↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元悪役令嬢ですが、夫が二人になりました。どちらも私に執着しています  作者: すなな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/40

23_甘える

夜。


セレナは眠る前に、もう一度だけ様子を見ておこうとレオンの部屋を訪れた。

医師は命に別状はないと言っていた。

けれど、何の毒なのかはまだ分かっていない。

昼には一度下がった熱も、また上がった。

安心できるはずがなかった。

扉を叩く。


「レオン様?」


返事がない。


そっと扉を開けると、レオンは寝台に横になっていた。眠っているのかと思ったけれど、近づく前にゆっくりと目が開いた。


「……セレナ嬢?」

「起こしてしまいました?」

「いや」


レオンが瞬いた。


「来てくれたんだ」

「お加減はいかがですの?」

「たぶん、まだ熱い」


セレナは寝台のそばまで行き、額へ手を当てた。

やはり熱い。


「まだ下がっていませんわね」

「うん」


レオンが目を細める。

額に触れていた手へ自分の手を重ね、そのまま頬へとずらした。


「……レオン様?」

「やっぱり、気持ちいい」


セレナは瞬いた。

昼間と同じだった。


「そんなに気に入ったんですの?」

「うん」


熱を持った頬が、少しだけ手のひらへ擦り寄ってくる。


「……本当に甘えん坊ですのね」


レオンが薄く笑った。


「嫌?」


また、それだ。

セレナは困ったように眉を下げた。


「嫌ではありませんけれど」

「そっか」


嬉しそうに目を閉じる。

いつも余裕そうにしているこの人が、こんなふうに素直に甘えてくることを、少し前までセレナは知らなかった。


けれど、あの夜を知ってしまった。

熱に浮かされ、自分ではない誰かを求めていたことも。

その人ではないと分かったあと、目の前で泣いたことも。


『会いたい』


あの声を、まだ覚えている。

だからなのかもしれない。

弱っているレオンを、無下にできなかった。

やがてレオンは頬からセレナの手を離すと、そのまま自分の手のひらを重ねた。

セレナは何も言わない。


その手の中でレオンの指が動き、セレナの指の間へゆっくりと入り込んでくる。


「……レオン様?」


声が、僅かに変わった。

レオンの指が止まる。

セレナを見て、何も言わずに指をほどいた。

ただ手のひらを重ねるだけに戻す。


「これなら?」


セレナは少しだけ迷った。

けれど、手は引かなかった。


「……少しだけですわよ」

「うん」


レオンが目を閉じる。

重なった手のひらから、セレナの体温が伝わってくる。


今日は。

ここまででいい。


「……セレナ嬢」

「何ですの?」

「明日も来て」


そのとき、扉が叩かれた。


「セレナ?」


聞き慣れた声に、セレナが振り返る。


「アル?」


扉が開き、アルベルトが顔を覗かせた。


「やっぱりここにいた」

「どうなさいましたの?」

「セレナを迎えに来た」


そう言いながら部屋へ入ってきたアルベルトが、不意に足を止めた。

寝台のそばに座るセレナと、その手に重ねられたレオンの手。

アルベルトの表情が僅かに歪む。


「……ずいぶん、元気そうだね」

「病人だよ」

「そうは見えないけど」


レオンが笑う。


「熱はあるよ」

「ふうん」


セレナは小さく息を吐いて、レオンから手を離した。


「では、わたくしは戻りますわ」

「もう?」

「アルも迎えに来ましたし」

「もう少しいるって言ったのに」


セレナが困ったように眉を下げる。


「明日の朝、また参りますから」

「本当?」

「ええ。お熱も気になりますもの」

「そっか」


レオンは笑った。


「じゃあ、待ってる」


アルベルトの目が僅かに細くなる。

セレナは気づかない。


「では、今夜はきちんとお休みくださいませ。何かあれば、すぐに従者を呼んでくださいね」

「分かった」


いつになく素直な返事に、セレナは少し安心したように笑った。


「おやすみなさいませ」

「おやすみ、セレナ嬢」


セレナが扉へ向かい、アルベルトもそのあとを追う。

けれど部屋を出る直前、アルベルトだけが振り返った。

レオンと目が合う。

レオンは笑った。

アルベルトは笑わなかった。

そのまま扉が閉まる。


静かになった部屋で、レオンは自分の頬へ触れた。

まだセレナの手の感触が残っている。


せっかく、もう少しいてくれるはずだったのに。


また。

アルベルトだ。


レオンは目を閉じる。


けれど。

明日の朝も、セレナは来る。

(おまけ)

あったかもしれない未来

挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。