26_僕にも
朝食の席に、セレナが少し遅れてやってきた。
「お待たせしました」
アルベルトは顔を上げる。
「おかえり」
「ただいま戻りました」
セレナが向かいへ座った。
「……熱、どうだった?」
「昨日よりは下がっておりましたわ」
「そっか」
「まだ平熱ではありませんけれど。顔色もよくなっていましたし、少し安心いたしました」
「よかったね」
「ええ」
セレナが笑う。
嬉しそうだった。
アルベルトは手元のパンへ視線を落とした。
パンを、ちぎる。
分かっている。
レオンが心配なだけだ。
毒を盛られて、何日も熱が続いている。
何の毒なのかも分からないのだから、心配するのは当たり前だ。
朝から様子を見に行ったことだって、何もおかしくない。
ちぎる。
昨日、レオンの頬に触れていた。
その手に、レオンが頬を擦り寄せていた。
ちぎる。
夜には、二人の手が重なっていた。
『嫌?』
『嫌ではありませんけれど』
嫌じゃないんだ。
レオンにあんなふうに甘えられても、セレナは嫌じゃない。
ちぎる。
でも、だからって何を言うつもりなんだ。
レオンに触らないで?
会いに行かないで?
そんなこと、言えるわけがない。
セレナは何も悪くない。
自分が我慢すればいい。
ちぎる。
「今日もレオンのところへ行くの?」
「ええ。あとで医師のお話も伺うつもりですわ」
「……そっか」
行くんだ。
また、会うんだ。
もしかしたら、また触るのかな。
レオンが甘えたら。
また、許すのかな。
ちぎる。
駄目だ。
考えない。
セレナが誰に優しくするかは、セレナが決めることだ。
僕じゃない。
だから。
我慢しないと。
ちぎる。
自分の嫉妬で、セレナを困らせたくない。
レオンに会わないでなんて言わない。
触らないでとも言わない。
僕が我慢すればいい。
それだけだ。
ちぎる。
「……アル」
「何?」
「もう、ちぎれませんわよ」
「え?」
手元を見る。
皿の上には、細かくちぎられたパンが山になっていた。
「……」
いつの間に。
アルベルトは指先に残った小さな欠片を見つめた。
でも。
我慢しないと。
セレナは何も悪くない。
僕が。
我慢すればいい。
「……セレナ」
「はい?」
顔を上げる。
「僕にも触って」
我慢できなかった。




