第92話:マスコットと動物園の名前
「マスコットキャラクターを考えようか」
時刻は昼。
昼食を摂りに来るドリード村の農夫と物好きな旅人くらいしかいない宿のエントランスで机の一つを占拠し、『ライザーズ』のメンバーが集結する。
「ますこっときゃらくたぁ?何ですのそれは?」
「動物園の宣伝に使うキャラクターのことですよ。動物園に来た人のお土産とかに使ったりしますね」
「??何のことかさっぱり分からないであります」
「見せた方が早そうだね」
スマートフォンを操作すると熊本県の公認マスコットキャラクターや白い犬を広告に使った携帯会社・黄色い鼠を使ったゲームの公式サイトなどを見せる。
「なるほど。つまり、宣伝したいものを連想させるための手段ってことでありますね」
「貴族の家柄を示す紋章に近いかしらね」
「そういえば、メイアって昼型吸血鬼の中でも高貴な家柄なんだよね?だったら紋章とかあったりするの?」
「当然よ。ローゼンガウラ家にはローゼンガウラ家の紋章があるわ」
「……見せてくれたりは?」
「そう易々と自慢するように見せるものではなくってよ?」
紋章というのは俗にエンブレムと呼ばれるもので、その貴族の家柄を示すものだ。
イギリスを中心としたヨーロッパ圏では紋章・日本では家紋として古くから親しまれ、ヨーロッパ圏の場合は盾を中央に置き、その周辺にグリフォンや獅子・ユニコーン・王冠などが描かれる。
「ふふん!それなら簡単!!動物園をイメージさせるのにピッタリな人物がここにいるじゃないかっ!!」
「この会社、宣伝にただの白い犬を使っているみたいだけど、これで『ますこっと』が務まるのかしら?」
「人間と家族っていう設定になっていて、しかも人間の言葉を話すんだよ!普通の犬じゃないんだ」
「エリカ殿がいた世界では、人間が人間の言葉を理解する犬を産むのでありますか?!遂に種族の垣根も消えるのでありますね」
「あくまでそういう設定ですよ?!物語とか寓話とか、その類だと思ってください!!」
「そうですか。ルナティちゃんの意見は無視ですか……」
メンバーとの付き合いが長くなってきたため、そろそろ言動や思考回路が読まれるようになってきたらしい。頭頂部に直立した自慢のウサ耳がしんなりと力なく垂れる。
「動物園というくらいなのだから、動物をマスコットにすればいいのではないかしら?それこそ、先ほど見せてもらった白い犬とか黒い熊みたいなものがいいのではなくって?」
「それはそうなんだけど、動物にすると逆に特徴がなさすぎて安直かなって。何か他にないかな?」
「だったら、このオオサカバンパクとやらのキャラクターのように、モンスターにしてみるというのはどうでありましょうか?」
「これモンスターじゃなくて神様なんですけどね……」
「神様でありますか?!強そうでありますね!!」
「自然を愛するいいやつみたいなんで、戦わないであげてくださいねー」
「ねえルナティちゃんは?ここにスーパーアイドルがいるでしょ?!」、「ルナティちゃんなんて如何でしょう?!」、「ぶーぶー。ルナティちゃんならマスコットにピッタリなのにい」と約一名が騒ぐのをBGMに会議は続く。
「だったら動物園の目玉となるモンスターを前面に押し出す手もあるんじゃない?ボクはよく知らないけどアジ=ダハーカとかフェンリルって凄いモンスターなんでしょ?」
「さすが元動物園の動物タイガさん!!よく分かってますねえ!!」
アジ=ダハーカ、フェンリル、ガルム、ヨルムンガルド、スコル、ハティ、ベヒモス、レヴィアタン、ジズ。
この世界での知名度がどの程度なのかは分からないが、神話に登場して神々と死闘を繰り広げるレベルのモンスターが何匹もいるのだ。これらのモンスターを看板動物として宣伝するのも悪くないだろう。
が、
「ロネッツ男爵の反応を見たところだと、犬とか狼の見た目をしている神獣たちは珍しい動物として捉えられていないみたいだから、宣伝に仕えそうなのはアジ=ダハーカくらいかな?」
『何やら良からぬ話をしているな。生娘ども』
