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33話「初めての依頼受注」

 そこでソウジの中にふと疑問が浮かんだ。


「そんなに金持ちだったら警備もきっと厳重だろうから、簡単に捕まっちゃうんじゃないんですか?」


「ところが、そうもいかなさそうなのよ。ミャントム団って、何年も前から結構派手に活動してるのに、今まで誰一魔(ひとり)捕まったことがないの」


「えっ、誰一魔!?」


「盗んだものの代わりにカードだけ残して、すっと消えちゃうの。まるで魔法みたいに」


 足が全くつかないというのは不可解だ。ロスタルカが機械の代わりに魔術の発達した世界だとしても、そのような完全犯罪を長年にわたって繰り返し成功させられる確率はゼロに等しいだろう。


「やつら、きっとなにかタネがあるに違いない」


「私もそう思う。だけど、それを解明してる時間はないっていうことで、ラッシマは金にものを言わせてこの傭兵協会に依頼してきたってわけ」


 カナエは依頼内容が書かれたペーパーを取り出してテーブルに置いた。

 業務内容は貨物運搬と邸宅の護衛任務で、参加(マギ)数は無制限。武器は参加時に貸与される。日時については、ロスタルカの時間表示に関する知識がないので、いまのソウジにはよく分からなかった。

 そして肝心の報酬額はというと、参加時に一魔(ひとり)あたり5万ジラ、依頼成功時にもう5万ジラとなっている。


「5万ジラ!?」


 イルは立ち上がって大声で叫んだ。あの静かで物腰柔らかなイルがこれだけ驚愕するということは、よほど破格の条件なのだろうということが分かる。

 傭兵たちの衆目を集めてしまったところで、イルは我に返ったらしく、周囲に向かって何度も頭を下げながら気まずそうに座り直した。


「これはもしや、闇営業では……」


「あはは、違う違う。それだったら他魔(たにん)に紹介なんてしないわよ。この紙はそこのテーブルにいっぱい積んであるやつ。この街の魔たちはこの依頼のことまで含めてみんな事情を知ってるわ」


「なるほど。路銀が稼げて、あわよくばミャントム団の尻尾がつかめるかもしれません。これを受けない手はないですね」


 今のソウジたちには先立つものがない。明日の食費さえままならないのだ。しかし報酬の5万ジラがあれば、この先しばらく衣食住に困ることはないだろう。


 もっとも問題は、依頼主があのラッシマ商会だということだった。


「ただし、ソウジ様の腹の虫が騒がなければの話です」


「いけ好かないけど、やろう」


 ハブ・プロットルで散々な目にあったのは、ドウェインという男の汚職が原因だ。それに比べて、ラッシマの秘書であるジューダスは非常に品行方正で、ソウジたちにも良くしてくれた。

 そんなジューダスがドウェインの横領について何も知らなかったことからすれば、商会内部も一枚岩ではないのだろう。悪いことを企む奴もいれば、真っ当に働いている者もいる。どの組織でも、それはきっと同じことだろう。


 そう考えると、ラッシマ商会が絡む依頼だからといって、断る理由にはならなかった。


「じゃあ、受けるのね。私もこの依頼を受けるところだから、一緒に登録しに行きましょう」


「おごってもらっただけじゃなくて仕事の紹介までしてもらっちゃって、なんかすいません」


「いいのよ、これくらい。『打倒ミャントム団!』ってことでお互い協力していきましょう!」


 酒が入って気が大きくなったのか、通りかかった店員に三魔(さんにん)ぶんの料金を手渡しすると、会ったばかりのときよりも軽やかな足取りでカナエはさっさと窓口の方へ行ってしまった。ソウジたちも慌ててカナエを追いかけていく。

 先に窓口を利用していた魔族への対応が終わるか終わらないかのところで、カナエは窓口に向かって呼びかけた。


「これ、まだ受付してますか?」


「ええ、割と時間ギリギリですがまだ大丈夫です」


 先程ソウジたちに二階へ行けと案内してくれた聴兎(ラビル)職員がぶっきらぼうな声で返答した。


「じゃあこの二魔(ふたり)と合わせて三魔分、よろしく!」


 カナエが右腕を使ってソウジたちをそれぞれ窓口に向かって押し出す。細身な見た目に反して、その力は意外と強かった。

 会員証を提示すると、聴兎(ラビル)職員はそれを端末に近づけてデータを読み込ませた。


「あら、まだギルド所属してらっしゃらないんですね。所属していると手数料が安くなるんですけれど、お作りになりますか?」


「ギルドか……まだちゃんと考えてなかったな。どれくらい変わりますか?」


「一魔あたり200ジラ、安くなります」


「結構違いますね、うーん」


 悩むカナエをソウジは慌ててイルの側頭骨に口を近づけて耳打ちした。


「ギルドって何?」


「ギルドというのは協会の傭兵同士で団体を組むことです。協会からのサポートを手厚く受けられて、一魔で活動するよりも色々と良いことがあります」


 イルは早口で手短に説明してくれた。いわゆる寄合や組合みたいなものだと思えばいいのだろうか。歴史の教科書で少し読んだことがあるような気もする。

 そもそも『傭兵協会』という名称からして、数あるギルドたちが寄り集まって協会を組織しているということなのかもしれない。


「一時的でいいなら、組んでみる?組んでるのが嫌なら、終わったあとすぐ解散しちゃえばいいわ」


「えっ、そんなことできるんですか?」


 聴兎職員は相変わらずのポーカーフェイスでうなずいた。先程のだらしない掘爬(ディゴ)職員とは違って対応は適切だが、感情が全く感じられない。もっとも、窓口の係員としては無用なトラブルを避けるためにはこれが一番良いのかもしれない。


「創設して一週間が経過すれば解散できますよ。協会としてはギルド制度の悪用につながるのであまり嬉しくないのですが、やっている方は結構いらっしゃいますので」


 少し賛成に意見が傾きかけたところで、イザベラに案内してもらうのをイルがとても嫌がっていたことをソウジは思い出した。もしかしたら、今回もイルは不機嫌にならないだろうか。顔色を伺ってみるが、イルには表情がないのでよく分からない。


「私はソウジ様の意見に賛成します」


 問いかけようとしたソウジの先手を打つように、イルが口を開いた。


「ハブ・プロットルの件で反省したのです。私はソウジ様を(おもんばか)っているように見えて、その実、ソウジ様の意見を全く尊重しておりませんでした。なので、これからも意見は申しますが、最終的な判断は旅のリーダーであるソウジ様に従うこととします」


「えっ、俺がリーダーなの?」


「ええ。ソウジ様がどう思われようと私はあくまで従者の身ですので」


 お辞儀をするイルに乗っかって、なぜかカナエもお辞儀をする。


「じゃあソウジくんが暫定ギルドリーダーということで」


「かしこまりました」


 聴兎職員はそれを聞くなり即座に手を動かしはじめる。


「え、いや、別にいいですけど……」


 ソウジが止める隙もなく、ギルド登録手続が進行してしまった。今更やめられるような空気でもないし、いっそこのまま進めてしまおうとソウジは思った。


「それでは、ギルド名はいかがいたしましょうか」

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