第91話:テルルVSカロル
『ゼロスト教のテルルか』
水晶に映し出された映像を観ながらカロルは独り言ちる。
『やはり神はいたのだな』
「いますよ?ここに」
主を失った古い城の開け放たれた窓を見ると、縁の所には短く切り揃えた金髪を有した女神が座っていた。
「会えて嬉しいですか?特別に握手くらいならしてもいいですけど?」
『くくく。嬉しいに決まっているだろう?神と直接戦える機会など一度もないのだからな』
少女が埃の積もった床にふわりと着地するが、その衝撃で埃が宙に舞う様子はない。
「要件は分かっていますね?あなたを始末しに来ました」
『できると思うか?アンデッドになったワタシを殺すことなど』
「リッチの宝箱」
この言葉を聞いてカロルの動きがピタりと止まる。
「この中に入っている魔力で動く心臓を破壊すれば、あなたは機能を停止するんですよね?」
『その通りだ。だが、どうやって探し出すのだ?生き物ではないから『スペシファイ』は使えぬぞ?』
「それは心配要りません。わたしはゼロスト様から特殊な権限を与えられているので、魔法を使わなくても探知できますから」
敵の前であるにもかかわらず静かに目を閉じると、数秒もしないうちに目を開ける。
「この『探究の古城』にある練兵場の土の中ですね。では早速、あなたの心臓を破壊しに向かいます」
『行かせるわけがないだろう?』
リッチと化してから四桁年が経過したが、それまで一度も見破られたことがなかった。『第三の力』に思わず舌を巻くカロルだったが、こちらは『魔術王』の二つ名を持つ死を恐れぬアンデッド。目の前の女神を止める方法などいくらでもある。
『ここで貴様を倒し、ワタシの僕としてくれる!!』
「面白いですね。骸骨なだけあって頭も話の内容も空っぽです」
ゆらり、と不気味に身体を揺らすと、短い金色の髪と純白のトーガが揺れる。
「なら、ここであなたを無力化してからじっくり心臓を破壊するとしましょう!リッチの肉体ってわたしのカミサマパワーでも耐えられるんでしょうかねえ?いい実験内容だと思いませんか?!!」
左の掌を向けて力を充填させる。
「さあ消し飛んでください!!」
先ほどは『コンビクションソード』を使ったが、この距離であれば『コンビクションソード』だろうがエネルギーを射出しようが結果は同じだ。左手に込めた神の力を放出し、目の前の動く骸を射殺さんとする。
が、
(カミサマパワーが無くなってる?!!)
充填した神の力が射出されるどころか、力を貯めたはずの左手の周囲には光の塊すらできていなかった。冷静に身構えるカロルとは裏腹に内心で取り乱す。
『…………どうした?何もしないのか?ならばこちらから行くぞ?』
「そちらこそ随分な物言いですね。どうやってわたしからカミサマパワーを奪ったんですか?」
『このワタシがカミサマパワーを奪うだと?面白いな。神から力を簒奪する方法があるというのであれば、是非教えて欲しいものだ』
(カロルの力でもない?!じゃあ何故わたしの力は無くなってしまったんですか?!!)
神としての力が使えないことを悟られないように涼しい顔で取り繕う。
『反転攻勢に絶対的な自身があるのかは知らぬが、そちらが何もしないというのであればこちらから動くのみ!ワタシの研究した魔法のモルモットになってもらおう!!』
カンっ!と骸が打ち鳴らしたとは思えないほどに力強く杖の柄を地面に打ち付けると、待ち針のように先端だけ扁平になった特殊な杖に嵌め込まれた宝珠が月光を浴びて光る。
魔杖アルーフ=ザ=レストリクション。
火・水・土・風・光・闇の六つの属性を司る宝珠を嵌めたことによって全ての属性の魔法を使うことを可能とし、使用者の生命力と引き換えに【マジックマスター】に匹敵するほどの魔力へと増幅させる杖である。
『まずは小手調べだ!!生を終えた生き物たちよ。骸となってワタシに傅け!』
近くに置いてあった骨を乱暴に拾って投げると、たった一本の骨片だったはずの骨が黒い煙に包まれ、一匹のモンスターの形を取る。
肉や皮膚がなくなって骨格だけとなったモンスターの背中には一対の翼が生え、太い脚と恐らく太かったであろうと思われる長い尾骨を骨盤の後ろで持ち上げる。
「ワイバーンですか。如何にも悪役らしいモンスターですね」
『さすがにドラゴンを殺すことは能わなくてな。本物には劣るがこいつで我慢してもらおう。行け!ワイバーン!!』
廃墟と化した城の一室だということを知ってか知らずか、本棚に並べられた本や薬品を引っ掛けてがちゃがちゃと落としながら飛来する。
