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レーリーの元を去り、アステルがサフィアの執務室へ帰っていると王宮の廊下で首相のヴァンデに会った。
相変わらずヴァンデはアステルに冷たい。
王太子が国王になると、息子のルカは首相になることが約束されている。
国王の座を狙っていると思われているアステルは邪魔なのだ。
アステルがもし国王になると息子のルカの地位も白紙に戻ると思われている。
「アステル殿下。お聞きしましたよ。サフィア王女様がフェンルートの城に出掛けていると……」
アステルは話しかけられてしまったので立ち止まる。
そしてヴァンデの方を向き、次の言葉を待った。
「ご存知でしょうか? サフィア王女様は幼いころから頻繁にフェンルートの城に出向きます。そのためそこに本当に愛し合っている方がいるという噂が……」
ヴァンデが意地悪く笑う。
アステルは表情に出ないように頑張ったが思わず少しだけ眉をひそめた。
「……アステル殿下との婚約劇は、その方と愛し合うための隠れ蓑だとも言われていますね」
「……そうですか。そのような確証の無い噂を伝えられても困ります」
ムッとしているアステルはいつもより強気で言った。
そしてヴァンデを一瞥して足早に立ち去った。
おそらくアステルとサフィアの仲をあわよくば引き裂こうとしてわざと伝えたのだ。
嘘だとは分かっている。
けれど出掛けることを告げた時のサフィアのちょっとだけいつもと違った態度が思い起こされる。
…………
アステルの中で黒い感情が渦巻く。
初めての経験に戸惑いながらも歩みを進めた。
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「……そうですか……そんなことが」
執務室に戻るとルカがアステルを待ち受けていた。
いつもと違う様子のアステルを心配してかルカがいろいろ聞いてくるので、アステルはさっきヴァンデに言われたことを喋ってしまった。
「父上はどうにか僕を良い地位に押し上げたくて昔から必死なんです。申し訳ございません」
ルカがそう言って頭を下げた。
「……いいえ。ルカが噂を否定しないってことは、噂があるのは本当なんですね」
アステルが執務室のソファに座って腕ぐみをして遠くを見た。
思考が上手くまとまらない。
どうすれば良いのか分からないけど不安だけが募る。
「……こんな時だけ恐ろしく頭の回転が早いですね」
ルカがいつものように余計な一言を言う。
「でもサフィア様に限ってそんなことは無いと思いますよ」
苦笑しながらルカがアステルを励ました。
「……」
アステルは黙り込んだ。
「そんなに気になるならアステル殿下もフェンルートの城に行ってみたらどうですか?」
いつもは執務が滞ってしまう王族の外出を極度に嫌がるルカがそう提案してきた。
ルカなりにアステルのことを心配してだった。
「……サフィアを疑ってかかってるようなものだからそれも嫌ですし、王宮のことを任されたからその信頼も裏切りたくない……」
アステルはフイっと横を向き不貞腐れながら言った。
「面倒くさいですね」
ルカがいつものように笑顔で言った。
「んー、じゃぁ……」
ルカがそう言って、持ってきていた書類の束をめくり出した。
アステルと執務を行うためにたくさん書類を持ってきており、それでさっき待ち構えていたのだった。
「この書類に今すぐサフィア様のサインが必要ですので、貰いに行って下さい」
ルカが1枚の書類をアステルに差し出した。
「……」
アステルはソファから立ち上がってひとまず書類を受け取った。
……確かめに……行く?
気になるから確かめたい。
けど、本当にそんな奴がいたら……
アステルはまた思考の渦の中にいた。
「あ、待って下さい。せっかくだからこれも。あ、これもですね」
そんなアステルを横に、ルカはサフィアのサインが欲しい書類を束から選り分けて行く。
「……そんなに?」
いつもと変わらないルカの様子にアステルは思わず苦笑した。
もし何も無かった場合、書類の束を見たサフィアに呆れた顔で見られそうだ。
アステルはそんな未来を想像し、少しだけ心が軽くなった。




