第90話:休日の過ごし方~~ルナティ・タイガ・ハロイラの場合~~
騎士の役職は生真面目な性格のモノが多く、普段着代わりに鎧を着て生活するモノも珍しくはない。ハロイラもその一人だ。
「うむむ……」
場所はセトレイ王国・ラウドレーストの市街地。
身体に装着した少し重めの鎧を見ながらハロイラは物思いに耽る。
魔法使いや聖職者が装着するローブやケープなどには比較的カラフルなものが多いのだが、騎士が装備する鎧となると、銀色・黒色・茶色など、華やかさに欠ける色が多い。
「私もルナティ殿のように、【染物師】で色を変えた方がいいでありますかね?」
思い出されるのはピンク一色に染まった『月虹装備』を装着した兎型獣人の少女。
本来は宵闇の空のような濃紺色の布地で、光を受けると月虹(夜に架かる虹のこと)のような光を反射して静かに光る大人っぽい雰囲気の装備だったはずだか、丈の長いローブはばっさりと切られて改造されているし、そもそも色が濃紺でも虹色でもなくなっている。ピンク一色である。
折角の『月虹装備』のアイデンティティを完全にぶち壊した魔改造っぷりなのだが、『自分が装備に適応する』のではなく、『装備を自分に適応させる』という考え方は非常に目新しく、参考にしたいと思っていたのだ。
「だとしたら何色がいいでありましょうか?」
ファッションに関心を持っているのがメイアとルナティくらいしかいない『ライザーズ』の中でも特にファッションに対する意識が低く、趣味が鎧や防具の収集という、もはや『興味がない』というよりは『縁遠い』という表現の方が正しい少女がとぼとぼと歩いていると、店全体がピンク一色の遠目からでも目立つ建物を発見する。
「あれがルナティ殿が言っていた染物屋『カメレオン』でありますか。目立つ外見でありますね」
ルナティの勧めとあれば実力は間違いないだろうし、相談するだけでも考え方が変わるかもしれない。開け放たれたままになっている店の中へと入って行くと、
「いらっしゃいませ」
「おっ!ロイランじゃん!!やほやほ!!」
人が全くいない店内でルナティと店員が何やら話をしていたのか、こちらに気づいて声を掛ける。
「知り合いですか?ルナティちゃん?」
「ルナティちゃんと同じギルドに所属している仲間だよー。名前はハロイラ。騎士だよ」
「よろしくであります」
背筋を伸ばして律儀に挨拶をすると、
「あらそう~?ワタシの名前はラインハルトよ。よろしくねハロイラちゃん♡」
線の細い男の言葉遣いが、ねっとりとした言い方になる。
「んで、何しに来たのー?もしかして、休みだというのに居ても立ってもいられず、かわいいかわいいルナティちゃんに会いたくなっちゃったとか?」
「少し装備の色を変えてみようかと思っていまして、何かいい案はないかと思って店に入ってみたのであります!」
「装備の色変えね。ま、この店に来るんだったらそれか道を聞くくらいしかないけどねん」
「じゃあじゃあ、ハルトとお話がしたくて店に来たルナティちゃんは特殊?特殊??」
「ワタシたちはピンク同盟じゃない?同朋同士で語り合うのは特殊なことじゃないわよ?」
「ピンク同盟、でありますか?」
ルナティの頭を少し乱暴に撫でながらラインハルトは言葉を続ける。
「ワタシの【染物師】で染めたピンク色の装備をルナティちゃんに着てもらって、あちこちを歩いてもらう。そうすれば宣伝になるでしょ?」
「ルナティちゃんは綺麗なピンクに染められて満足だし、ハルトにとっては宣伝になる。いい考えでしょ?えっへん!」
「なるほど。納得であります?」
見たところルナティの装備を格安でやっているというわけでもなさそうだし、ルナティが単に広告に使われているだけでは?という考え方はなしだ。本人が幸せそうならそれでいいのだ。
「さて、装備の色を変えたいと言っていたわね?何色がいいとか意見はあるの?」
「それが、どんな色にしたらいいのか悩んでいるのでありまして。何かいい意見があるのならご指導を賜りたいであります」
「……ハロイラちゃん。ワタシたちに聞いちゃう?それ??」
はっ、と息を呑んだがもう遅かった。
目の前にいるのはピンク同盟の構成員(全二人)。
誰よりもピンク色を愛し、この世の全てをピンクに染め上げ、人々の思考をピンクに染めようとしている人々である(誇張された表現)。
そんな人たちに「何色がいいか」と聞いて帰ってくる答えなど、分かり切っているではないか。
「何色がいいと思う?ルナティちゃん??」
「ルナティちゃんはピンクがいいと思いまーす!!」
「偶然ね?ワタシも同じ意見よん?」
逆にルナティが他の色を答えると思ったのか。
