44~運営さんはお仕事だ~
いつもお読みいただきありがとうございます。
居眠り女主人公、今回はお出かけしてます。
「今年は雨が少ないな」
運営さんが早朝の空を見てつぶやく。
確かに夏になっても、雨が降ったかなんて、片手で数えられるくらいの記憶だ。
しかも昼間には降らないからか、暑さが厳しい。
朝方は何となく湿っている空気がするときもあるけれど、どうなのかな。
夜にふっているようにはあまり思えない。
この家や拠点は、水不足は起こらないけれども、まだ周りは水不足で、野菜が高いのだそう。
拠点で育てている野菜持ってくればいいから、いつもみずみずしい新鮮なもの食べているけどね。
「アイリーン、少々、上に戻ってくるので、しばらくいなくなるぞ」
「そうなの?システムを見てくるの?」
確かシステム管理だって言ってたしな。
「一度見ないといけないようだ。ほかのワールドでもどうなっているかはわからないしな」
「そうだよね。雨が降らないって大変なことだよね」
水は生きていくうえで当然なくてはいけないものだ。
それはどの世界の生物でも同じだよね。
「いってらっしゃい」
「うむ」
運営さんの姿が消える。
というか、抜け殻だけ残されたというのが正しいのか。
シツジローくんに部屋に連れ帰るように言う。
しばらくとはどれくらいだろうか。
いつも一緒にいたから、いないと少し寂しい気がする。
でも考えてみたら、地球ではずっと一人暮らしだったのだから、今はメイちゃんやシツジローくんがいるだけでもさみしくはない。
でもやっぱり少し寂しいかな。
メイちゃんが朝食の用意を始めたころに、なぜかサカイさんが来る。
草むしりをして、ご飯を食べて出勤だ。
何を当たり前のように毎日来るのだろうか。
「あれ?今日はデュース師匠はいらっしゃらないのですね」
相変わらずのがつがつしているの朝食時、不意にサカイさんが言い出した。
結構食べた後に気付くとか、遅くないか?
「用事があって出かけてる。しばらく帰ってこないわよ」
「デュース師匠も、たまには出かけるときがあるのですね。いつもは部屋にこもって何かしている感じでしたが」
「ああ・・・、仕事があるのよ。プレイヤー国の仕事は、距離があってもできるからね」
「魔道具ですか?」
「そうね」
ここに来た当初、もし仕事がどうとか聞かれてしまったら、いうことは決めてあった。
わたしはともかく、運営さんはね、この世界を見守る仕事があるからね。
「あなたもさっさと行きなさいよ」
「ごちそうさまでした。メイさん、今日もありがとうございます」
「おそまつさまでした。そろそろ生垣も、手入れが必要なんですよね」
普段はシツジローくんがやってくれているけどね
「休みにやります!」
ご飯のためだけに労働力を提供する男、サカイ・・・
メイちゃんにいいように転がされているわね。
あの生け垣は、中に意志がある子がいるから、一筋縄ではいかないけどね。
運営さんもいない。
サカイさんはいなくてもいい。
暇だ。
寝てしまってもいいのだけど、寝てしまうといつ起きられるかわからない。
毎日起きているほうが正常なのだけど、どうも寝る時間があまり短くなってない気がする。
「お嬢さま、本日はどうなさいますか」
「うーん・・・そういえば、まだほかのとこっていってないよね」
どこの施設もほぼ見て回ってないや。
この国に最初に来たときは、図書館に行こうとも思っていたのに、いまだに行かない。
「王立図書館に行きたいわ」
「承知いたしました」
メイちゃんもシツジローくんもついてくるという。
まあ私ひとりじゃ無理だからね。
支度が終わって、図書館への道。
ギルドや役所がある場所へと同じような道だ。
公共の建物はみなこの方面にあるのだという。
図書館はひときわ大きな建物だった。
そういえば、ゲームでもこんな大きな建てものだったな。
ゲームの中の王都の図書館は、エルフが職員をしている。
文書館などもだ。
緑の知恵者と呼ばれる彼らだからこそなのだろう。
中には自由に出入りができる。
本の閲覧も自由だ。
盗難防止の魔法がかけてあるので、外には出せない。
わたしたちプレイヤーは、というよりゲーム内では、本を手に取って、パラパラとめくるだけで、スキルや魔法が手に入る本があった。
それを伸ばすのは本人次第だ。
全部基本の魔法やスキルは取っているから、もう見ることなんてないけど、見たことにないものはたくさんあるはずだ。
この国の歴史とかも楽しそうだ。
識字率はそんなに高くないはずなのに、製本技術は発達しているようだし、壁だけでなく、本棚にはぎっしりと本が並んでいる。
「どれがいいかな」
人がまばらな図書館内では、静かだ。
一日本を読むのもいいかもしれないけど寝そうだな。
地球にいたころは、本なんてほとんど読まなかったな。
資格試験の本は読んだか。
仕事仕事で、娯楽がゲームだったなあ。
「こんにちは、何かお探しですか」
ふいに話しかけられて、そちらを見る。
エメラルドグリーンの髪の毛、銀色の瞳、真っ白な肌の背の高い青年だ。
服装が図書階位の職員の服装だった。
「えろ・・・ふ?」
わたしはゲームの中のキャラクターに似た、その図書館職員の顔を見て驚いた。
確か、図書館に行くと、必ず話しかけてくるNPCが、エロルフという名前だった。
なぜかいつも持っている本が、女性の水着の本だったので、私はそのNPCのことは、エロフと呼んでいた。
そっくりだ。
「どなたでしょうか、そんな名前ではありませんが」
そりゃそうだよね。
あれはゲームの世界だ。
「知り合いに似てたので、すみません」
違うとわかっているけど、つい口に出てしまう。
考えてみたら、この王都はゲームの中でだって来たことがあるのだから。
何年たっているのかわからない世界だけど。
「それで・・・本をお探しでしたか?」
「あ・・・そうだった。歴史の本とかないかなと思いまして。伝承とか」
「それならこちらです」
連れてこられた本棚は、この星の伝承がたくさん並んでいた。
お礼を言って、選び始める。
中でしか読めないとはいえ、複製魔法かければ持ち出せるんだよね。
犯罪だからやらないよ?
本を一冊とって椅子に座って読み始める。
その間は、メイちゃんもシツジローくんも外に出て、家のことをやるらしい。
昼と夕方迎えに来るという。
寝なければ夕方になるまでには伝承などは読めるだろうな。
なかなか面白いし。
図書館の静かな時間の中、ページをめくる音だけが聞こえて、一日が終わる。
たまにはこういう日もいいな。
でも早く運営さんには帰ってきてほしいな。
毎週水曜日更新しています。今回はいつも通りの長さです。
まだまだ続きます。




