第85話:テルル
「セレン、ですか。その名前を知っているということは、あなたたちがお姉さんがお世話になっている『煌々たる裁きの剣』でしょうか?」
何だろう?
何故だろう?
この少女の近くにはいてはいけない気がする。
「初めまして。テルルと申します。姉のセレンがご迷惑をおかけして申し訳ありません」
金色の髪を揺らして深々とお辞儀をしただけなのだが、
「うわあああぁぁあああぁぁぁぁあああああああっっっっっっ!!!」
狼狽したアラキラは即座に距離を取る。
「?どうしましたか??わたしは皆さんに挨拶をしただけなのですが?……あ、もしかして!」
フォン――。
左手を軽く振っただけなのに、その手中に黄金に輝く光の剣が出現する。
「わたしがこの場に来た理由が分かっちゃいました?さすがは魔王軍の一人!察しがいいですね!!」
にこにこと屈託のない笑みを浮かべてはいるが、手中にある光の塊は空気に触れながら残酷な音を周囲を響かせる。
「なっ!何者なの?!あなたは一体何者なんだよう!!」
こんなに焦ったアラキラを見たのは初めてだ。
こんなに狼狽えたアラキラを見たのは初めてだ。
こんなに余裕のないアラキラを見たのは初めてだ。
この場にいるモノ全員が何も対処することができずに動けないままでいる中、一瞬にしてこの場の支配者となった少女が口を開く。
「わたしの名前はテルル。天界の命によってあなたを処分しに来ました」
幼子のような、それでいて大人のような。
子供と大人の間で揺れ動く境界人の笑顔を絶やさないまま少女の独白は続く。
「機を窺ってあなたを処分することは決定していたのですが、如何せん『上』からのゴーサインがなかなか出なくてですね。それで天界から様子を観ながら待っていたら、禁忌の呪法をエルフに使わせようとしているじゃないですか。ダメですよそんなことをしては。敬虔なモノは救われなければいけません」
雨で泥濘んだ土の上を裸足で歩いているはずなのに、雨粒一滴身体から垂れることはなく、足元からは水飛沫一つ上がらない。
この世界にある全ての理から逸脱し、理そのものが彼女と迎合するのを拒んでいるかのようだった。
「で、やっとの所でゴーサインが出たので、あなたを処分するために急いで馳せ参じたわけです。やれやれ。『上』も人間たちの人情劇が好きなんだから」
左手に光の剣を握りながら肩を竦める。
「というわけで、あなたには『消滅』してもらいます。元々この世界では役目を終了して無くなった命なんです。何も文句はありませんよね?」
「ふ」
カロルは言っていたではないか。
神が創ったルールに背いたモノを粛正するために天から降りるとされている女神・テルルには気を付けろ、と。
「ふふふ」
カロルが『女神』と言うからには、比喩表現ではなく本当に女神なのだろう。
女の神。
つまり、天界から鳥瞰する神に相当する力をその身に宿した少女なのだろう。
「ふふふふふふふふ!!!」
ならば簡単。
こいつを弑逆すればいい。
そうすれば邪魔者はいなくなる。
「可哀そうに。あまりのパニックで乱心してしまいましたか……」
こちらには難攻不落の【ウロボロス】がある。
蔑んだような目で見る金髪の女神に相対する。
「どんな手を使うのかは分かんないけど、あなたにはアタシの【ウロボロス】が突破できるかなあ?」
余裕たっぷりに挑発するようにテルルに言葉を投げ掛けるが、
「むしろ突破できないと思っているんですか?このわたしに?」
少女は左手に光の剣を握ったまま可愛く小首を傾げただけだった。
「ならばやってみるがいいさ!アタシの【ウロボロス】を突破してみせてよ!!」
これ以上は限界だった。
大蛇の下半身で地面を這うように移動すると、一瞬で少女へと距離を詰める。
「はあ。自分のスキルに自惚れるモノの末路とは醜いものですね。……ところであなた、地上でどれくらい生き物を殺しました?」
憐憫を含んだ溜息を吐いた女神の眼前へと肉迫。
「そんなもの一々気にしているわけがないよねえ?!!この場で死んでよ!!」
太い胴体を巻き付けて一気に締め上げようとする。
が、
「女神が死ぬ?随分面白いことを言うんですね」
その視界は木立の隙間から覗く雨天を見上げていた。
いや、こちらの身体が触れるよりも前に光の剣で横薙ぎに一閃され、胴体が切断されたのだ。
そう気づいた時には雨粒を跳ね上げながら地面を転がり、中途半端に残された胴体部分が大量に体液を噴き出しながら力なく地に伏す。
「コンビクションソード。天界の者だけが使うことを許された、悪を裁く剣です。その切れ味と威力は対象が犯した罪と生き物を殺した数によって大きくなる。……って、聞こえていませんよね」