何処からどういう風に盗聴しているのかは分からないが、黒いガウンを羽織った男が店内へと乱入してくる。
『動物園の宣伝に我を使おうというのだな?我は善悪二元論において悪の権化とも言える存在。そのようなモノに動物園の宣伝などさせたらどうなるか分かるか?』
「えっ?どうなるの?!話の文脈から全く想像できないんだけど?!!」
肩から生えた蛇の頭を撫でながら嬉しそうに語る。
『宣伝に貢献した対価として、我が宮殿に入って来た客どもを片っ端から食してくれよう!くくく。人間を喰うのなど何年ぶりか!!』
「そうしたらテメエをミンチにして期間限定料理・アジ=ダハーカのパテにしてやる。どうだ?絶対的な悪でも人間の空腹を満たすお手伝いができるなら幸せじゃねえか?」
戦棍を手中で弄びながらガルシャが登場したため、そそくさと姿を消す。要約すると「面倒なことは嫌!」と言ったところか。
「動物を看板にするのもパッとしない、マスコットを一から考えるのも大変そうだし、何かいい方法ないかな?」
「だから、ルナティちゃんをマスコットにすればいいとさっきから言っているじゃないかあああぁぁぁああああぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁああああああっっっっっっっっっ!!!!!」
兎なのにがおー!と牙を剥き出しながら熱り立つ。
「この超絶人気美少女アイドルルナティちゃんを看板娘にするだけで、全ての問題が丸っと解決しちゃうんだぞっ!!動物園でワンマンライブをやるのだあ!!」
「ルナティをマスコットにすれば全て解決するのは間違いないんだけどさ、ルナティのファン=動物園の客というわけでもないよね?男女比率とか年齢層が偏っちゃったりしないかな?」
「それはお任せあれ!ルナティちゃんは子供用の童話さえもバラードにすることができるのだ!!」
「童話はバラードにはならないわよ?!」
「絶対バラードの意味を分かっていないでありますね……。心配であります」
中世ヨーロッパにおけるバラードとは、3~5個くらいの短い節を組み合わせて作った曲のことを指す。
「じゃああれだ!ルナティちゃんが万人受けするような詩ばかりを歌えばいいということかな?ルナティちゃんは吟遊詩人じゃないから、そんなにたくさん詩は知らないけど!!」
「……で、時々動物園で歌っているのを聞くことがあるけど、貴女のファンってどれくらいいるのかしら?」
「……両方の指で数えられるくらいの人数しかいませんが何か?今は全然客がいないだけで、客を入れればこれからもっとファンが増えるもん」
「宣伝効果は見込めないってことですかね?」
「大器晩成だもん!これから成長するもん!!ルナティちゃんは人気になりすぎて、これからみんなの手が届かないくらい有名な存在になるんだもん!!」
「はいはい。そうだといいわね」
マスコット問題はこのまま会議を重ねたところで解決する見込みがないので、結果、動物園のポップ作りなどで多少は絵心があった絵理華がルナティをモチーフにした兎型獣人のミニキャラを作成。名前をどうしようかと考えていたところで気づく。
「そういえば、動物園の名前を決めてなかったよね……」
「何か案はあるんですか?」
「これはもう考えてあったからさ、逆に「そういえば名前付けてなかったっけ」って思ったね」
「勿体ぶらずに教えてくださいよ!!気になるじゃないですか!!」
隣でそわそわするセレンと連動するかのように、全員の視線が絵理華へと集中する。
「遮光山動物園異世界支部」
「シャッコウヤマドウブツエン?」
「イセカイ支部?」
ルナティ・メイア・ハロイラはきょとんとしているが、セレンとタイガは静かに頷いている。この対比を少し面白く思いながら絵理華は言葉を続ける。
「元いた世界で私が働いていた動物園が遮光山動物園だったんだ。そして、私がいた世界とは別の世界に造った動物園。だから異世界支部。勿論、勝手に支部にしているだけだから、このことを元の世界にいる園長が知ったら怒るだろうけどね」
「素晴らしいと思います!名前も地名から取っているから雑な感じがないですし、絵理華さんの動物に対する熱意が何よりも伝わってきます!!」
