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第12話 見習いの俺、三層ボス討伐の余波で本当にもう目立たずにいられなくなる

 地上へ戻るまでの道中、誰も最初は大きな声を出さなかった。


 疲労もあった。

 緊張もあった。

 そしてたぶん全員、まだ実感が薄かったんだと思う。


 三層異常点でアビスガード撃破。


 しかも中心で決めたのは、見習い札の新人。


 そんな報告、普通なら冗談扱いだ。


「……本当に勝ったんだよな」


 盾役の大男がぽつりと呟く。


「勝ったからこうして戻ってるんでしょう」


 槍使いの女が言い返すが、自分でもまだ信じきれていない顔だ。


 ロドリクは前を見たまま歩いていた。


「記録は盛らずにそのまま出す。盛る必要がないくらいおかしい」


「ひどくないですか」


「褒めてる」


 最近その系統の褒め方、多すぎないか?


 でもエルフィーが横で少しだけ笑ったから、まあいい。


 三層から二層、一層と戻るうちに、途中ですれ違う冒険者たちがこちらを見るようになった。ロドリク小隊が全員揃って、しかも少し傷だらけで戻ってくる時点で、何かあったとわかるのだろう。


「おい、三層組だぞ」


「ずいぶん消耗してるな……」


「何と当たった?」


 ざわつきが広がる。


 ギルドへ戻った瞬間、そのざわめきはさらに大きくなった。


 ロドリクがそのまま受付へ報告書を叩きつける。


「異常点確認、敵性大個体一体討伐、祭壇破壊、封鎖完了」


 受付側の職員が一瞬固まる。


「……え?」


「副支部長を呼べ」


 そこからは早かった。


 副支部長登場。

 報告確認。

 小隊全員からの裏取り。

 そして、俺へ向けられる明らかにおかしい視線。


「待て、本当にこいつが核を?」


「ロドリク隊長が見てたんだろ?」


「見習い札だぞ、あいつ」


 ざわざわ。ざわざわ。


 完全に目立っている。


 副支部長が報告書から顔を上げ、俺を見た。


「ユウト。お前、またやったのか」


「いや、今回は俺だけじゃなくて全員で……」


「そういう問題じゃない」


 真顔で返された。


 でもその目の奥には、完全な困惑と、少しだけ隠しきれない期待があった。


 ミリアさんが登録札を持ってきて、少し震える手で差し出してくる。


「ユウト様……追加評価が入ります」


「追加評価?」


「はい。通常の見習い規定ではありえないのですが、今回の異例戦果により、暫定で“特例上位見習い”扱いとなります」


「そんなのあるんだ……」


「本来はあまりありません」


 だろうな。


 ギルドホールの奥で、ガレスが腕を組んだままこちらを見ていた。


 前のような笑いはない。

 代わりに、明らかに認識を改めた顔。


 あまり嬉しそうじゃないが、それでも“見習いの雑魚”としては見ていない目だ。


 少しだけ、気分がいい。


 その時、副支部長が低い声で言った。


「ホールで騒ぐな。ユウト、ロドリク、エルフィアラ、セラフィナ。もう一度来い」


 また別室だ。


 今度はさすがに慣れてきた。


 部屋に入ると、副支部長は机の上にいくつかの資料を並べた。


「まず確認だ。アビスガードは本来三層に出る個体ではない」


「はい」


「旧祭壇との連動、異常点の活性、封鎖済み扉の開放。すべて通常事例から外れている」


 ロドリクが頷く。


「しかも、ユウトが関わる場所で毎回“当たり”が出る」


 それ言い方。


 でも否定できない。


「……偶然じゃないかもしれない」


 俺が小さく言うと、副支部長は鋭く目を細めた。


「自覚があるのか?」


「少しだけ。俺、そういうのに反応することがある」


 全部は言わない。

 でも完全に黙るのもそろそろ無理だ。


 エルフィーもセラも黙っている。たぶん、今は俺に任せるつもりなんだろう。


 副支部長は数秒考え、やがて口を開いた。


「……なら今後もその感知は活かしてもらう。だが情報管理はこちらで行う。お前が不用意に目立ちすぎると面倒な連中が寄ってくる」


「もう来てる気もしますけど」


 リュミエラの顔が脳裏をよぎる。


 副支部長はその言葉に少しだけ表情を変えた。


「教会か」


 やっぱり。


「まだ接触は挨拶程度です」


「それで十分厄介だ」


 副支部長が即答した。


 セラが少し不安そうに身を固くする。


「教会って、そんなに……?」


「一枚岩じゃない。善意の連中もいる。だが、珍しい才能や遺物反応に食いつく連中もいる」


 副支部長の声は重かった。


「とくに“帰還”や“門”に類するものはな」


 心臓が止まりそうになる。


 今、帰還って言ったか?


 俺が反応したのを見て、副支部長の目がわずかに細まる。


「……お前、何か知ってるな」


「……」


 言葉に詰まる。


 でも、その前にエルフィーが口を開いた。


「今はまだ、確証がない情報まで話すべきではないわ。混乱するだけよ」


 助かった。


 副支部長はしばらく黙っていたが、やがて頷いた。


「いい。だが一つだけ覚えておけ」


 その視線が俺へ向く。


「お前が引き当てているものは、普通の新人が拾うような幸運ではない。下手をすれば国や教会が動く案件だ」


 国。


 教会。


 規模がでかい。


 でも、それだけ大きいものの先にあるなら、やっぱり俺の帰り道は本物なんだろう。


 部屋を出ると、ギルドホールの空気がさらに変わっていた。


 ざわめきはある。

 でも、軽い笑いや冷やかしじゃない。


 明らかに“本物かもしれない”ものを見る目だ。


 その中を歩くのは、少しだけ気分がいい。

 少しだけ怖い。

 そして、少しだけ――癖になる。


 地球では、こんな視線を向けられたことはなかった。


 教室での俺は、ただ笑われる側だったから。


 でも今は違う。


 ここでは俺が強さで見られている。

 異常さで見られている。

 何かを起こす存在として見られている。


 それは危険だ。

 でも同時に、ひどく甘い。


 その夜、宿で報酬の袋を受け取った時、さすがに手が少し震えた。


 中には今までよりずっと多い銀貨と、金に近い色の硬貨が一枚。


「……でかい」


「当然よ。三層異常点討伐の特別加算だもの」


 エルフィーが言う。


「これなら装備も少しは整えられるわね」


「ユウトさん、新しい防具も見た方がいいです」


 セラも頷く。


 実際その通りだ。今の俺の装備は、運と反応とノリでどうにかしている割合が高すぎる。


 でも、それ以上に思う。


 金も。

 評価も。

 仲間も。

 帰るための部品も。


 この世界では、前に進めばちゃんと手に入る。


 地球でどれだけ押し潰されていたとしても。


 なら、進むしかない。


 どこまでも。


 迷宮の奥へ。

 門の先へ。

 そしてその先、地球へ。


 その時にはもう、誰にも踏まれない。

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