25_寝たふり
もちろん、眠ってなどいない。
最初から起きていた。
セレナが部屋へ入ってきたときから分かっていた。
近づくにつれて濃くなる、微かな花の香り。
忘れるはずがない。
セレナだ。
額へ手が触れた瞬間、その手首を掴んで引き寄せた。
腕の中へすっぽりと収まった身体から、銀色の髪が頬へ触れる。
花の香りが近い。
懐かしい。
何度も、こうして抱いていた。
朝も、夜も。
眠る前も、目を覚ましたあとも。
「……愛してる」
ずっと言いたかった。
もう一度。
君に。
『本当に、お好きなんですのね』
少し、笑いそうになった。
そうだよ。
君が好きだ。
ずっと、君だけを愛している。
銀色の髪へそっと顔を寄せると、懐かしい香りがさらに濃くなった。
このまま離したくない。朝になっても、その次の朝も、当たり前みたいに自分の隣にいてほしい。
アルベルトのところへ、帰したくない。
――オレのところに、戻ってきて。
腕の中でセレナが身じろぎした。
レオンは腕を緩める。
けれど。
セレナは離れなかった。
そのまま胸へ頬を預けている。
「……」
もう一度抱きしめる。
今度はほんの少しだけ強く。
髪へ顔を寄せ、花の香りを深く吸い込んだ。
もっと触れたい。
この腕の中にいるだけでは、もう足りなくなりそうだった。
それでも。
今は、ここまで。
あの夜とは違う。
間違えていない。
今、ここにいる君が欲しい。