地面に転がったアラキラの死体は柔らかい光に包まれると、地面に広がった血の一滴一滴までもが光の粒へと変化し、空へと舞い上がって消えてゆく。
「さて、まずは一件完了。次はあなたです。大丈夫です。アラキラさんのように乱暴にはしませんから」
コンビクションソードを消滅させると空いた手でエウロを指す。
「術者から事情を聞いているかどうか分からないので、わたしの方から説明させてもらいますと、あなたは『リヴァイヴァル』という魔法で禁止されている生命の復活の儀によって生き返った存在です。あなたは奇跡的に生き延びたのではなく、あの時確実に死んでいた。まずはそこの認識の擦り合わせから始めましょうか」
アラキラの時とは違って丁寧に説明する女神の口をハンドサインで制し、
「カロルから聞いているよ。僕は聖剣をレオルスから奪うために蘇らされたんだって」
「そうですか。なら話しは早い」
女神の手が淡い光に包まれる。
「この光が見えるでしょう?わたしがこの手であなたを触った瞬間、あなたは塵一つ残すことなくこの世界から消滅することになります。何か言い残したいことややっておきたいことがあるのでしたら、今のうちに済ませておいてください」
「おいおい。ちょっと待ってくれよ」
あのアラキラを一撃で屠るほどの力を持っているのだ。迂闊に勝負を挑んではいけない。
全身から力と殺気を抜きながらレオルスは女神へと問い掛ける。
「どうにかエウロを救う方法はないのかよ?折角もう一度こうやって会えたっていうのに、それをまたもう一度殺すなんて、あまりにも残酷じゃないか?」
「その説明はオレがさせてもらおう」
がさがさと草むらが揺れると、がさつな成人男性の姿をしたベヒモスが姿を現わした。
「この世界――いいや、どの世界だろうと同じだな――では一年のうちに死ぬ生き物の数が決まっていてな、オレたち天界の住民がそれを管理しているんだよ。例えば10人が死ぬと決定しているっていうのに、その10人を殺した後に2人生き返りました!ってなったらどうなる?計画に狂いが出てしまうだろう?そうならないようにオレたちは生命を生き返らせるのを禁止しているのさ。元々命の数を数える仕事をしていたオレだから知っているけど、一つ狂いが出るだけで大騒動になっちまうんだ。そこら辺の事情は分かって欲しい」
「だったら私が死にます!!」
目から大粒の涙を流しながらリルが叫ぶ。
「愛する人を二度も目の前で失うなんてもう嫌!!帳尻合わせができなくなるっていうんだったら、代わりに私が死んでエウロが生きればそれで数が合うんでしょ?!だったら私を殺してよ!!」
「残念ですがそれもできないんですよ。一人一人の寿命と『いつ殺すか』という綿密な計画も織り込まれていますからね。本来死ぬはずではないあなたが死んだところで代わりはできませんし、エウロさんはアラキラさんとの戦いで死ぬことが運命づけられていた。それだけのことです」
表情を変えないまま無慈悲に言い放つ。
「……変な真似はしないでくださいよ?確かにわたしはあなたたちを殺せませんが、死に相当するくらい深手を負わせることは可能ですからね。余生を健康に過ごしたいのであれば余計なことはしないでください」
周囲から発せられる淀んだ空気を感じ取ったのかテルルが念を押す。
「話を戻しましょう。エウロさん。あなたがこれ以上この世界で生きることは能いませんが、愛するモノに言葉を残したり、形見などの何か形のあるものを託すことは可能です。何か遺したいものがあるのであれば今のうちに言ってください」
「エウロっ!!エウロおっ!!……うっ!!ううっ…………!!」
「もういいよリル。元はと言えば意図せずに拾った命なんだ。君に会えて悔いはないし、カロルに与えられた命なんていらないと思っていたからね。もう十分さ」
イチイの樹から作り出したという杖を愛するモノに手渡しながら、エウロは女神の待つ場所へと歩みを進める。
「それ、かなり使いやすい武器だからリルが大事に使ってくれよ。……じゃあ、最後に一言」
「行かないでエウロ!!行かないでえ!!」
嗚咽と悲哀に支配されて力を失い、その場で泣き出したリルの頭を優しく撫でると、
「愛しているよ」
その手を温もりのある頭から離して冷たい少女の手へと乗せた。
途端、緑色のローブを着た魔術師は淡い光の粒へと姿を変え、空へと昇って行った。
「やっと一仕事終わりました。後はカロルさんを始末すれば終わりですね」
周囲に纏う不思議な力の影響なのか、裸足で歩いても雨粒を跳ね上げる様子はない。カミサマパワーを使って飛べばいいものの、手持無沙汰にゆっくりと歩き回りながら言葉を発する。
「それにしても人間たちって分からないものですねー。あるべきモノをあるべき状態に戻しただけですよ?なのに、どうしてそんなに泣けるんですか?それとも、わたしが知らないだけで皆さんこんな感じなのでしょうか?」
