第13話 決死のラストスパートと奇跡のゴール
ラストセクションに突入したほのかのライラック・ゼロは、今や秒速3mの最高速度を遥かに超えた未知の領域に達していた。
後方では、消滅ラインが怒涛の勢いで迫る。機体との距離は、わずか数センチ。
それでも、ほのかはスロットルを緩めることなく、目の前を駆ける白い光のあとを必死で追っていた。
(あと、少し……!)
ゴールラインはもう視界に入っている。
その瞬間、コース上空から特大のビームがほのか目掛けて降り注いだ。
「もう、ダメか……!」
思わず目を瞑ったほのか。だが、その瞬間、先行する白い光が機体を包み込むように広がり、ビームを受け止めた。
衝撃が走るも、機体は無事。
(……護ってくれた)
残り数メートル。消滅ラインはもはや機体のすぐ後ろ。
コックピット内の警告音が鳴り響く。
『消滅ライン、接触まで0.5秒』
だが、ここでほのかは思い出した。
(そうだ……ゴールさえすれば、バックアップが取れるんだった!)
MCの言葉が脳裏に蘇る。
スタート前、スタッフから説明された言葉。
『レース中に何があっても、ゴールラインを通過さえすれば、完全なバックアップデータが復元され、元の身体に戻れる。諦めずに走り切ってください』
(諦めない!)
ほのかはスロットルを最後まで押し込み、前のめりになるように機体をゴールへと飛ばした。
「行けぇぇぇええええっ!!」
ゴールラインが目前に迫る。
だが、ついに機体は消滅ラインに呑み込まれ、白い閃光と共に崩壊した。
ほのかの身体もまた、消滅しかけ、視界が白く染まる。
(ダメだった……)
全身が消えていく感覚。
最後の意識の中で、ほのかは微かに手を伸ばす。
(お願い……)
そのとき、奇跡が起きた。
中指の先端が、ギリギリゴールラインを越えた瞬間、システムがそれをゴールと認識した。
『ゴールライン通過判定:有効』
場内の大型モニターに判定が表示され、観客席から悲鳴と歓声が同時に上がる。
「ゴール判定!湊ほのか選手、奇跡のゴール!!」
MCの絶叫と共に、バックアップ装置が作動し、消えかけたほのかのデータが急速に復元されていく。
『バックアップデータ取得完了。アバターおよび本体復元準備』
白い光と共に、ほのかの意識はコックピットから消え、縮小ポッドの中へと転送された。
――意識が戻ると、そこは控え室だった。
ほのかはゆっくりと目を開け、自分の身体が無事であることを確認した。
「ほの姉!!」
弟が駆け寄り、涙目で抱きついてきた。
「ほんとによくやった!やっぱり、ほの姉ならできるって信じてた!」
その言葉に、ほのかも笑顔を浮かべた。
「……うん。ただいま」
目を向けると、父と母も駆け寄り、固く手を握る。
「立派だったな」
「もう……二度と無茶はしないでね」
温かな家族のぬくもりに包まれたその瞬間、ふと、窓の外に白い光が浮かんでいるのをほのかは見つけた。
(……ありがとう)
心の中でそう呟くと、白い光はふわりと舞い上がり、夜空へと消えていった。




