24_少しだけ
朝。
セレナは約束通り、レオンの部屋を訪れた。
扉を叩く。
「レオン様?」
返事はない。
「入りますわよ」
そっと扉を開けると、レオンはまだ眠っていた。
黒い髪が寝具の上に散っている。昨夜より顔色はいいように見えて、セレナは少し安心しながら寝台のそばへ近づいた。
「レオン様」
小さく呼んでみても、反応はない。
起こすのも可哀想だけれど、熱だけは確認しておきたい。
少し屈んで額へ手を伸ばす。
昨日より、少し低い。
ほっと息を吐いた、そのときだった。
突然、手首を掴まれた。
「え?」
ぐっと引かれ、身体が寝台へ傾く。
「きゃっ……レオン様!?」
背中へ腕が回り、気づけばレオンの胸元へすっぽりと抱き込まれていた。
「ちょっと、レオン様……」
「……ん」
頭の上から、眠そうな声が落ちてくる。
「起きていらっしゃいます?」
返事はない。
聞こえるのは規則正しい呼吸だけだった。
「レオン様」
困って胸を押してみても離れない。
むしろ抱く腕に少しだけ力が入り、さらに身体が近づいた。
ふわりと香りがする。
いつもレオンが身に纏っている、甘さの奥に深い香木の混じった香り。
「……もう」
どうやら、寝ぼけているらしい。
どうしたものかと考えていると、耳元に掠れた声が落ちた。
「……愛してる」
セレナの動きが止まった。
自分に向けられた言葉ではない。
分かっている。
あの人だ。
『オレの愛する人に、似てたから』
『もう、会えなくて』
『会いたい』
あの夜、声も出せないほど泣いていた。
きっと今も、夢の中でその人を抱いているのだろう。
「……本当に、お好きなんですのね」
返事はない。
ただ、自分を抱く腕だけが温かかった。
レオンの香りに包まれながら、セレナは目を伏せる。
これを無理に振りほどいてしまうのは、なんだか可哀想な気がした。
「少しだけですわよ」
身体から力を抜くと、頬がレオンの胸元へ触れた。
とくん、とくん。
耳元で規則正しい鼓動が響いている。
この人が少しでも穏やかな夢を見られるのなら。
今くらいは。
いいのかもしれない。




