第64話:『イラプトサークル』
『イラプトサークル』の正体は、指定した範囲の足元に火山を出現させて噴火させるという、非常に危険な魔法だった。円形に囲った地面からは火山口が隆起し、火砕流・マグマ・火山岩・有毒鉱山ガスを含んだ噴煙などが一気に噴き出して周囲一帯に蔓延する。
「ヤバいんじゃないのこれ?!」
「に、逃げないと焼き兎になっちゃう!!」
ここが周囲に民家がない荒野の真ん中であったのが僥倖か。
落とした卵に入った罅のように亀裂が広がる地面を見て顔を青くする一行だったが、
「何を言っているんですの?」
どぱどぱと流血のように流れ出るマグマを見ながら、色白の昼型吸血鬼は涼しい顔をしながら傘を差す。
「私たちは同じギルドの仲間でしょう?だったらFFは起こらないのだから、魔法に巻き込まれる心配はないわ」
そう言われて足を止めて火山の方を見る。
盛り上がった火山からは有毒鉱山ガスが漏れ出し、周囲一帯を赤黒い煙と赤熱した液体で満たしているのだが、一酸化炭素中毒になるどころか、息苦しさなども一切感じないし、目の前にマグマがあるにしては全く熱さを感じない。
『イラプトサークル』は指定した範囲で火山を噴火させる魔法であり、『メテオシャワー=ストライク』は隕石を落下させる魔法なのだが、これらはあくまで火山の噴火や隕石の落下を再現した魔法であり、実際の自然現象を起こしているわけではない。
敵に対しては魔法としてのダメージがちゃんと反映されるのだが、同じギルドのメンバーにはFFが発生しないようになっているため、攻撃が当たらないのだ。例えるならば、魔法という映写機を使って投影した、敵が触れた時だけダメージを受けるホログラム映像と言ったところか。
「凄いねこれ!魔証石に秘密があるらしいんだけど、どういう仕組みになっているんだろ?」
「ギルド案内所が持つ技術の中でもトップシークレットだそうよ」
そういえば、タイガは魔証石を持っていないため、厳密に言えば同じギルドに所属する冒険者ではない。そこら辺の事情を戻って来たハロイラに聞いてみると、
「【テイム】したモンスターであれば仲間としてカウントされるため、FFの対象外であります。魔法使いが魔法で使役する使い魔もそうであったと記憶しております」
とのことだった。
タイガはモンスターである都合上スキルを持てず、冒険者になることはできないのだが、『ロマリア市街ウェアタイガー抹殺作戦』の依頼達成報告をする際に、ウェアタイガーを殺すか【テイム】していることが絶対条件だと受付で言われたため、その場で【テイム】したのだ。つまり、タイガも【テイム】したモンスターに含まれるため、魔法による影響はない。
「そうだっ!ネメアの獅子はどうなったんだろ?!」
「あれだけの魔法が直撃したのだから、恐らく死んだのではなくて?」
「ええ~っ?!死んだら困るよ!!【テイム】したいのに!!」
「目の前で隆起した火山に打ち上げられるのを見たであります。あの高さから落ちたのであれば絶命していてもおかしくはないかと」
もくもくと周囲を煙で覆われているため、今はメンバーたちの声しか聞こえない。足元には溶岩・一面は有毒ガスで覆われているのに健康被害が全く出ないのは感覚が麻痺しそうだ。
噴火の勢いも酣を過ぎ、いよいよ勢いが弱くなってきた。数時間掛けて行われる火山活動を早送りの映像で観ているかのように勢いが衰え、サークル状に指定した範囲へと巻き戻したかのように火山が沈んでいく。
煙が晴れ、何事もなかったかのように荒涼とした大地が姿を現した視界の先、
「ぐるるる……」
大きなダメージを負ってはいるがネメアの獅子が怒りに燃えた目でこちらを見ていた。
「想像以上にタフだね?!」
ネコ科の動物は哺乳類の中でも優れた三半規管を持っており、三半規管による落下時間の計算と頭の向きの変換・手足を広げることによる速度減少・肉球による落下ダメージの吸収を本能的に行うことで、66フィート(約20m)程度の高さまでであれば無事に着地することができるのだという。
今回ネメアの獅子に蓄積されたダメージの内訳としては、
・火山が隆起したことにより打ち上げられたダメージ……英雄ヘラクレスに棍棒で殴られても気絶で済む程度の防御力を持っているため、それほどのダメージになっていない。
・上空に投げ出され、打ち付けられたダメージ……無事に着地したためノーダメージ。
・『イラプトサークル』……打ち上げられて着地した直後に逃げているものの、大きなダメージを負っている。
となっているようで、やはり、物理攻撃よりも魔法攻撃が有効なようだ。
「ぐあああああぁぁああああぁぁぁぁぁぁああああっっっっっっっ!!!!!」
天高く仰いで口を開くと、怒りの籠った鳴き声を挙げた。
「ハロイラ!もう一回タンクをお願いできる!!?」
「両スキルともCTに入っているため、私が生身で受けることになるであります!!そうなると長くは持たないかと!!」
「前衛なしですか?!そうなると魔法で動きを止めるしかありませんね!」
「何かないの?!」
「……待って」
ここで、さらしに腰巻きという露出度が高めの少女が三叉槍を構えながら前に立つ。
「ここはボクが引き受けよう。要するに、エリカが【テイム】できるだけの時間を稼げばいいんでしょ?」
「いくらタイガさんの身体能力があっても、相手は神話級の神獣ですよ?!いくら何でも無理がありますって!!」
「今回はさすがにマズいからね。ボクも本気を出させてもらうよ」
