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第十八話 儀式のお知らせ




 後宮厨に付属する後宮厨食堂は、尚食局の管理の下、後宮に出仕するたくさんの者たちの胃袋を支えている。


 しかし現在、食堂は閑散とし人影も少ない。



 それもそのはず、尚儀局からの通達で今、後宮厨はほぼ稼働していない。


 近く行われる術師と公主の婚礼のための準備、という名目だ。

 しかし、後宮の主である現王が政務に忙殺されてほぼ王城外廷の私邸で過ごしている上に、公主・佳蓮が不在という状況も手伝ったのだろう。

 後宮厨の竈には、ほとんど火が入っていなかった。



「もう嫌だわ。前みたいにもっとちゃんとした温かい食事をお腹いっぱい食べたい!」


 尚服局の女官が恨みがましい目を向ければ、尚食局女官たちも負けじと言い返す。


「あたしたちが悪いんじゃないわ! 尚儀局からのお達しなんだから仕方ないでしょ。あなたたちも知ってるでしょ? 術師様の婚礼の儀が終わるまでの辛抱よ。それに、こうしてあたしたちが有志でこっそり、あつものを作っているじゃない」

「そりゃ羹はありがたいけどさ……」


 尚服局の女官たちは口を尖らせたまま湯気の上がる椀を受け取る。


「だいたい、婚礼の儀があるからってなぜ後宮厨が機能停止するのよ?」

「だって、それはほら……聞いたでしょ? 毒入り菓子事件の噂」



 尚儀局の女官が言うと、他の卓子にぱらぱらと散在していた女官たちも集まってきた。


「ああいうことが起きるって予想されていたから、後宮厨を停めたんじゃない?」

「誰かが厨の食べ物に毒を入れるってこと?」

「誰かって……新しい公主様?」

「きっとね」


 訳知り顔の尚儀局女官は、内心ほくそ笑む。

(紫珠様に言われた任務は、これで果たせる)


 上司である紫珠には、香織という公主は出自があやしい、王家乗っ取りのために送り込まれた刺客かもしれない、牽制のために悪い噂を広めるように、と言われていた。

 

「ああ怖ろしい。食べた女官方の苦しみようったら凄まじかったらしいですわ。特に玲栞様は未だ臥せっておられるとか」

「なんでも、先日後宮入りした公主様が毒入りの杏仁羹を作ったんですって」

「香織様というのでしたっけ? 公主だとわかる前は庶民向けの食堂をやっていらしたそうよ」

「毒入りの菓子をサッと作るなんて簡単にできるってことよね」

「やはり公主なんて嘘なのよ」

「苦しむ玲栞様たちを見て高笑いしていたそうよ。ああ怖ろしい。ほら『王家の呪い』じゃないかって言われてるじゃない? もしかして王家に仇為す鬼女なんじゃ——」


 さらに言い継ごうとした女官が手を口にあてた。



「李宰相!」



 その場にいた全員が振り返り、あわてて拱手する。



「根も葉もない噂話は感心しませんね」

「も、申し訳ございません!」

「それに、むしろ事実と正反対です」

「へ?」


 女官たちは思わずぽかん、と若き宰相を見上げる。


「公主様――香織様は、毒入りの杏仁羹を食べてしまった女官たちや玲栞殿を医官が到着するまで必死に介抱したのですよ」


 尚儀局の女官が何か言いたげに唇を噛む中、女官たちは顔を見合わせて気まずそうにしている。


「それに『王家の呪い』なんていうのも嘘っぱちです」

「う、うそっぱち……」

「毒入り菓子事件も王家の呪いも、都合の良いように情報が操作された、ということです」


 食堂がざわめいた。それを見て、鴻樹は頷く。


「わたしの言うことが極めて冷静な客観的事実だと証明するために、儀式を行います。お忙しいとは思いますが、皆さん、出席するように。詳細は広場の立て札に張り紙をしたので確認してくださいね」





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