第65話:胸に備え付けられし禁断の二つの果実
「ふう~。一仕事終わった後のお風呂は違うねえ」
「『イラプトサークル』で温泉が湧いちゃったんですから、入らなくちゃ損ですよねえ」
先ほど魔法は敵にだけダメージ判定があるホログラム映像のようなもの、と説明したが、それはあくまで味方に対してのダメージ判定であって、地面やその他に対してはちゃんと魔法の影響は出る。ロマリアのど真ん中でぶっ放したが故に、石造りの建物から石畳まで滅茶苦茶にしてしまった『メテオシャワー=ストライク』が記憶に新しいか。
そして、『イラプトサークル』もどうやら同じだったようで、急な火山活動を起こしたことにより温泉が発生。SSランク級の人喰い獅子が出没する区画に指定されているために荒野には人影はなく、依頼達成報告をする前に一風呂浴びることになったのだ。
「やっぱお風呂はいいね……。いつもみんなを癒す側のルナティちゃんが唯一癒される至福の時間だよお……」
「虎だった時にはできなかったことだね。こんな時人間の姿になれて良かったと思うよ」
ルナティはだらしなくウサ耳を垂らしながら、タイガは肩まで浸かりながらそれぞれ口を開く。
『ネコ科の動物=水が苦手』というイメージがあるが、水が苦手なのはあくまでペット用として飼われている猫だけで、虎などの大型で肉食のネコ科動物は狩りをしたり体温を下げるために水の中に入るし、泳ぐこともできる。
ペット用の猫が水を嫌うのには様々な説があるが、ネコ科の動物の体毛の構造上、一度水を吸うとなかなか抜けない構造になっていて、水を吸うことで体重が増えて敏捷性が落ちてしまうから、という説と、古来から水を飲む時以外に水に触れる機会がなく、極端に水に触れない状況下で飼育されてきたから、という説がある。
そのため、大型のネコ科動物も水の中に入ると説明したが、体毛が水を吸ったことで重くなって敏捷性が失われ、カバやワニなどの狂暴な動物から逃げるのが難しくなること、獲物を追い駆ける際の脚力が失われることなどからも、あまり好き好んで入ろうとはしない。
「つ……、疲れたであります。しかし、疲れ切った後の風呂の心地の良さは至福でありますう」
風呂に浸かることによるリラックス効果として大きいものは二つ。
一つは、水の中に入ることで受ける静水圧によるマッサージ効果である。
風呂の中に入ることで浸かった部分全体が静水圧を受けることにより、重力で脚部や下半身へと下がった血流が心臓の方へと推し戻され、血液循環が向上するというもの。
もう一つは筋肉や骨の負担となっている身体を重力から解放させることである。
例えば60kgの人がいたとすると、頭の重さは全体重の約10%なので、頭部分を除く身体の重さは54kgとなるのだが、半無重力状態である水に浸かって浮力の恩恵を受けることにより、浸かった部分の重量を10分の1まで軽減することができるため、身体にかかる負荷を5.4kg分程度まで圧縮することができる。
これにより筋肉や骨が普段重力によって受ける負担を軽減し、文字通り『骨休め』をすることが可能になるのだ。
「それにしてもロイラン。身体じゅう凄い傷だね……。痛いのが苦手だから防御しちゃうルナティちゃん的には、見ていて痛々しいんだけど?」
「これでありますか?傷は騎士にとっては勲章のようなもの。大きい傷がある騎士こそが立派な騎士たる証拠であります」
ざぱあ、と温水を滴らせながら立ち上がると、身体じゅうに刻まれた大きな傷を撫でる。
「装備を付けて十全の対策をしてはいますものの、それでも防ぎきれない攻撃もあるでありますからね。そうなったら【朽ち褪せない騎士道】で裸一貫で耐えるしかないであります」
「みんなの前で脱いじゃうってこと?!えっちだねロイラン♡」
「例えでありますよ?!」
「……ルナティさんって立派なモノをお持ちですよね」
鎖骨のあたりまで浸かっているにもかかわらず『浮いている』と分かるほどに膨らんだ双丘を見ながら、セレンが恨めしそうに評する。
「ん?これ?ルナティちゃんのおっぱいのこと?……ちょっと揉んでみる?」
「な゛っ!?情けなんて要りませんからねっ!!わたしだって成長してビッグなボインになるんですからねっ!!」
「ボクとセレンはゼロスト様に『そういう見た目』でデザインされているから、セレンのはそれ以上大きくならないんじゃないの?」
「なんですかそれ?!それじゃあまるでゼロスト様が貧乳大好きみたいじゃないですか?!」
「伸びしろがあるだけいいんじゃない?私なんてとっくに成人しているから、このまま大きくならないよ?」
「絵理華さんは普通くらいあるからいいじゃないですか!わたしなんて、少し膨らんでいるくらいの貧乳ですよ?!こんなものマニアしか好みません!!」
