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元悪役令嬢ですが、夫が二人になりました。どちらも私に執着しています  作者: すなな


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33_悪役令嬢

一回目の人生で、セレナは『悪役令嬢』と呼ばれていた。


「……悪役令嬢?」


レオンが聞き返す。


「うん」


最初に誰がそう呼んだのかは覚えていない。

けれど、一度広まってからは誰もが当たり前のようにその言葉を使っていた。


「一回目の王都で、流行ってた小説があったんだ」

「小説?」

「恋愛小説。僕も読んだことはないけど、かなり流行ってた」


身分の低い少女が王子と恋に落ちる。

けれど王子には、美しい高位貴族の婚約者がいた。

婚約者は少女を嫌い、嫌がらせを繰り返す。

最後には悪事を暴かれ、処刑される。

そして王子と少女は結ばれる。


「その婚約者が、『悪役令嬢』って呼ばれてた」

「へえ」


当時は何とも思わなかった。

王都で流行っている、ただの恋愛小説。


自分には関係のない話だと思っていた。

けれど。


今になって並べてみると。


「……僕たちみたいだね」


口にしてから、アルベルトは眉を寄せた。


「王子がいて、身分の低い女の子がいて、その王子には高位貴族の婚約者がいる」


レオンの表情から、わずかに笑みが消えた。


「それで婚約者が少女を害して、最後には処刑?」

「うん」

「……似てるな」

「でしょう?」


王子は自分。

身分の低い少女はリリア。

その王子の婚約者は、セレナ。

そして最後には。

セレナも処刑された。

こうして口にしてみると、気味が悪いほど似ている。


「でも、考えてみたら変なんだ」

「何が?」

「どうしてみんな、セレナよりリリアを信じたんだろう」


アルベルトが僅かに首を傾けた。


リリアは、むしろ社交界で浮いていた。

男爵令嬢だったから、というだけではない。

礼儀や振る舞いで失敗することも多く、王宮での信用もほとんどなかった。


一方で、セレナは違う。

公爵令嬢として幼い頃から教育を受け、王宮の実務にも関わっていた。

仕事ができた。

官僚や貴族からの信頼も厚かった。

それは、一回目の人生でも同じだった。


「今なら」


アルベルトは自分の手を見た。


「セレナとリリアが正反対のことを言ったら、まず調べると思う」

「まあ、普通はそうだろうね」

「うん」


どちらかが嘘をついていると決めつける前に、証拠を見る。

証言を確認する。

それが普通だ。


まして、セレナにはそれまで積み重ねてきた信用があった。


なのに。

一回目は、そうならなかった。


「セレナは何て言ってた?」


レオンに聞かれて。

アルベルトは、少し黙った。


覚えている。

忘れられるはずがない。


『わたくしではありません』


何度も聞いた。

証拠がおかしい。

調べ直してほしい。

自分はリリアを害していない。

セレナは最後まで、そう言っていた。


それなのに。

否定すればするほど、周囲の目は冷たくなっていった。


罪を認めない。

反省していない。

リリアをあれほど苦しめておきながら。

言い訳ばかりする。

そして。

誰かが言った。


『まるで、あの物語の悪役令嬢だ』


いつだったのか。

誰だったのか。

そこまでは覚えていない。


ただ、一度その言葉がついてから。


何もかもが、そこへ当てはめられていった。

セレナがリリアを避ければ。

嫌っているからだと言われた。

注意すれば。

身分を笠に着て虐めていると言われた。

否定すれば。

罪を認めない悪役令嬢だと笑われた。


何をしても。

同じだった。


「……僕もだ」

「何が?」

「そういう目で見てた」


口にした途端、胸の奥が冷えた。

自分だけは違った、とは言えない。

一番近くでセレナを見てきたはずなのに。

周囲がセレナを悪役だと言えば、その言葉に合うところばかりを見た。


「……なんで僕、信じたんだろう」


リリアが泣いていた。

証拠もあった。

だから信じた。

ずっと、そう思っていた。

けれど。

セレナだって。


泣いていた。


違うと。

自分ではないと。

何度も言っていた。


それなのに。

自分は、そちらを信じなかった。


「周りがみんな、セレナはそういう人間だって言ってたから」


アルベルトはぽつりと呟いた。


「僕も、そう見えるようになってたのかな」


レオンは何も言わなかった。

慰めもしない。

否定もしない。

ただ、黙ってアルベルトを見ている。


それでよかった。

今さら何を言われても、あのとき自分がしたことは変わらない。

アルベルトは机へ視線を落とした。


しばらく部屋には紙をめくる音さえなかった。

その沈黙の中で。


ふと。

アルベルトは眉を寄せた。


「……でも」

「何?」

「二回目は違った」


顔を上げる。


「セレナは、悪役令嬢なんて呼ばれてなかった」


リリアはいた。

セレナもいた。

自分もいた。

毒の事件まで起きた。

それなのに。

あの呼び名だけがなかった。


「小説は?」


レオンに聞かれて、アルベルトは記憶を探った。


「……分からない」


二回目にも出版されていたのか。

流行っていたのか。

覚えていない。

当時は、そんなものを気にする理由がなかった。


ただ。

一回目には。

王都中が知っているほど、あの物語は流行っていた。


そして。

その物語とよく似た形で。

セレナは『悪役令嬢』になった。


「……偶然かな」


レオンは答えなかった。

アルベルトも。

まだ、それ以上は考えなかった。








____________________________________



(関連話)


セレナが処刑された日はこちら↓


「処刑まであと7日。悪役令嬢はもう何もしません」第一話:処刑まであと7日

https://ncode.syosetu.com/n9800mo/1

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