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元悪役令嬢ですが、夫が二人になりました。どちらも私に執着しています  作者: すなな


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34_疑わない

夜も随分と深くなっていた。

アルベルトは一人、長椅子に座って本を開いていた。

けれど、もう随分前から頁は進んでいない。文字を追っても、気づけば夕方に見た名前を思い出している。


アルベルト・エルグラン。


毒の原料を購入した者として、自分の名前が記されていた。

もちろん、買っていない。

誰かが名前を使ったのか。記録そのものに細工があるのか。

それはこれから調べればいい。


分かっているのに。

セレナがどう思ったのかだけが、妙に気になった。

夜会で使われた酒や食器を調べるため研究室へ行ったあと、王へも報告すると言っていた。

当然自分の名前のことも話しているだろう。


そのとき、廊下から足音が聞こえた。

アルベルトは反射的に本へ視線を戻す。

ほどなくして扉が開いた。


「ただいま戻りました」

「おかえり」


セレナが部屋へ入ってくる。

長い時間、研究室にいたせいか少し疲れているようだった。

抱えていた資料を机へ置き、小さく息を吐く。


「遅かったね」

「ええ。思っていたより時間がかかってしまいました」

「何か分かった?」

「いいえ。今のところは何も」


セレナは椅子へ腰を下ろした。


「陛下へのご報告も済ませてまいりました」


アルベルトの指が止まる。


「……僕のことも?」

「もちろんですわ」

「何て?」

「今のところは内々に調べることになりました。まだ外へ話が出ているわけでもありませんし、商会からの返答もありませんもの」

「……そっか」

「ですから、アルもあまり気になさらないでくださいな」

「……うん」


セレナは何事もなかったように、持ち帰った資料へ手を伸ばした。

その横顔を見ているうちに、アルベルトは堪えきれず口を開いた。


「……僕が買ったと思わないの?」

「毒を?」

「うん」


セレナはきょとんとした。


「買っていないのでしょう?」

「……うん」

「では、何を気になさっているんですの?」


アルベルトは黙った。

本当に。

最初から疑っていない。

そのことが分かった途端、胸の奥が温かくなった。


嬉しい。

どうしようもなく。


けれど。

同じところが。

少しだけ痛んだ。


一度目も。

毒だった。

セレナは何度も、自分はやっていないと言っていた。

それなのに。

自分は信じなかった。


今なら分かる。

何もしていないのに。

一番信じてほしい人に疑われることが。

どれほど苦しいのか。


「……」


セレナが自分を信じてくれることが嬉しいほど。

あのときのことが苦しくなった。


「アル?」


顔を上げる。

セレナが不思議そうにこちらを見ていた。


「どうかなさいました?」

「……ううん」


アルベルトは笑った。


「何でもないよ」


本を閉じて立ち上がる。

そのままセレナのところまで歩いていき、後ろからそっと抱きしめた。


「アル?」


肩へ顔を寄せる。


「……ごめんね」

「何がです?」


分からなくていい。

あのとき。


信じなくて。

ごめん。


抱く腕に、少しだけ力を込めた。


「セレナ」

「はい?」

「大好き」


腕の中で、セレナが僅かに動いた。

アルベルトはもう少しだけ頬を寄せる。


「……大好きだよ」


セレナの手がアルベルトの腕に、そっと重なった。

その温かさにアルベルトは静かに目を閉じた。

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