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第19話 俺たちのパーティ、正式にはまだ曖昧だったのでここでちゃんと形を決めることになる

 今まで俺たちは、成り行きで一緒に動いていた。


 迷宮で出会って。

 なし崩しに同行して。

 そのまま依頼もこなして。

 いつの間にか、ほぼ固定メンバーになっていた。


 でも改めて考えると、それってかなり危うい。


 誰が代表なのか。

 報酬配分はどうするのか。

 依頼の名義は。

 責任は。


 ギルドという場所は、そういう曖昧さを嫌う。


「というわけで、正式なパーティ登録を勧められました」


 ミリアさんが優しい笑顔で言った。


 受付カウンター前。

 俺、エルフィー、セラが並んでいる。


「今さら感すごいな……」


「ええ。本当に今さらね」


 エルフィーも頷く。


「でも、確かに必要です」


 セラが言う通りだ。


 最近はもう、単純な見習い依頼だけじゃなく、特例扱いの案件にも触れ始めている。今後もっと深く潜るなら、正式なパーティの方が都合がいい。


「リーダーはどうするの?」


 ミリアさんがさらっと聞く。


 その瞬間、空気が止まった。


 いや、これは結構大事な話では?


「普通に考えたらエルフィーでは?」


 俺が言うと、本人が少し驚いた顔をした。


「え、私?」


「だって一番経験あるし」


「それはそうですけど……」


 セラもちらっとエルフィーを見る。


 けれどエルフィーは数秒考え、首を振った。


「私は向いてないわ」


「そうなのか?」


「前衛判断や戦闘指揮ならできる。でも、今のパーティの軸はあなたよ」


 俺?


「異常点の感知。遺物との相性。引き当てる運。全部、あなたを中心に回ってる」


 そう言われると、反論しづらい。


「でも経験は――」


「リーダーって、何も一番強いとか一番経験があるだけじゃないですから」


 セラが静かに言った。


「このパーティがどこへ向かうかを決める人、だと思います」


 どこへ向かうか。


 迷宮の奥へ。

 門へ。

 帰路へ。


 ……確かに、それを一番強く願っているのは俺だ。


「だから、ユウトさんが決めるのが自然です」


 セラの言葉に、エルフィーも頷いた。


「補佐はするわ。必要なら私が止めるし、フォローもする。でも、選ぶのはあなた」


 急に重いものを渡された感じがする。


 でも。


 嫌ではなかった。


 むしろ、少しだけ誇らしい。


 地球では、何かを“任される”ことなんてほとんどなかったから。


「……じゃあ、俺がやる」


 そう言うと、ミリアさんが嬉しそうに微笑んだ。


「承知しました。では、パーティ名はどうされますか?」


 パーティ名。


 そこか。


 完全に考えてなかった。


「そういえば、決めてなかったわね」


「王道だとここでちょっと悩むやつですね……」


 セラが小さく笑う。


 何がいいだろう。


 派手すぎるのは嫌だ。

 でも、何もないのも味気ない。


 帰路。

 深層。

 迷宮。

 標。

 道。


「……《深路標》とか」


 思いつきで言う。


「しんろひょう?」


「深い路の標」


 自分で言って、少し恥ずかしくなった。

 厨二っぽいかもしれない。

 でも、この世界では案外ありかもしれない。


「悪くないわね」


 エルフィーが意外にも即答した。


「ちゃんと意味もあるし」


「私は好きです」


 セラも柔らかく笑う。


「じゃあ、それでいいかな」


「はい。《深路標》で登録いたします」


 ミリアさんがさらさらと書類に記す。


 それだけのことなのに、妙に実感があった。


 俺たちはもう、ただの行き当たりばったりじゃない。


 正式に一つのパーティになったんだ。


 その日の夕方、ギルドの食堂でささやかな祝杯みたいなことをした。


 酒じゃなくて果実水と軽食だけど。


「パーティ結成、おめでとうございます」


 セラが嬉しそうに言う。


「なんか、改めて言われると照れるな」


「リーダーなんだから、もっと堂々としなさい」


 エルフィーが言う。


 でもその顔には、少しだけ柔らかい色があった。


「そういえば、クロハは?」


 俺が訊くと、ちょうどそのタイミングで窓の外から声がした。


「呼んだ?」


 開け放たれた窓枠に、普通に腰掛けていた。


「なんでそこから来るんだ」


「入口から来ると面倒だから」


 理屈はわかるが、行儀が悪い。


 クロハはテーブルに視線を落とす。


「へえ。ついにパーティになったんだ」


「《深路標》です」


 セラが少し誇らしそうに言う。


「いい名前じゃん」


 クロハは笑った。


「じゃあ私は外部協力者ってことで」


「勝手にポジションを作るな」


「でも完全に無関係でもないでしょ?」


 それは、そうかもしれない。


 最近の流れ的に。


 エルフィーが少しだけ不満そうに目を細める。


「正式加入はまだ認めないわよ」


「別にそこまで期待してないって」


 そう言いながら、クロハは空いていた椅子に当然のように座った。


 距離感がおかしい。


 でも、不思議ともう完全には拒絶できない空気もある。


 その夜、パーティ登録札を受け取った。


 個人札とは別に、薄い黒銀の連結札。

 《深路標》の刻印入り。


 手に取った瞬間、少しだけ背筋が伸びた気がした。


 俺はもう、ただの流されるだけの被害者じゃない。


 仲間がいて。

 進む道があって。

 その中心に立つ役目まである。


 なら、なおさら強くならなきゃいけない。


 俺が弱ければ、このパーティごと飲まれる。

 門も帰路も、全部奪われる。


 そんなのは、絶対に嫌だ。

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