放課後の教室で。2
「お前、こっちで勝手にユニット組んだから」
あぁ、やっぱり。俺は小さく息を吐いた。
「反応うっすいなー。入学して早々退学になりそうなお前を助けてやったってのに」
「…じゃぁ泣いて喜べばよかった?頼んでないのに勝手に決めといて、感謝しろっていうほうが無理だと思うな」
「はぁ…そういうとこだ」
俺が矢継ぎ早にまくしたてると、黒崎先生は呆れた顔をした。
「そういえば、メンバーって誰なの?」
俺がそう聞くと、黒崎先生は俺の手元に視線を向けながら言った。
「早瀬零、白鳥海璃、御流薫の計4人だ。芸能科の問題児の詰め合わせセットだな」
「ひど」
「事実だ」
まぁ、強く否定ができないことは確かだけど。
早瀬零。
入学一週間で先輩と喧嘩して謹慎。
白鳥海璃。
成績は学年トップクラスなのに、人前ではほとんど声が出ない。
御流薫。
……何を考えているのか分からない。
「なんでこのメンツなの?」
「扱いに困って誰も声をかけなかった余りものたちだ。丁度いい」
黒崎先生は平然と言ってのけた。
「というかちゃっかり問題児枠に入れられてるけど。俺、問題起こした覚えないよ」
「いや自分で優等生っていうなよ、恥ずかしくないのか。お前が問題児認定される理由なんて1つしかないだろ」
その言葉に、少しだけ喉が詰まった。
何も言えないでいると、黒崎先生は視線を窓へ向けた。つられるようにして俺も視線の方向へ顔を向けた。外はちょうど夕日が沈みかけていた。
「でもまぁ、お前は完成しすぎてる。顔もいい方。演技だって学ぶことないくらいにできる。お前の希望どおり、このままいけば俳優になれることは間違いないだろうよ」
黒崎先生は少しづつ暗くなっていく空を見つめながら静かにつぶやいた。
「だがそれじゃ面白くねぇ、お前は綺麗すぎるんだ。まぁ、ある程度は売れるだろうがな」
そこで一回言葉を切る。
「雪斗、お前に足りないものは何だ?」
漆黒の瞳と目があった瞬間、心臓が嫌な音を立てた。
「だから今回のユニットは、メンバーこそ偶然だが意外とお前には合ってるかもな」
黒崎先生は俺の変化に気付かなかったかのように、そのまま話し続ける。
「全員どっかしら壊れてるんだ。どうあがいたって普通の人間にはなれない。そういうやつらほど、意外と馬が合うかも知れないだろ」
「……最低」
俺は視線を落とした。 目の前にあった袖を反対の手でしわができるくらい強く握る。
「嫌なら断ってもいいぞ」
「断ったら?」
「退学以外にあるか?」
「……じゃぁやる。たった3年耐えればいいだけだし。」
そう食い気味に返すと、黒崎先生はにやりと笑った。
「耐える…か。顔合わせは明日の放課後だ。逃げんなよ」
俺は椅子から立ち上がった。近くに放り投げていた鞄を掴み、肩にかける。
窓の外はもう日が落ちきっている。そんなに長い時間話し込んでいたようには感じなかったが、いつの間にかそれなりに経っていたようだ。
教室の扉を閉める前に一度振り返った。どうしても聞いておきたいことがあったからだ。
「黒崎先生、このユニット、売れると思う?」
黒崎先生は少し黙ったあと、面倒そうに頭を掻く。そして一言だけ返してきた。
「多分、普通じゃ終わらねぇよ」
次こそ扉を閉めて階段を下りている間も、その言葉がずっと残っていた。
”普通じゃ終わらない”
それが良い意味なのか、悪い意味なのかは分からない。
でもなぜか、その言葉だけが、不思議と胸に残っていた。




