最悪の顔合わせ。3
「……お前らさ、もうちょいなんかないわけ?」
黒崎先生が呆れたように言った。
声を発することも言葉通りに移動しようとすることもしない。決まずい沈黙が続き、気が付けば10分が過ぎていた。
この状況に飽きてしまったのか、先生は床に胡坐をかいたまま中身のなくなった缶コーヒーを左右に揺らしている。
「自己紹介くらいしろよ。これから一緒に活動することになるんだからさ」
「いや、名前知ってるし」
壁際に座っていた零が即座に返す。視線はスマホに向けられたままだ。
「知ってる”だけ”だろ」
「別に困んない」
零は露骨に面倒だと言わんばかりの顔をした。
そんな2人のやり取りを見ていた海璃君が、おびえたように小さく肩を縮める。
薫は未だに両耳にイヤホンをつけたまま。会話に入る気は微塵もないのだろう。
部屋の温度が1度、2度と下がっていくような感じがする。重苦しい空気から目をそらすように、鏡へ目をむける。
___本当に統一感がない。
鏡には四人が映っている。
それぞれが部屋の四隅を陣取り、誰一人として視線すら合わせない。
確かに黒崎先生が言っていたように、協調性は全く感じられない。
このユニットの先が思いやられる。心の中で小さくため息をついた、その時だった。ずっと会話を無視してスマホを眺めているだけだと思っていた薫が、不意に顔を上げた。
「…何もしないなら帰ってもいいですか?時間の無駄なので」
いつの間にか右耳のイヤホンを外していた薫がようやく喋ったと思ったら、一言目に出てきたのは容赦のないトゲだった。
…今までのやり取りが聞こえていたのか。立ち上がり、扉の方向へと足を向けるのを見て、俺は声をかけた。
「いや、ちょっと待ってって。せっかく集まったのに何もしないっていうのは…」
「実際今まで何もしていないでしょう。鬱陶しいんですよ、あなた」
俺が言い切るより前に、薫がゆっくりと振り返る。その瞳には零とはまた違った冷めた色がありありと浮かんでいる。イヤホンを付けなおして扉の奥へと消えていく薫を、引き留めることはできなかった。
「俺も帰る」
床をけるように立ち上がった零が、座布団がわりになっていたカバンをひっつかんで、ずかずかと部屋から出ていく。
後を追うように海璃も、バイトがあるからと申し訳なさそうに謝りながら帰っていった。
――パタンと扉の閉まる音が小さく響くと、黒崎先生は深いため息をついた。