「ふんっ!胸の大きさで女同士で乳繰り合うなんて見苦しいものね」
穿いているのがロングスカートでなければ間違いなく下着が見えていた。
水辺でゆったりと寝ているネメアの獅子の脇でドリルツインテを揺らしながら、メイアが呆れたような口調で話す。
「胸の大きさで話が盛り上がるなんて下品なものね。私たちはLSランクのギルドになろうとしている身なのだから、言動や態度にはもう少し気を使って頂戴」
「メイアはどうして温泉に入らないの?一緒に入らない?」
「その柔肌をルナティちゃんが味わってしんぜよう。ぐへへ」
「これだから庶民は。貴族たるもの風呂には入らないものよ」
ペストなどの疫病が流行した中世ヨーロッパでは、『風呂に入ると疫病に感染する』という間違った情報が貴族の間で拡散・信じられていたために入浴する習慣がなく、匂いの強いお香を焚くことで自身の体臭を誤魔化していたのである。
中世前期~後期、各国の事情によって諸説あり、「貴族は頻繁に風呂に入っていた」とするものや「貴族は風呂に入らないので体臭が凄かった」とするものなど、様々な意見や説があるようだが、どうやらこの世界では、入浴する=平民がするもので、金銭的に余裕がある貴族や富豪は高級品であるお香を使って体臭を紛らわせているようである。
「じゃあ全く風呂に入らないの?臭くない?それ??」
「失礼ね!水で流すくらいのことはしているわよ!!それに、質の高いお香を使っているから、そんなに苦にはならなくってよ!!」
「あれですよ絵理華さん。わたしたちがいちゃいちゃしているのが羨ましくなって、声を掛けてきたんですよ」
隣にいるセレンが告げ口するように話す。
「どうせ、「みんなの前で裸になるのが恥ずかしい」とか何とか理由があるんですけど、それを誤魔化すためにああやって言っているんですよ」
「んなっ?!そっ!そんなことはなくってよ!!貴族たるものは風呂に入らないのだわっ!!これは本当よ!!」
「あれでしょ?ルナティちゃんのナイスなボディに勝てないから、脱ぐのが嫌なんでしょ?メイっち?」
ざぱん、と温泉から立ち上がったことにより、ルナティの胸にある二つの果実が遂に公衆の面前に晒される。
(デカいね)
(デカいですね)
(……)
(ド、ドワーフたるもの『動きやすくて効率のいい身体』が理想の姿であります!あれほどに大きいモノを持っていると肩も凝るし、機動力に欠けるでありますう!!)
全く興味がないため仰向けでぷかぷか浮いているタイガを除いて、全員の視線が釘付けになるのだった。
「……いいでしょう。そんなに私を挑発するということは、余程の自身があるようね。後で後悔しても知らないわよ駄兎!!」
するすると衣擦れの音と共に着ていた服が開け、色白の肌が顕わになる。
「私に比べて綺麗な肌でありますね」
「吸血鬼の身体はある程度の傷であれば再生してしまうのよ。貴女のような痛々しい身体とは違うわ」
「それは残念でありますね」
とぽん、と湯に入るメイアの隣でハロイラが残念そうに呟く。
「つまり、どれだけ努力と武勲を重ねても、それを誇る方法がないということでありますか」
「なくていいのよそんなもの。獲物の首でも爪でも角でも、好きな部分を剝ぎ取って持っていけば、それだけで結果は示せるでしょう?」
「強い武器や装備を作った時、その時に使った鋼の硬さ・炉の温度・槌の叩き方・水に浸ける時間。その全てが気になるでありましょう?それと同じで結果ではなく、そこまでに至った過程を知りたい人だっていると思うのでありますが?」
「そんなものに固執するのは鍛冶が大好きなドワーフだけよ」
「私の考えすぎでありますかね?」
「おーい!無視ですか~?ルナティちゃんとのおっぱいバトルを忘れたのではないよね?」
「何よその下賤なバトル。……まあ、私が胸の大きさで負けるわけがないのだけれど」
ざば、と立ち上がって横に並んでみたが、メイアの惨敗だった。
服の上からでも膨らみが分かるほどの胸囲と、普通よりは少し大きいくらいの胸。どちらが大きいかなどと比べるまでもなく、そこには残酷な結果が待っているだけだった。
「なろう」にていいねが一件増えました!いいねしてくださった方ありがとうございます!!
後書きでついつい暗い話題ばかりしてしまうので、ちょっとだけ明るい話題を一つ。
先日ピュレグミを食べていたら星形のグミを発見しました。
公式サイト曰く確率は秘密とのことですが、ネットでの噂に寄れば、だいたい10袋に一つくらいの割合で入っているようです。ちょっとラッキーかも?
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




