第11話 静寂の胎動ゾーン
猛スピードで超難関ターンを突破したほのかの前に、ぽっかりと空いた光の渦が現れた。
それはまるで、夜空に浮かぶ銀色の胎内のようにも見える。
(これが……最後のセクション?)
ライラック・ゼロは、渦の中へ吸い込まれるように飛び込んでいく。
途端に、耳をつんざくようなビーム音も、コースを駆ける振動も消えた。
そこは、まるで無音の世界だった。
『胎動ゾーン突入確認。現在、走行中の機体ナンバー16番 湊ほのか選手のみ』
自動音声が冷たく告げる。だが、ここにはもう観客の歓声も、騒然とした騒ぎも届かない。
コックピットの周囲は、ほんのりと赤みがかった柔らかな光に包まれ、透明なゼリーの中を進んでいるかのような浮遊感がほのかを包む。
(……不思議。何もない。怖くない)
守護霊の父と母も、ここでは声をかけてこない。
それどころか、クリスタルも静かに穏やかな光を灯している。
(敵も消滅ラインもいない……ここだけは、安全なんだ)
ほのかは初めて、少しだけ肩の力を抜いた。
速度を維持しながら、ゼリー状の空間をなめらかに進んでいく。
それはまるで、胎内を通って出口へ向かう命の始まりの旅のようだった。
(でも……これもきっと、ハッキングで勝手に作られたんだよね)
この異常事態に巻き込まれてから、ほのかは確信していた。
本来ならこんな危険な演出などない。胎動ゾーンという名も、事前には存在していなかったはずだ。
(でも、不思議。安心できる……ここだけは)
ほのかは小さく息を吐き、コックピットの計器を確認する。
このセクションは一本道。進む方向さえ誤らなければ、ここで事故ることはない。
(でも、止まるわけにはいかない)
後方の消滅ラインがこのゾーンに入ってくるまで、そう長くはかからないだろう。
進み続けるしかない。
ほのかは再びスロットルを握りしめた。
(もうすぐ、出口だ)
ゼリー状の光の渦の先に、うっすらと光の出口が見え始める。
そこを抜ければ、いよいよラストスパートの最終セクションだ。
(待ってろ、ゴール!)
胎動ゾーンの最後の直線を駆け抜け、ほのかは出口へと飛び込んでいった。




