第9話 苛烈になるコースと急かす消滅ライン
コースは次第に難易度を増し、左右に連続する鋭いカーブがほのかの前に立ちはだかっていた。
ライラック・ゼロは秒速3メートルのトップスピードを維持したまま、まるで獣のように人工コースを駆け抜けていく。
(怖い……でも、身体がもう動いてる)
普段のゲーム画面とはまるで違う。
レースコースをカスタムモードで走っているだけに、振動や重力変化までも、機体を通じてダイレクトに伝わってくる。
さらに、コースの奥から光線状のビームが飛んできた。
本来こんな攻撃はありえない。だが、コックピットのホルダーに固定されたクリスタルが淡く光り、父の守護霊の声が響く。
「ほのか、心配するな。この機体への攻撃は俺が防ぐ!」
次の瞬間、機体の周囲に薄く光るシールドが張られ、ビームが触れた瞬間、弾かれて消えた。
ほのかは一瞬息を呑んだが、すぐにスロットルを押し込む。
(守ってくれてる……なら、私は前だけを見ればいい!)
コースの難所はますます複雑さを増し、鋭角のカーブや連続するS字、立体交差に入り込むループが続く。
ほのかは必死にコースのラインを読み、反射的に機体を操作していく。
(行ける……この速度なら、行ける!)
そしてバックモニターには、刻一刻と迫る赤い消滅ライン。
しかもその速度は、先ほどよりもさらに上がってきていた。
そのとき、運営の自動音声が場内に響く。
『現在、走行中の機体残り7機。消滅ライン接近中。最大警戒状態』
MCもその声に重ねるように叫ぶ。
「観客の皆さん、信じられない!先ほどまで20機以上が走行していたはずが、今や残り7機!この異常事態……レースはすでに常軌を逸しています!」
前方の機体も必死に走行を続けていたが、消滅ラインがじわじわと追い詰め、操作を誤った一機が、速度を落とした瞬間にラインへと呑み込まれて消えた。
『機体消失確認。データ復旧不能』
冷たいアナウンスに、場内はさらに騒然とする。
「消滅ライン、さらに加速!このままでは残った6機も危険だ!」
そのとき、母の守護霊の声が、そっとほのかの耳に響いた。
「大丈夫。あなたなら必ずできる。私たちがこの機体を守るから、あなたはただ、前を信じて走って」
ほのかはその言葉にうなずき、視線を前方に戻す。
(負けない……絶対に、生きて帰る!)
消滅ラインと激化する状況。
ライラック・ゼロは、難所を縫うように走り抜け、ほのかは確実に操縦技術を高めていくのだった。