第10話 見習いの俺、ギルドからちょっとおかしな特別依頼を受けることになる
副支部長の部屋に呼ばれるのは、これで二回目だった。
前回は登録時。
今回は正式なお話。
どう考えても軽い内容じゃない。
「入れ」
低い声に促され、俺たちは部屋へ入る。
副支部長は相変わらず厳つい顔で机に座っていた。だが、その隣には見慣れない男が立っている。灰色の外套、無駄のない装備、鋭い目。いかにも現場叩き上げという感じだ。
「座れ」
俺、エルフィー、セラが向かいに座る。
副支部長は書類を一枚机に置いた。
「昨日の隠し区画発見、および遺跡守護霊撃破。報告は受理した」
「はい」
「まず結論から言う。見習いとしては異常だ」
やっぱりそうなるよな。
「ただし、それ自体を咎めるつもりはない。問題は別にある」
副支部長が隣の男を見る。
「こいつはロドリク。三層担当の探索監督だ」
「どうも」
短い挨拶。
でも目が完全に俺を観察している。
「ここ数日、上層から三層にかけて湧きが妙だ」
ロドリクが地図を広げながら言う。
「スケルトンナイトが二層に上がってきたのはその一端だ。加えて、封鎖されていたはずの旧路に微弱な活性反応が出ている」
旧路。
俺が見つけたやつか、それに近い何かだ。
「本来なら見習いに関わらせる話ではない」
副支部長が続ける。
「だが、お前はすでにその反応点を二度引き当てている。偶然とは言い切れん」
つまり、俺の引きが良すぎるのが問題になってる。
何それ。
「そこでだ。お前たちには、正式な高難度任務ではなく、監督付きの特別同行依頼を受けてもらう」
「同行依頼?」
セラが不安そうに聞く。
「ああ。ロドリクの小隊が三層の異常点を確認する。その際、お前たちも同行し、感知や補助を担当する」
それって、ほぼ探索隊への参加では?
「見習いにしては破格だ。だが報酬も評価も出る」
副支部長の視線が俺へ向く。
「拒否してもいい。強制ではない」
当然、頭の中で計算する。
危険。
でも迷宮の異常に近づける。
帰路関連の手がかりがあるかもしれない。
しかも正式任務として。
断る理由が、あまりない。
「受けます」
俺が言うより早く、エルフィーが横目で見た。
「でしょうね」
「いや、止めないのかよ」
「止めてもどうせ行くでしょう。だったら条件を整えた方がいいわ」
その言い方に少しだけ救われる。
セラも小さく頷いた。
「私も同行します」
ロドリクが腕を組む。
「助かるが、遊びじゃない。三層の異常点には、おそらく中型以上の戦闘が発生する」
「問題ありません」
エルフィーが即答する。凛としていて、ちょっと見惚れるレベルだ。
「……一つだけ聞いていいですか」
俺が手を上げると、副支部長が顎をしゃくった。
「何だ」
「三層の異常って、最近になって急に増えたんですか?」
「そうだ」
「原因は?」
「不明」
短い答え。
でもその“わからない”こそが一番危険なんじゃないのか。
打ち合わせを終えて部屋を出ると、廊下の角でガレスたちと鉢合わせした。
最悪だ。
「へえ、特別扱いか」
もう情報が漏れている。早すぎる。
「お前、ほんとに変な引きしてるな」
「悪い意味で言ってる?」
「半分な」
ガレスが少しだけ真顔になる。
「三層の異常点は、新人が気軽に行っていい場所じゃねえ。運で生きてるなら、そろそろ死ぬぞ」
その言葉は嫌味半分、忠告半分に聞こえた。
昨日までより少しだけ、こいつの目の色が違う。完全に見下すだけじゃなく、測るような色が強い。
「……忠告ありがとう」
「別に心配してねえよ。ただ、無様に死なれると噂の締まりが悪い」
そう言って去っていく。
「最後まで感じ悪いわね」
エルフィーが呆れる。
「でも、少しだけ本気で警告してた気もします」
セラが言う。
俺もそう思った。
迷宮に潜る連中は、結局“死ぬかもしれない場所”を知ってるからかもしれない。
翌朝、俺たちはロドリク小隊とともに迷宮へ入った。
小隊は五人。
ロドリクのほかに、槍使いの女戦士、盾役の大男、短弓の青年、荷物と記録を兼ねる後衛が一人。
明らかに経験豊富だ。
「足を引っ張るなよ、坊主」
盾役の大男が言う。
「がんばります」
「妙に素直だな」
ロドリクが少し笑った。
三層へ降りるにつれて、空気が変わっていく。
一層や二層とは違う。
壁の色が暗い。
通路が狭く、ところどころに古い紋様が残る。
漂う匂いも、土と鉄だけじゃない。何か焦げたような、嫌な魔力の匂いがする。
「……これが三層」
俺が呟くと、ロドリクが頷いた。
「上層の終わりで、中層の入口でもある。ここから先は、見た目以上に牙を剥く」
その言葉通り、進んでしばらくしてから現れた敵は、今までより明らかに強かった。
武装した骸骨兵が二体。
さらに後ろから呪文を唱える灰色の魔術骸骨。
「後衛持ちか!」
ロドリクが叫ぶ。
開幕から陣形が整っている。こいつら、今までの雑魚と違う。
戦闘が始まる。
盾役が前へ出て受け、槍が横から突く。
エルフィーも前衛に入り、セラは後方支援。
俺は中央で隙を窺う。
魔術骸骨が杖を掲げた。
【危機察知が発動しました】
【範囲魔術予測】
「散って!」
俺が叫んだ瞬間、灰色の炎が通路を舐めた。
ぎりぎりで回避。
「今のを読んだのか!?」
ロドリクが目を剥く。
「なんとなく!」
「便利な言葉だなおい!」
でも、そのおかげで被害は出なかった。
前衛骸骨の片方をエルフィーが押さえ、もう片方を盾役と槍使いが止めている。
なら先に魔術骸骨だ。
【戦闘解析を開始】
【優先目標:後衛個体】
視界の線に従って動く。
骸骨兵の間を抜ける。
短弓の援護が飛ぶ。
セラの光弾が魔術骸骨の詠唱を一瞬止める。
その隙に俺は接近し、片手剣を叩き込んだ。
だが浅い。
「硬っ……!」
次の瞬間、横から骸骨兵の剣が来る。
【連携補正・小が発動しました】
体が半歩ずれた。
そこへエルフィーの細剣が飛び込み、俺を狙った剣を逸らす。
「前だけ見なさい!」
「助かった!」
「あとで感謝しなさい!」
その怒声すら頼もしい。
俺は体勢を立て直し、魔術骸骨の胸骨の隙間へ剣を突き込む。
砕ける音。
灰炎が消える。
残る二体も押し切り、戦闘は終わった。
だが、その直後だった。
三層の床全体が、低く脈動した。
ごう、と迷宮の奥から風が吹き抜ける。
全員の顔色が変わる。
「……今のは何だ」
ロドリクが低く言う。
俺のポケットの中で、指輪と帰路標片が同時に熱を帯びた。
【異常点反応の急上昇】
【前方大空間との接続予測】
前方。
つまり、すぐ近い。
ロドリクが剣を抜き直した。
「全員、警戒。もうすぐ本命だ」
心臓が速くなる。
ここで何かが起きる。
きっと大きい。
そしてたぶん、俺が探しているものにも近い。
なら行くしかない。
怖くても。
危なくても。
この先に何かがあるなら。
地球へ帰る道の一部が。
そして、もっと強くなるための壁が。




