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元悪役令嬢ですが、夫が二人になりました。どちらも私に執着しています  作者: すなな


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47_覚えている

別館に足を踏み入れた。


本館から離れているせいか、皇太子の住まいにしては静かだった。

玄関広間も華美ではなく、落ち着いた色の木材と石でまとめられている。


アルベルトは中へ入ってすぐ、嫌な感じがした。

馬車の中で、レオンはここを自分が普段使っている別館だと言っていた。


「お二人のお部屋へご案内いたします」


使用人の一人が前へ出た。


「お願いいたします」


セレナが答え、そのまま歩き出す。

使用人より先に。

玄関広間を抜けて廊下へ入り、分かれ道へ差しかかると、セレナは迷わず右へ曲がった。


「セレナ嬢」


レオンに呼ばれ、セレナが振り返る。


「はい?」

「そっちだと思う?」

「え?」


そこで初めて、案内役の使用人が後ろにいることに気づいたらしい。


「……違いました?」

「いや、合ってるよ」

「まあ」


セレナは自分が歩いてきた廊下を振り返った。


「どうして分かったのかしら」

「なんでだろうね」


レオンは笑った。


「建物の造りでしょうか」

「かもね」


それ以上は何も言わなかった。

今度は使用人が先に立ち、セレナもその後についていく。


アルベルトはその場に一瞬だけ残った。

レオンを見る。


「何?」

「……別に」


歩き出す。

さっきまで曖昧だった嫌な予感が、少しだけ形を持っていた。


たぶん。

ここだ。


用意されていた部屋へ荷物を置き、別館の中を簡単に案内してもらう。

書斎や客間を見て回り、食事の間へ案内されたところで、セレナが壁際へ目を向けた。


「食器はこちらですのね」

「はい。そちらにございます」


使用人が答える。

セレナが瞬きをした。

扉の閉じた棚がいくつか並んでいる。外から中身は見えない。


「……またですわね」


セレナは自分でも不思議そうだった。


「なぜかしら」

「開けてみれば?」


レオンが言った。


「開けるんですの?」

「気になるんでしょう?」


セレナは少し迷ってから取っ手へ手をかけた。


扉を開く。

食器が並んでいた。


「本当にありましたわ」

「合ってたね」


レオンは笑った。


アルベルトはもう、棚を見ていなかった。

レオンを見ていた。


驚いていない。

むしろ、セレナの反応を見ている。


やっぱり。

ここだ。

理由なんて聞かなくても分かった。

セレナは、この家を知っている。

覚えていないだけで。

胸の奥がざわついた。

案内の途中、窓の向こうに庭が見えた。


「少し出ても?」


セレナが尋ねる。

使用人が頷くと、セレナは部屋の奥にある扉を見た。

いくつかある扉の中から一つを選び、そちらへ近づく。


「こちら……かしら」

「そう思う?」


レオンが聞いた。

セレナは取っ手に触れたまま振り返る。


「ええ。なぜか」

「じゃあ、開けてみたら」


アルベルトはレオンを見た。


さっきからずっと。

こうだ。

答えは言わない。

けれど、セレナが何かを感じるたびに、その先へ進ませる。


セレナが扉を開いた。

風が入り込み、銀色の髪を揺らす。

庭だった。


「……またですわ」


セレナが小さく笑った。


「本当に不思議」

「そうだね」


レオンも笑う。

その顔を見た瞬間、腹が立った。


「アル」


セレナが庭から振り返る。


「行きましょう」

「うん」


返事だけして、その場に残る。

レオンもまだ動いていなかった。


「レオン」

「何?」

「君、何してるの」


レオンがこちらを見る。


「何って?」

「分かってるだろ」


セレナに聞こえないよう声を落とした。


「わざとやってるよね」

「オレは何も教えてないよ」

「そういうことじゃない」


思わず声が強くなり、すぐに抑える。


「思い出させたいの?」


少しの沈黙があった。

レオンは否定しなかった。

庭にいるセレナへ目を向ける。


「……勝手なことしないでよ」

「勝手?」


レオンがこちらを見る。

アルベルトは口を開いた。

けれど、続きが出なかった。


思い出させるな。


喉まで出かかった言葉を飲み込む。

言えなかった。


腹が立つ。

怖い。

今はまだ、セレナは何も覚えていない。

それでもこの家を知っている。


もし、この先まで辿ってしまったら。

扉の向こうにあるものが、庭だけではなくなったら。


「アル?」


セレナの声がした。

振り返ると、不思議そうにこちらを見ている。


「どうかなさいました?」

「……何でもないよ」


アルベルトは笑って、庭へ出た。

隣まで行くと、セレナが自然に手を差し出してくる。

その手を取れば、いつも通りに握り返された。

少しだけ安心した。

後ろからレオンが歩いてくる。

アルベルトは振り返らなかった。

ただ、セレナの手を離さなかった。

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