ただいまのあとで。1
校舎から寮へと伸びる、まっすぐな一本道。
夕暮れどきの空は、俺の心とは反対に雲一つない。
春特有の生ぬるい風が頬にまとわりつく。汗ばんだ制服が肌に張り付き、不快感だけがジワリと残る。
重い足を一歩。また一歩と前へ運んだ。
10分ほど歩き続けると、ようやく目的地である白壁の3階建ての学生寮が見えてきた。
入り口では、何人かの生徒たちが輪になって談笑していた。その笑い声だけが、まるで水の中にいるように、くぐもって聞こえた。
足早に横を通り過ぎ、開きっぱなしのドアをくぐる。
正面にある階段の手すりに手をかけた。一段上るたびにギィ、と古びた階段が軋む。
見慣れた部屋の扉の前で立ち止まる。
カバンの奥にある鍵を探す気力すら湧かず、代わりに力任せに数回、ドアを拳でたたいた。
「はいはーい。ちょっと待ってね~」
部屋の中から、聞きなじんだ明るい声が聞こえてくる。
バタバタと足音が近づいてきたかと思うと、ガチャと鍵が回る。ゆっくりと開いたドアの隙間からひょこっと顔が現れる。
「あ、雪斗だ。おかえりー!遅かったから心配したんだよ?」
出てきたのは、ルームメイトの桜井諒だ。俺と目が合うと、花が咲いたような満面の笑みを浮かべる。
ふわふわなくせ毛の茶髪を揺らし、まん丸の瞳をきらめかせる彼は、高校に入って初めてできた友達。
慣れない毎日の中で、自然と隣にいてくれた唯一の存在だった。
「た…だいま……」
かすれた声で小さくつぶやくと、限界まで張っていた糸がぷつりと音を立てて切れた。全身から一気に力が抜けていく。ぐらりと視界が大きく傾き、冷たい床が視界いっぱいに迫る。
__倒れる。
そう思った瞬間、強く抱き寄せられた衝撃とともに、諒の腕が俺の体をがっしりと受け止めた。
「ちょっと、雪斗!?……うわっ、ここで倒れちゃ……だめ!」
細い腕のどこにそんな力があるのか。彼は必死に俺の腰に手を回し、ずるずると引きずるように部屋の中へと運んだ。
そのまま近くのソファーに座らせ、玄関に放置されている荷物を取りに行った。
「…少し寝てたら?夕飯出来たら起こしてあげるからさ」
心配そうな、あたたかい声が耳に届く。その言葉に甘えて、体を横に倒す。
限界をとうに超えていた意識は、すぐに暗闇へと沈んだ。




