28
アステルとサフィアはフェンルートの城に戻り、一晩城で過ごしてから次の日に一緒に王都に帰ることにした。
古いお城なだけあって、いつもとは違う厳かな雰囲気の中、夕食をサフィアといただく。
そして湯浴みをして従者から寝室に案内された。
寝室にはまだサフィアはおらず、アステルは初めて過ごす部屋を見渡した。
しっかりした石造の壁に重厚感のある広い木製の豪華なベッド。
……あれ?
アステルはそのベッドに腰掛けまじまじと見つめた。
その時、後から到着したサフィアが部屋に入ってきた。
お風呂上がりなのでふわふわした髪に少し垂れ目がちな目をしたサフィアだ。
「……? どうしたの?」
ベッドを見つめているアステルにサフィアが声をかける。
そしてベッドの上のアステルの隣にサフィアも腰掛けた。
「……いや、見たことがあるような気がして……」
「本当?」
「うーん、昔に見た本の挿絵かな?」
「……古いお城だからクラシカルなインテリアよね。本に描かれるような感じなの分かるわ」
サフィアが上目遣いでニコっと笑った。
アステルの胸がキュッとする魅惑的な笑みだ。
そしてサフィアがアステルの首の後ろに腕を回しキスをしてきた。
アステルもサフィアを抱きしめながらそれに応じる。
お互いの吐息だけが近くで聞こえた。
しばらくすると、サフィアがアステルの体を自分の体でグイッと押した。
アステルはベッドに倒れ込みながら一緒に倒れているサフィアを守るためにギュッと抱き寄せた。
アステルが仰向けに倒れた後もサフィアはアステルにしがみついたままだった。
「……」
アステルはゴロンとベットの上で反転した。
今度はサフィアが仰向けになってアステルが手をついて覆い被さっている。
「フフッ」
サフィアがキラキラした瞳でアステルを見上げ、はにかんでいた。
本当に可愛くて素敵な王女様だ。
アステルも愛おしげにサフィアを見つめ、そっと顔を近づけた。
俺だけの愛しいお姫様だ。
**===========**
翌朝、アステルの方が先に目覚めた。
隣でアステルにくっついて眠るサフィアがいた。
眠っている顔はいつもあどけなく、6歳も年上には見えなかった。
寝顔が可愛かったのでアステルはサフィアのおでこにキスをした。
「……ふわぁ。アステルおはよう」
「起こした? ごめん」
キスをしたからかサフィアが起きてしまった。
「ううん。大丈夫」
サフィアがアステルに抱きついてきて、軽く唇にキスをする。
アステルもサフィアを優しく抱きしめキスを返す。
「……なんか、手慣れて無かった?」
アステルがそれとなく聞いた。
「えー、純潔の証あったでしょ?」
「俺、サフィアみたいに余裕なんて無かったんだけど……」
「フフッ。どうだろう? 年上だから?」
またちょっとはぐらかされた気がした。
アステルは何かを秘密にされているみたいでモヤモヤした。
サフィアも初めてだったことは疑ってないけど。
…………
「今までも、これからも愛しているのはアステルだけよ。〝何があっても貴方を絶対忘れず、死ぬまで一緒にいます〟と誓ったでしょ」
サフィアが婚約式で宣言した誓いの言葉をもう一度言ってくれた。
その愛情表現は嬉しいけれど、やっぱりまだモヤモヤする。
ーー要は困らせてみたいんですよーー
いつかのレーリーの言葉を思い出す。
そうだな。
サフィアも俺のことでモヤモヤして欲しいかも。
「……何でもしてくれるんだよね?」
アステルは湖畔でサフィアが言ってくれた言葉を指して尋ねた。
抱きしめる力を緩めて、腕の中のサフィアの顔を覗き込む。
「俺、国王になりたい。サフィアと一緒にこの国を納めたい」
アステルがそう言うとサフィアは目を見開いて驚いたが、途端に眉を下げて困った表情になった。
アステルに国王になりたい気持ちは一切無かったが、サフィアを女王にしたい気持ちはあった。
あんなに王太子様の分まで頑張って王族をこなしているのだ。
表に出てこない王太子様よりサフィアの方が国のために生きていることを国民や家臣に分かってもらえないのは可哀想だ。
「んー……本当に?」
サフィアが困った顔のまま首をかしげる。
「うん」
アステルは楽しげに笑った。
ごめんねサフィア。
サフィアでも出来ないことがあるって知りたいのかもしれない。
俺のことで悩んで、心を俺でいっぱいにして欲しい。




