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34話「ギルド結成」

 団体を組織するにあたっては当然、名前が必要だ。そう言われても、とっさに思いつけるものではない。ソウジは頭を抱えた。

 そのうち、カナエが少し遠慮がちに手を挙げた。


「『いけいけソルジャーズ』ってのはどうかしら」


「なんだか童話の絵本みたいで可愛らしいですね」


 殺伐とした傭兵の世界にそぐわない名称が唐突に出てきたので、ソウジは思わず小笑いしてしまった。精悍(せいかん)な顔つきとスリムなスタイルを持つモデル風の見かけに似合わず、カナエの頭の中はほんわかしているのかもしれない。


「えっ、そんなつもりはなかったんだけど……ソウジくんが言うならきっとそうなのね。傭兵って荒くれ者が結構多いから、可愛らしい名前だと舐められちゃうわね」


「イルはどう?」


「そうですね……『マグナ・マギリカ』というのはいかがでしょうか」


 その名称案を聞いた瞬間、ソウジの尾が興奮に激しく揺れた。こう見えても魔王の中身はまだ高校三年生の男児だ。かっこいい横文字を嫌うわけがなかった。


「なにそれ、めっちゃかっこいい! どういう意味!?」


「現代語に直せば『魔を超えし者』というような意味です。ソウジ様にはそれくらいの傑物になっていただきたいのです」


 イルの気持ちはたしかに嬉しかったが、カナエの表情をのぞいてみると、残念なことにそこはかとなく険しかった。どうやらあまり気に入らなかったらしい。魔族においても、女性にはそういうカッコよさみたいなものは通じないのかもしれない。


「なんか古臭く感じるし、私はちょっと反対かな。どうせならもっと今っぽいのがいいわ」


「ふ、古臭い、ですか……」


 イルは軽くうなると、それきり黙りこくってしまった。

 どうせなら全員の賛同を得られるような名前にしたいが、背後に並んでいる魔族たちや聴兎(ラビル)職員からの無言の圧力もあり、あまり長い時間をかけていられるような雰囲気でもない。早いところ決めてしまいたかった。


 カナエが好むような現代風の名前。なにかいいアイデアはないだろうか。

 ソウジはふと、ロスタルカに来てから一番強く印象に残っているものを思い出した。それはホテルメリーに泊まったときに部屋の鏡で見た、魔王となった自分の姿だ。


 置き物のように動かないこの大きな漆黒の翼は、都会の街を我が物顔で練り歩くカラスたちのそれを彷彿とさせた。

 カラスは英語で一般的に”Crow”と言うが、体躯の大きいものは”Raven”とも呼ばれるらしい。プロスポーツのチームがよくチーム名の一部に動物の名前を採用したりしているし、この路線は十分ありだろう。


 さらにそこから、連想ゲームのように単語を引っぱり出していく。

 異世界にいきなり転生させられ、アイデンティティを失い、かといって魔族として最低限のことすらできない。今の自分はまさに地に堕とされ、これから再び飛び立たんとする鴉だと思った。


「『天翔ける鴉ライジング・レイヴンズ』っていうのはどうですか? 大きく羽ばたいていきたい、っていう思いを込めて」


 ロスタルカで英語がどれくらい通用するか不安だったが、問題なく通じたようで、二魔(ふたり)は感心したようにソウジを見つめた。


「なるほど、ソウジ様をモチーフにした名前というわけですね」


「言われてみればたしかに、唱角(デモン)の翼ってカラスっぽい! あっ、でもイルさんは違う種族だけど、それでいいの?」


「私はソウジ様が良ければ何でも良いのですよ」


 というわけで、二魔(ふたり)の賛同が得られたのでソウジの案がめでたく採用されることになった。もっともソウジは文字が書けないため、イルが魔族文字で書類にそれを書き込み、聴兎(ラビル)職員へと手渡した。


「ではギルド名を『天翔ける鴉ライジング・レイヴンズ』で登録いたしました。会員証にもデータを登録済みですので、本日よりギルド所属の証明としてもお使いいただけます。続いて依頼の受任へ移らせていただきます」


 聴兎職員は引き続き、慣れた手つきでテキパキと事務作業をこなしていく。思い返せば、初めにこのギルドへ足を踏み入れたとき、この女性の列だけ並んでいる魔族の数が少なかったように見えた。結構やり手なのかもしれない。


「ラッシマ財団からの護衛依頼ですね。受任料が900ジラになります」


「あっ」


 ここでソウジとイルは、現在一文無しであるというどん底状態を思い出した。元手ゼロで稼ごうなんて無謀にも程があるが、事情が事情だけにどうしようもない。ここはカナエに頼る他なかった。


「カナエさん……私たち実は、お金がほとんどなくてですね……」


「あっ、払っておくからいいわよ。イルさんたちの様子を見れば、それくらい分かるわよ。あとで報酬から返してくれればいいから、気にしないで」


 カナエはそう言うと、あっさりと受任料を支払った。身なりが整っていることもあり、彼女が裕福な暮らしをしていることはこちらからも見れば分かるが、あまりに気前が良すぎて逆に怖くなってきた。

 とはいえ、他に頼る宛があるわけではない。ひもじい今はこの出会いに感謝するしかなかった。


「では、『天翔ける鴉ライジング・レイヴンズ』の三名、受任登録完了いたしました。初めての任務、頑張ってください」


 聴兎職員はそう声をかけると、別れ際に手を振ってくれた。その固い表情とは裏腹に、実に親切丁寧な接し方だった。

 相手を第一印象だけで判断するものではない、とソウジは思った。

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