いや、答えないと分かっているからこそ、互いの意志を確認するために問い掛けたのだ。
「じゃあ、今アナタが着ている鎧をピンクにしちゃいましょうか?大丈夫。ワタシの手に掛かれば変なピンク色には絶対にならないわよ~♡」
「ふははははは!!ルナティちゃんたちにその身を捧げるのだあ!ロイランの身体をピンクだらけにして進ぜよう!!」
「やっ!」
常に最前衛に立ちながら数々のモンスターと戦ってきたが、これほど恐怖したのは初めてだった。無意識のうちにスキルを起動するが、相手の攻撃を自分に集中させる【妖魔の目配せ】と、一定時間体力が一割以下にならない【朽ち褪せない騎士道】では防ぐ手はない。
しかも、重量のある鎧を装着しているハロイラと身軽なルナティ・ラインハルトではどちらが素早く動けるかなど議論するまでもない。
「止めるでありますううううぅぅぅぅうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううううぅぅうううううううっっっっっっっっっっ!!!!」
その日、ピンク色の鎧を装着した小さな騎士が誕生した。
☆★☆★☆
何やら部屋で姦しい会話が聞こえた。
下の階では喧しい叫び声が聞こえた。
しかし、
「すう…………」
天敵を警戒することなくゆっくり寝られることの何と幸せなことか。
動物園で客たちに愛想を振り撒く必要がなくなったことの何と楽なことか。
そして、朝からずっと寝ていても何も文句を言われないことの何と贅沢なことか。
「すう……」
眩しい閃光には一瞬だけ目が覚めたが、すぐ後ろを睡魔が追い駆けて来た。
泥の中に沈むように夢の中へとタイガの意識が吸い込まれていく。
「なろう」にていいねが一件増えました!いいねしてくださった方ありがとうございます!!
さて今回も裏トーク!「藤井はこんなにも工夫を凝らしているんだぞ!」ということをアピールしないと通じないこともあるかもしれませんからね!!メイアの裏トークをしようかと思いましたが、今回がハロイラ回なのでハロイラにしましょう!!
ハロイラの初期の初期の案は、銃火器をぶっ放すメカニック系キャラで、軍人気質であるが故に上下関係に厳しい真面目キャラ設定でした。
しかし、
・銃火器を扱うとなると回避タンクであるタイガに当てないように攻撃しなければならない(構想段階でFFの考え方がありませんでした)。
・ガッチガチの中世ヨーロッパっぽい世界観にスチームパンク系キャラが前置きもなくいきなり加わるのは違和感がある。
・軍人気質の真面目キャラにするとラウンに似る。
・『ライザーズ』に加える予定の七人目のタンクキャラを考えていたけど思いつかなかった。
等の理由から様々な要素が削ぎ落されて練り直され、今の形になりました。
超科学都市のロワッタ王国出身であるのはメカニック設定、ファーストコンタクトで張り切って丈の長い鎧を着たために身動きが取れないシーンは空回りな真面目さ、語尾に「~であります」を付ける丁寧さなどはここから派生していますね。
ちなみに、ハロイラをタンクに設定した際、機械仕掛けで空中で浮く盾などの、機械仕掛けで動く装備を一つくらい設定しようかと思いましたが、「機械の動きならモンスターは誰も読めないはずだから、それでいいのでは?」というワンパターン性が生まれてしまうので没になりました。
ハロイラをタンク役にしたのはタイガとの対比を描くためのキャラだったからということもあります。
LSランクの優秀なタンクであるハロイラが加わったことで、Aランク相当のモンスターであるタイガのポジションが危うくなる。
そして、戦うモンスターが段々強くなってきたことにより回避や打撃を与えることも難しくなり、いよいよタイガの役目がなくなってくる。
自分はこのままパーティにいてもいいのか。
居座ったところでお荷物になるんじゃないか。
そんなタイガの葛藤と苦悩を描いた話。
――を構想していましたが、コンテスト落ちてモチベーションがダウンしたのと、この話だけで2~3話くらい引っ張るとなると、興味ない人からすれば苦痛なのでカット。「なるべく暗い話にするな!」と自分に言い聞かせながら書いているので没となりました。
「HJピックアップコン」の応募期間は二か月程度しかなかったのですが、構想に半月、規定数の8万字を一か月くらいで執筆して間に合わせたんですよ!!そりゃあモチベーション落ちますって!!最近は自暴自棄になってクソみたいな文章しか書けていません!!藤井に愛を!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




