る。

 背筋が寒い。


【危機察知が発動しました】

【正面突破は危険】

【右壁の亀裂利用を推奨】


 右壁?


 見れば、さっきの崩落で壁の一部が裂けている。


 あそこを使うのか。


「クロハ! 右壁の裂け目に誘導できるか!」


「できるけど、やばい役目じゃない!?」


「頼む!」


「はあー、もう!」


 クロハが口笛みたいな音を鳴らし、蜘蛛の視線を引いた。

 彼女が裂け目の方へ走る。

 蜘蛛も追う。


 そこでセラが光の鎖を放ち、一瞬だけ進路を縛る。


 十分だ。


「エルフィー!」


「わかってる!」


 二人で同時に横から脚を叩く。

 蜘蛛の体勢が傾く。

 そのまま裂け目へ半身を突っ込んだ。


 詰まった。


「今!」


 俺は全力で胸部へ踏み込む。


 外殻の隙間。

 柔らかい箇所。

 そこが見える。


 剣をねじ込む。


 変異蜘蛛が絶叫のような音を上げる。

 さらにエルフィーの突きが同じ場所へ刺さる。


 最後に、セラの浄化光がそこへ叩き込まれた。


 赤い目が一つずつ消えていく。


 やがて巨体は痙攣し、そのまま動かなくなった。


【変異トラップスパイダーを撃破しました】

【経験値を獲得しました】

【レベルが上昇しました】

【レベル12→14】


「……勝った」


 俺が息を吐く。


 エルフィーは壁に手をつきながら言った。


「《深路標》の初依頼、普通じゃ済まなかったわね」


「だろうな」


 クロハは裂け目の脇にしゃがみ込み、蜘蛛の体液を避けながら笑う。


「でも今の連携、かなり良かったよ」


「珍しく素直だな」


「事実だし」


 その時、裂け目の奥でまた何かが光った。


 俺とクロハが同時にそちらを見た。


「……また?」


「まただね」


 奥にあったのは、半ば埋もれた古い鉄扉だった。


 しかも、表面には見覚えのある紋様。


 帰路残片に刻まれていたものと、少し似ている。


【旧保守扉:反応あり】

【接続候補】


 胸が高鳴る。


 初依頼の直後に、もうこれか。


「開けるのは、今じゃないわよね?」


 エルフィーが疲れた顔で言う。


「さすがに準備が足りない」


「同感」


 でも、見つけた以上は報告して終わり、という気にもなれない。


 扉の向こうには、たぶんまた何かある。

 門に近いもの。

 帰るための部品。

 あるいは、それ以上の何か。


 パーティ《深路標》の最初の依頼は、結局また次の道を開いただけだった。


 でも、それでいい。


 俺たちはもう、ただ巻き込まれているだけじゃない。

 自分たちで、次に進む道を掴み始めているんだから。

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