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【闇】が深い王女の愛が重すぎてゾクゾクするんですけど!  作者: 雪月花


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27:フェンルートの城


 アステルは早速フェンルートの城へ向かった。


 城へ着くとサフィアは不在だった。

「どこへ向かった?」

 アステルは乗ってきた馬から降りて、城門で来客などに対応してくれている従者に尋ねた。

「ここからずっと向こうへ行った所にある湖畔に向かいました。領主様であるグランシス様と一緒です」

 従者はサフィア1人では無いとアステルを安心させるために言ったのかも知れないが、今のアステルには逆効果だった。


 アステルはまた急いで馬に乗り、教えてもらった場所へ駆ける。


 え? 本当に本命と??

 

 アステルの胸は嫌なドキドキが鳴り止まなかった。

 痛いぐらいだった。


 

 町を抜け、草原を抜け、森の木々を抜けると開けた場所についた。

 アステルは馬から降りて湖の方へ歩いていった。


 美しい場所だった。

 広い湖でそよ風に水面が(なび)いている。

 荒れているアステルの心を少し癒してくれているようだった。




 見渡すと遠くにサフィアが見えた。

 湖に背を向け、何か石碑みたいなものに向き合っている。

 グランシスという領主も確かにいたが、だいぶ距離を空けて従者たちと一緒にいた。

 サフィアを1人にしてくれているようだった。

 

 2人が恋仲のような様子では無かったためホッとしながらも、まだ疑いがハッキリ晴れてないので少しモヤモヤが残る。


 アステルはそんな想いをかかえながらサフィアに近付いていった。


 

 

 だいぶ(そば)までくると、足音に気付いたサフィアが振り返ってアステルの方を見た。

「アステル!」

 サフィアが目をみひらいて呆然としている。


「……サフィア」

 けれど、アステルが名前を呼ぶと一瞬だけ悲しそうな表情をし目線をそらした。

「?」

 アステルが不思議に思っている間にすぐに切り替えたのかサフィアが上目遣いの魅惑的な笑みを浮かべる。




「こんな所までどうしたの?」

 サフィアが首をかしげる。

「……ルカから急ぎの書類を預かって……」

 アステルが言いながら照れてしまったのでそっぽを向く。

「フフッ。そうなんだ。ありがとう」

 アステルが心配して駆けつけたことがサフィアにはバレバレだった。


「……従者や護衛は?」

「……フェンルートの城までは一緒だったけど、急いでたから置いてきちゃったかも」

 アステルは照れたままなのでそっぽを向いたままゴニョゴニョ喋る。


「フフフッ」

 嬉しそうに笑ったあと、サフィアがアステルの方へ歩き出した。

「……昔ここでね、大事な人が消えたの」

 静かに語りながらアステルの隣に並ぶ。

 湖を見つめたまま。

 

 アステルも湖の方を向き、サフィアの話しの続きを待った。


「……深い海を泳ぎ、星空を引き裂くというようなことを言っていたのに、溺れたのかしら?」

 サフィアが冗談めかして言う。

 

 けれど、そのフレーズは愛を誓う時の言葉だ。


「その人のことが好きだった?」

 アステルが勇気を出して聞いた。

 どんな返事がくるか本当は怖い。


「……どうかしら? ただ私はアステルのためなら何でもするわ。アステルと居れるのならどこだって幸せだから」

 サフィアがアステルの方に向き直って真っ直ぐに伝えてきた。


 サフィアらしい重い愛の言葉だ。

 

 昔に消えてしまった大事な人よりアステルのことを愛してると伝えてくれている。

 アステルは素直に受け取り、同時にホッと安心した。


「ここへは私の心の(とむら)いに来ているの……」

 サフィアがまた湖を横目で見ながら切なそうに言った。



 …………


 ふとサフィアがさっきまで向き合っていた石碑を見ると、何か模様が入っており、周りに花が植えられていた。


 昔……サフィアが子供のころに大事な誰かが亡くなった?


 アステルはそんなことを考えながら、隣に(たたず)むサフィアの手をソッと握った。

 サフィアもゆっくりと握り返す。


 2人はしばらく湖を見つめていた。




**===========**


 それから、サフィアにグランシス領主を紹介された。


「お初にお目にかかります。アステル殿下」

 グランシスはサフィアより10歳年上の男性だった。

 

 サフィアが大事にしているこの湖畔を大切に管理してくれているらしい。


「サフィア様と片時も離れたくなく迎えにこられるとは。熱烈に愛されておりますね」

「フフッ。そうでしょう?」

 アステルがサフィアを心配して駆けつけたことをグランシスにも指摘されてアステルは赤くなる。


 けれどサフィアが幸せそうに笑っているので何も言えなかった。


 良かった。

 やっぱり噂は嘘だったんだ。


 アステルは確かめにきて良かったと思い、背中を押してくれたルカに感謝した。


 



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