放課後の教室で。1
放課後の教室は、昼間よりずっと広く感じる。
窓ガラスに夕日が反射して、教室を赤く染めていた。1人だけの教室で、俺は窓に面した一番後ろの席に腰かけていた。半開きの窓から聞こえてくる運動部であろう声をぼんやりと聞き流しながら、明かりのついていないスマホにうつる自分の顔を眺める。
約束の時間は、とっくに過ぎていた。しかし呼び出した張本人は現れない。いい加減帰ろうかと立ち上がった時、不意にガラリ、と教室の扉が開いた。
「雨宮」
名前を呼ぶ低い声とともに、足音が近づいてくる。俺は一瞬目を向けてからスマホを伏せて、声のする方向に体を向けた。
「黒崎先生、こんばんは。あれ、この時間じゃぁまだこんにちは、なのかな」
「どっちでもいいわ。てかお前さぁ、教師相手にその態度なんなの?まだ知り合って1ヶ月経ってないだろ」
「…敬語使ってほしい?」
「今さら敬語使われても気持ち悪ぃよ」
煙草の匂いをまとったまま、黒崎先生は俺の前に立った。
見上げなければ目が合わないほど背が高い。鋭い目付きのせいで怒っているように見えるが、それが素なのを俺はもう知っていた。元俳優という噂にも妙に納得できる顔だ。
「で、何で今日は呼び出したの?」
俺がそう尋ねると、黒崎先生は隣の席からイスを引き寄せて目の前に座った。その顔に反省している様子はない。
「呼び出された理由、なんとなく分かってんだろ」
「……ランキング?」
「違ぇ」
「退学?」
「お前意外と馬鹿だったんだな。んなわけあるか」
「褒めてる?」
「ちげーよ」
黒崎先生はポケットから紙を引っ張り出して、放り投げる。
何度も折り畳まれた跡がついていて、紙はくしゃくしゃになっていた。
破けないようにそっと開いて、真っ先に目に入ったのは太字で書かれたひときわ目立つ「ユニット編成について」という文字だった。
「ユニット……編成?」
「芸能科なら説明は聞いただろ」
「まあ、一応」
ユニット。
三年間を共にするグループ。
人気が出れば仕事も来る。逆に、どこにも所属できなければ、その時点で退学。
芸能科にいる以上、誰もが避けて通れない最初の壁だ。
「……で?」
「お前、まだどこにも決まってねぇだろ」
その肝心のユニットが__俺にはまだなかった。




