最悪の顔合わせ。1
次の日の放課後、俺は黒崎先生に指定された練習棟へと足を運んでいた。練習棟は授業で何度か足を運んだことがある程度。ユニットの練習もここで行うらしい。
練習前の人たちが談笑している小さな広場を抜け、指定された部屋へと足早に向かう。廊下の両側に連なった部屋のあちこちから、話し声や笑い声が漏れていた。
少なくとも、楽しそうには見えた。教室にいた時も、不満を口にしている人はほとんどいなかったし。こっちもうまくいくといいんだけど…。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか廊下の突き当りが見えてきていた。
左右に並ぶ扉を見ながら、速度を落とす。壁に並ぶ室名札を、一つずつ目で追う。
「…106…107……ここか」
今朝届いたメールと108というプレートのかかったドアを見比べ、一度深呼吸をしてから扉を押し開けた。
部屋には何も置かれていなかった。
西日が窓から差し込み、鏡張りの壁が室内を明るく映している。
静まり返った室内に足を踏み入れると、そこには先客が1人いた。同じクラスの御流薫が、壁際に座り込んでスマホの画面を見つめている。ドアが開いた音に気づいたのか、彼はこちらへ一瞬だけ視線を向けたが、すぐにまた手元へ目を落とした。
挨拶ぐらいはしたほうが良いかと距離を詰めようとしたが、彼の耳には白いワイヤレスイヤホンがはめ込まれている。クラスメイトとはいえ、話したことはほとんどない。
ただでさえ気まずいのに、イヤホンまでしている相手にわざわざ声をかけるなんて度胸は持ち合わせていない。むしろイヤホンをしてくれていて助かったと思いながら、少し離れた壁にもたれ、俺もスマホを開いた。
そのまま互いに口を開くことなく5分程経った頃、一人分の足音が近づいてきた。
「ご…ごめんなさい、遅れちゃって……!」
部屋に飛び込んできたのは、小柄でふわふわとした雰囲気を纏う青年だった。少し猫背でおどおどした姿は、何処か小動物を思わせる。じっと観察していると、息を整えながら顔をあげた彼とばっちり目が合った。
「…っ、ぅえ…?雪斗くん……⁉」
(思っていたよりも普通そうな子だ。)
「海璃君、だよね?よろしくね。まだみんな揃ってないから、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
俺がそういうと、海璃君は安心したように胸をなでおろし、部屋の奥へと進んだところでようやく薫の存在に気付いて硬直した。




