28_当たり前
レオンは目を閉じた。
腕の中に、セレナがいる。
『……少しだけですわよ』
今度は、セレナが自分自身として抱きしめられることを許した。
誰かの代わりではない。
セレナとして。
オレに触れられることを、自分で選んだ。
「……」
嬉しい。
どうしようもなく、嬉しかった。
腰へ回した腕に力を込めれば、もっと近づける。
銀色の髪へ顔を寄せれば、微かな花の香りがする。
もっと触れたい。
首筋へ唇を寄せてみたい。
そのまま離したくない。
欲しいと思えば、いくらでも次が浮かんでくる。
でも。
しない。
今、セレナが許したのはここまでだ。
腕の中でセレナが小さく身じろぎした。
レオンはすぐに腕を緩める。
けれど、セレナは離れなかった。
それだけで、また嬉しくなる。
さっきの指先を思い出した。
赤い血が滲んだのを見た瞬間、考えるより先に口へ含んでいた。
『いいえ。驚いただけですわ』
嫌ではないと言われた。
その言葉だけが、妙に残っている。
頬へ触れてくれた手もそうだった。
嫌ならいい。
そう言って手を離せば、セレナは自分で残ることを選んでくれる。
あの夜の自分を知っているから、弱っている今は放っておけないだけなのかもしれない。
分かっている。
分かっていて、甘えている。
本当は触れてはいけない立場なのも、知っている。
それでも、もう遠慮するつもりはなかった。
欲しいなら、聞けばいい。
嫌ならやめる。
それは変わらない。
でも。
一度許されたことは、次には少し頼みやすくなる。
二度目は、一度目ほど迷わない。
何度も繰り返せば、それはきっと特別なことではなくなっていく。
頬へ触れることも。
手を重ねることも。
こうして抱きしめることも。
少しずつ。
セレナの中で、自分に触れられることを当たり前にしてしまえばいい。
レオンはしばらくその温度を感じてから、ゆっくりと腕を解いた。
セレナが少し意外そうに見上げる。
「もうよろしいんですの?」
「うん」
「落ち着きました?」
「すごく」
レオンは笑った。
「ありがとう」
セレナも少しだけ笑う。
それでいい。
今日はここまで。
「でしたら、きちんとお休みくださいませ」
「分かった」
「本当ですの?」
「今日は素直に聞くよ」
「いつもそうしてくださいませ」
セレナが寝台から離れていく。
レオンはその背中を見送りながら、先ほどまで腕の中にあった温度を思い出した。
今日はここまで。
次は、もう少し。
そうやって一つずつ増やしていけばいい。
頬へ触れることも。
手を重ねることも。
抱きしめることも。
何度も繰り返して。
そのうち、セレナがいちいち迷わなくなるくらい。
触れることが、当たり前になればいい。
そのときにはきっと、今よりもう少し先まで自然に手を伸ばせる。