「こっちの世界に来ても同じ名前の動物園にいられるなんて、何だか不思議だね」
異世界からやってきた面子が懐かしいトークに華を咲かせる。
「シャッコウヤマ……。何だかスロザード山脈みたい?」
「不思議な言語ですわね。ニホン語とやらも少し勉強してみようかしら?」
「異世界支部……。本部は元の世界でありますか…………。二つの世界に活動拠点を置くというのは面白い考え方でありますね」
何かを吟味するかのようにそれぞれの意見を述べる異世界の住民たち。
「じゃあ、この兎のマスコットは「遮光山」から取って、「しゃこたん」とか「こうちゃん」とかになるんですか?」
「「しゃこたん」はもう遮光山動物園のマスコットと名前が被ってるから使えないけどね」
「やっぱり考えることはみんな同じなんですね?!」
「ここはそのまま名前を使って「ルナティちゃん」にしようかなー、と思ってるんだけど」
「是非是非っ!!どうせならキャラクターの設定に「恋人募集中」を追加してくださいな!!」
「それは生々しいから却下」
「ががん!!」
がっくりと項垂れると動きに合わせてウサ耳が垂れる。
こうして遮光山動物園異世界支部に兎型獣人のミニキャラ・「ルナティちゃん」が誕生したのであった。
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裏トークばかりするのも読者の皆様が飽きてしまうかと思ったので、今日はポケモンカードの「ルンパッパ―δ種」(デルタ種)の話でも!!
「ルンパッパ―δ種」は2006年3月に発売されたパック「きせきの結晶」に登場するカードで、炎タイプのルンパッパです。
当時のポケモンカードは1パック315円(税込み・当時の消費税率は5%だったので300円+税)の11枚入りで、1パックに基本エネルギーカードとキラカードが確定封入されていました。
しかし、パックを開けた時にキラカードが先頭になっていたため、レアカードの「ex」(エクストラ)や「☆」(スター)がキラカード枠で出なければハズレ。同じパック内には先頭以外にキラカードが封入されておらず、開けた瞬間に当たりハズレが分かる仕様になっておりました。
当時の「ルンパッパ―δ種」はそのキラカードの中でもお世辞にも強いとは言えず、藤井の体感ではハズレの中でも封入率が高く、だいたい4パックくらい剥けば1枚くらいは出るようなカードでした。
さらに当時はポケモンカードの人気がそれほど高くはなく、そのパックが発売してから少し経った所でレギュレーション落ちしてカードが対戦に使えなくなったので、藤井の兄がカードショップに持ち込んで売ろうとした所、ノーマルカードは10枚1円・キラカードは1枚1円の一括買取という査定が出ました。小学生の頃に遊んでいた思い出のカードというのもあって、二束三文にしかならないのならば残しておこう、ということでカードファイルと我が家の押し入れに封印されました。
そして時は令和。
ポケモンカードの懐古ブーム到来である。
オークションサイトで見てみると、なんと美品の「ルンパッパ―δ種」が1枚1,000円以上で取引されているし、とあるカードショップではショーケースにて900円で販売されているのを目撃しました。
小学生の時にただ楽しくて必死に集めていた、当時は何の変哲もなかったカードたちが今となってはマニアの箔が付いた高額カードとなっている。
あの時のカードたちを見放さなくて良かった、と思いました。「ルンパッパ―δ種」のリアルざまあですね!!
……何だか似たような話を後書きでしたような気がする。重複していたらゴメンナサイ。本稿だけで90話ふんくらい後書き書いているから、多少被っても仕方がないよねっ!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!
ちなみに「ルンパッパ―δ種」、三~五枚くらい持っている気がします。それだけよく出るキラカードだったってことですね!!