カラン――。
三叉槍を捨てて力を込めて一言。
「……ふんっ!!」
直後、虎模様のさらしと腰巻きを中心として全身を虎柄の毛皮が包み、全長20フィート(約6.1m)の巨大な虎へと変身した。
「なっ?!何ですの?!ウェアタイガー?!!」
「事前に聞いてはいましたが、変身するところを見たのは初めてであります!」
「ひええ!肉食獣怖いい!!またルナティちゃんの膀胱が危ないっ!!」
「…………」
「…………」
オーディエンスが騒ぎ立てる中、巨大獅子と巨大虎が対峙する。
が、どちらも睨み合ったまま一歩も動かない。
「??あんなに居丈高だったのに睨み合ったまま動かなくなっちゃった?!一体どうしちゃったのおおぉおっ!!」
「私、テレビで観たことがある」
あれは確か、船に乗ってアマゾン川の動物を調査する番組だったか。絵理華はガチガチと歯の根を震わせるルナティに、あの時に専門家が語っていた内容を断片的に拾い上げて説明する。
「ワニ同士が喧嘩する時って、お互いに一発ずつ強力な一撃を叩き込み合って勝敗を決めるんだけど、それでも勝敗が決まらない場合は引き分けになるんだって」
「お互いを噛み付きあったり、どっちかが死ぬまで争ったりしないんだ?!」
「もし仮にどちらかが勝って生き残ったとしても、生き残ったもう一匹は重症を負っているから、共食いされてすぐに死んじゃう。そうならないように、お互いに急所を避けるように攻撃をして、生命活動に支障を来さない程度の傷で勝敗を決めようとするんだって」
「ルナティちゃん草食動物の獣人で本当に良かった!!」
「呑気に話している場合じゃないですよ絵理華さん!早く【テイム】しちゃってください!!」
何度も説明しているが、ネメアの獅子の毛皮は如何なる剣や弓矢も通さないほどの硬さを持っている。全長20フィートほどの図体ではあるものの、人を襲って喰い殺すことを除けばただの虎であるタイガには勝ち目はないはずなのだが、琥珀色の瞳から放たれるタイガの威圧が凄いのか、それとも手負いでは相手に劣ると判断するほどの慎重な性格なのか、睨み合ったまま膠着して一歩も動こうとしない。
弱らせれば【テイム】による服従も可能なようだが、果たしてどれくらい弱らせれば【テイム】できる圏内に入るのか。
そもそも今の状況で【テイム】は可能なのか。
(今は自分を信じるしかない)
セレンは言っていたではないか、【テイム】が成功するか否かは魔力の量ではなく、「そのモンスターと仲間になりたい」という強い意志だと。
頭を振ってネガティブな思考を振り払う。魔法を使ってもう少しだけ弱らせる手もあったが、その魔法で殺してしまったら意味はない。【テイム】に賭けるしかないだろう。
肩の力を抜いてゆっくりと歩き、巨大な獅子へと手を向けると、
「【テイム】!!」
大声でスキルの名前を叫ぶ。
そして、
「ゴロン!!」
折角なので別の指示をしてみた。ネメアの獅子は一度だけこちらを見ると、
「くるる……」
気持ち良さそうに喉を鳴らしながら、人虎の前であるにもかかわらず、腹を天に向けて転がった。
「やりましたね絵理華さん!SSランク級モンスターの【テイム】に成功ですよ!!」
『エリカの「仲間にしたい」という強い思いが通じたみたいだね』
「ほわあ……。肉食獣に食べられる危機からは脱したんだね……。安心した瞬間尿意がっ!」
「ちょっと駄兎!!いい歳して漏らさないでよねっ!!」
「これがLSランクの【テイム】。勉強になるであります!!」
十二星座の一つ・獅子座を象徴する神獣が動物園のメンバーに加わる。
「なろう」にていいねが一件増えました!いいねしてくださった方ありがとうございます!!
「作家になる!」と宣言してニートになり、そろそろ三年になります。
三年の間、毎日毎日一生懸命執筆活動を続けて参りましたが、コンテストにノミネートされたことも書籍化したこともありません。このままでは本当に苦しんでいるだけのただのニートです。
この「作家になる!」発言は親戚や友人たちの間にも広まり、親戚や友人が応援してくれているのですが、母方の祖母は足腰が弱って立てなくなり、祖父は骨折して入院しました。そして、わたしの父は来年の四月に定年退職します。元々父が定年退職するまでに作家デビューができなければ、転職活動をしなければならないことになっていたので、ニート藤井のタイムリミットはあと半年です。
はっきり言って、このままではヤバいです。
家族を支えるためにも、死期が近い母方の祖父母に「作家になったよ」と胸を張って生活するためにも、作家に「なろう」ではなく、「ならなければ」なりません。
書籍化には1万ポイントくらいが目安だと聞きましたが、クソザコ作家藤井にはあまりにも高い壁です。
何が足りないのだろう。
何をしなければならないのだろう。
段々不安になってきました。藤井は作家になれるんでしょうか。
……暗い話をしてしまって申し訳ありませんでした。「人生は何もしないのには長すぎるが、何かを為そうとするには短すぎる」という言葉の意味が痛いほど分かります。もっと時間が欲しいです。時間があっても何も為せない自分の無力さが憎いです。
こんなことを吐露したって何も変わらないことは分かっています。
でも知って欲しいんです。ワナビの中には本気で作家を目指しているやつがいるんだってことを。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