(まずは避けましょう。その後に壁を蹴って一気に肉迫。カミサマパワーがないのであれば打撃で攻めるのみです)
足元を掬うように地面擦れ擦れを滑空するワイバーンのスケルトンを跳躍して回避。
「一気に行きますよっ!!」
壁際まで移動すると壁を蹴ってロケットスタートを打ち出すが、
『……何だこれは?ワタシを愚弄しているのか?』
その速度は平均以下。のろのろと走って来るテルルを視認してから回避する。
そして杖で一撃。
「がっ!!」
思いっきり後頭部を殴られたテルルは体勢を崩すと、床に積まれた本の山へと突っ込んでいく。
『どうした?!一宗派の側近に相当する女神の力とはこの程度か?!!』
光を反射していたはずの綺麗な金髪の上には埃が積もり、頭の端には蜘蛛の巣が引っ掛かっていた。本を取り払って山から抜け出すが、目の前には杖を構えた『魔術王』が立ち塞がる。
『これでは平民の女と何も変わらぬ――いや、それ以下ではないか?!『創造の左手』と呼ばれた貴様の力を我に示してみよ!!』
「できないんですよ……」
腰を下ろしながら少女は叫ぶ。
「天界から与えられた力が一切なくなっていて何もできないんですよ!!」
『ふはははははは!!!!』
何処に声帯があるのか。
喜怒哀楽恐の表現はどうやってするのか。
嘲笑を放ったはずなのに表情の変えられない骸骨は言葉を発する。
『打つ手なしということか!!ならば貴様の身体を自由に弄らせてもらうぞ?本物の神を実験材料にできることなど滅多にないからな!!長生きはするものだ!!くくく!!』
かたかたと頭の骨を動かしながらカロルは不気味に笑う。
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さて今回も裏トーク。今回はメイアです。
メイアの原案は藤井の著作・「ベルフェゴールのざまあもの」(通称)にて、没となったキャラクターです。
「昼型吸血鬼」・「一人称が私」・「他人の生気を吸って力へと変換するスキル・【アブゾープション】」という部分まで全く同じで、没案を見返して気づきましたが、初期設定では銀髪ドリルツインテ、持っている武器も「刺突剣ブラッドサック」ではなく「黒紅彩傘ブラッドレイン」でした。
「ベルフェゴールのざまあもの」では強キャラとして登場するも、体力・魔力・攻撃力・防御力・敏捷・その他全てのステータスがベルフェゴール素数(1,000,000,000,000,066,600,000,000,000,001)になっている主人公相手に手も足も出ず惨敗し、主人公のバディキャラとして一緒に冒険。魔力を永続的に吸い続ける【アブゾープション】と、何度魔力を吸われてもベルフェゴール素数へと数値が戻る主人公とのタッグを描く予定でしたが、「チート無双ざまあものなら、主人公をひたすら無双させた方がいいのでは?」ということで没になりました。
ちなみにですが、「メイア」の音は漢字表記にした時の「冥夜」(メイヤ)から来ております。「メイヤ」だとそのまま過ぎる気がしたので一時変更しております。
裏トークの最初の方で少し話しましたが、「昼型吸血鬼」設定は藤井の著作・「エルーシア王国の残念な少女たち」から踏襲しています。『太陽の光を浴びても大丈夫な吸血鬼』を違和感なく出すのには画期的な設定だと思ったんですが、「ファンタジーコン」では蹴られております。残念。昼型吸血鬼に関する説明は長くなるので割愛。作中で説明しているのでお手数だけど探してネ。
メイアが本作に登場した最も大きな意味。
それは、ファンタジー世界における『人種差別問題』について切り込んでいこうと思ったからであります。
何処かで話した内容と重複しますが、本作の世界では世界を創った女神に最も近い姿をしている人間がカーストのトップ、人間とは違って耳が尖っているドワーフ・エルフ・吸血鬼が二番目、獣人族がカーストの最下位で、奴隷のように扱われる獣人たちが肩身を寄せ合って生活している。
――という世界観にして、
メイアがピンチになる。→ルナティに回復魔法で助けてもらう。→ルナティや人種について少しずつ心が打ち解ける。→人として成長する。
こんな感じでシナリオを展開して、人種差別について切り込んでいこうかと思ったのですが、それでは話が重くなりすぎるのと、結構長い尺で用意していたのでテンポが悪くなり、読者が脱落する可能性があるということで没に。メイアがルナティにだけ「駄兎」と呼ぶのはその名残だったりします。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




