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元悪役令嬢ですが、夫が二人になりました。どちらも私に執着しています  作者: すなな


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32_ひとり



「……一回目も、ヴォルターだったんだよね」


アルベルトが呟くと、レオンは手元の資料から顔を上げた。


「リリア・エヴァンス嬢の毒?」

「うん」


一回目も二回目も。

リリアが毒を飲むところまでは、同じだった。


違ったのは、そのあとだ。

一回目の自分は、セレナが毒を盛ったのだと決めつけた。

調べ直そうともしなかった。

けれど二回目では審問のあとに事件を洗い直したことで、裏でヴォルターが手を引いていたことが分かった。


つまり、一回目も。

何も知らないままセレナを処刑したあの人生でも、ヴォルターは、最初からそこにいた。


一回目も二回目も、リリアは毒を盛られ、セレナが疑われた。

二回目は、あの審問で調べ直したことでヴォルターが裏で手を引いていたと分かった。


けれど一回目は、その先を調べていない。

セレナがやったのだと、自分が信じてしまったから。


「君は二回目のとき、ヴォルターについてどこまで調べたの?」

「事件に関係するところまで」

「その先は?」

「調べてないよ」

「どうして?」


レオンが怪訝そうにアルベルトを見る。


「犯人が分かって、証拠も揃ったんだ。それ以上、何を調べるんだよ」

「……まあ、そうだよね」


それは今回も同じだった。

小麦の件ではヴォルターを捕らえ、関わった商人たちも分かった。市場には小麦が戻り、事件は解決した。

そこで終わるのが普通だ。

それでも。


「前から、少し引っかかってたんだ」

「何が?」


アルベルトはヴォルターについてまとめられた資料を引き寄せた。


「本当に、ヴォルターだけだったのかな」


レオンの目が僅かに細くなる。


「誰かがいたって?」

「分からない」

「分からないのに疑ってるの?」

「だから調べるんだよ」


アルベルトは資料を開いた。

複数の商会を使った買い付け。

分散された保管場所。

一つを辿っても、簡単には全体が見えない金の流れ。

事件の最中には、用心深い相手だとしか思わなかった。


けれど。


「ヴォルターは他国の侯爵だろ」

「そうだね」

「商人との繋がりがあるのは分かる。でも、エルグランの王宮や公爵家がどう動くかまで、あんなにうまく読めるものなのかな」


レオンは資料を受け取り、何枚かめくった。


「できないとは言えない」

「うん。僕もそう思う」


ヴォルターには金も人脈もある。

セレナが邪魔になる理由もあった。

本人が慎重だっただけで、十分に説明はつく。

だから、アルベルトも誰かがいると決めつけるつもりはなかった。


「考えすぎかもしれないね」

「珍しく弱気だな」

「証拠がないからね」

「お前の口からそれ聞くと感慨深いな」

「……どういう意味?」

「そのままの意味」


レオンは笑っている。


「人って変わるんだなと思って」

「喧嘩売ってる?」

「褒めてる」

「その顔で?」

「いい顔だろ?」

「腹立つ顔だよ」


レオンが楽しそうに笑う。

腹が立つ。

アルベルトは資料を取り返した。


「とにかく、もう少しだけ調べてみる」

「何を?」

「ヴォルターが誰と会ってたのか。金がどこから来て、どこへ流れてたのか。その辺」

「何も出なかったら?」

「それなら終わり」


資料を閉じる。


「ヴォルターが思ってたより優秀だった。それでいいよ」

「随分あっさりしてるね」

「何もないところから犯人を作るよりいいだろ」

「成長したね」

「君に言われたくない」


レオンは笑ったまま、椅子へ背を預けた。

アルベルトは資料を机の端へ置く。

これ以上は、調べてから考えればいい。


そう思ったところで、ふと別のことが引っかかった。

一回目と二回目。

リリアが毒を飲むところまでは、同じだった。

ヴォルターも同じだった。


けれど、そのあとに起きたことまですべて同じだったわけではない。


「……」


アルベルトの指が止まった。

そういえば。


「レオン」

「何?」










一回目の人生で、セレナは『悪役令嬢』と呼ばれていた。

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