「貴様あ!!」
カチャカチャと鎧を揺らす音が鳴ったかと思うと、肩を怒らせたラウンが籠手に包まれた指で首元の布を掴み上げる。
「リルがどんな気持ちでエウロと別れたと思っているのだ?!貴様には人間としての心が無いのか?!!」
「ありませんよ。わたしは天界からあなたたちを見守る女神様ですから。あなたたちが生まれながらに人間であるのと同じで、わたしは生まれながらにして神なのです。ゴブリンに人間の気持ちを理解しろって説教するようなものですよ?」
「だったら分からせてやろうか?今この場で」
「いいんですか?わたしに手を挙げたら、これからの一生を仲間たちに見守られながらベッドの中で終えることになるかもしれませんよ?「殺すな」とは言われていますが、「怪我をさせるな」とは天界から一言も指示されていませんからね」
「私の身体と引き換えにしてでも教えてやろう!地上の世界で生きる人間やエルフがどんな生き物であるかをな!!」
「何をやっているんですか?」
テルルが発したのではない。
似たような声。
瓜二つの見た目をした少女。
「お姉さん……」
『ウェルタナ森林地帯フワワ抹殺作戦』を終えた『ライザーズ』たちが戦場だった場所へと足を踏み入れる。
「なろう」にていいねが一件増えました!いいねしてくださった方ありがとうございます!!
さて、そろそろ作品の裏トークと参りましょう!今回はこの作品の世界観についてです!!モチーフとなった作品等を列挙していきたいと思います!!
●魔法の詠唱・文言
・「エルーシア王国の残念な少女たち」
●スキル・ステータス・装備設定
・「Sランクギルドを追放された俺のスキルが、実は全てのステータスが1000000000000066600000000000001になるチートスキルだったので、ざまあすることにしました。」
・「キングスレイド」
●通貨設定
・「チート能力を授かって異世界に転移したけど、やっぱり元の世界に帰りたいと思う」
●時間設定
・「チート能力を授かって異世界に転移したけど、やっぱり元の世界に帰りたいと思う」
●単位設定
・「エルーシア王国の残念な少女たち」
●ヴィルリア教の神様設定
・「エルーシア王国の残念な少女たち」(全て名前を変えて採用)
●中世ヨーロッパ風の世界観
・「チート能力を授かって異世界に転移したけど、やっぱり元の世界に帰りたいと思う」
●昼型吸血鬼と夜型吸血鬼
・「エルーシア王国の残念な少女たち」
それぞれの作品を簡単に説明させていただきますと、
●「エルーシア王国の残念な少女たち」
藤井がこの世に放った三本目くらいの作品。【マジックマスター】と呼ばれるほどに強力な魔法力を持つが、パンツを脱いで片足に引っ掛ける『片足パンツ』にならないと上手く魔法が使えない少女主人公と、合法ロリババアの教師・血液の代わりに人間の体液を摂取しないと死んでしまう昼型吸血鬼の女性の三人の成長過程と旅を描いた作品。コンテストに落ち「ノベプラ」にてわずか60pv程度しか集まらなかったので封印。
●「キングスレイド」
Vespaという韓国の企業が運営するソシャゲ。
●「Sランクギルドを追放された俺のスキルが、実は全てのステータスが1000000000000066600000000000001になるチートスキルだったので、ざまあすることにしました。」
ギルドを追放された主人公が、全てのステータスがベルフェゴール素数(1,000,000,000,000,066,600,000,000,000,001)になるスキル【ベルフェゴール】を手に入れて無双するテンプレチートハーレムざまあもの。書いていて面白くなかったので未発表のままボツに。藤井の著作。
●「チート能力を授かって異世界に転移したけど、やっぱり元の世界に帰りたいと思う」
異世界転移した主人公が神様からチートスキルを授かるも、元の世界では何不自由ない順風満帆な生活だったし、神獣相手に無双するからつまらない、ということで、元の世界へと帰る方法を模索する話。『ガッチガチの中世ヨーロッパ』をテーマに書くも、「ノベプラ」にてわずが30pv程度。コンテストにも落ちたのでお蔵入りに。藤井の著作。
……と、言った感じです。
要するに、今までボツになったりお蔵入りしたような作品たちのいい所を継ぎ接ぎして組み合わせた結果生まれたのが本稿ということになりますね。これだけでも結構深みのある世界観を作れるんですね!!
逆に、これくらいしっかり世界観を練らないと深みを持たせるのは難しいということでしょうか?
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




