第62話:王と王と王妃
「はあ…………」
自分の身体の周りにいるモノたちは、どうしてこうも放埓者ばかりなのか。ゴロド王は重い息を吐く。
絵理華やセレンについての情報を話した直後、魔術王カロルは「くくく……。これは面白い」と呟きながら消えてしまった。何も教えてもらえなかったため、協調関係であるはずのゴロド王は何が面白いのかが分からないままである。
「どうしたものか……」
後に残されたのは装着することを強制された、禍々しい黒色をした指輪だけである。
何とも、中には猛毒が仕込まれているそうで、勝手に外そうとする、もしくは、カロルの意志によって起動するようになっているのだという。つまり、協力関係と言っても一方的で、ゴロド王には自由などない。
絵理華の討伐を頼んだ『煌々たる裁きの剣』からは報告が途絶え、カロルの姿も消えた。一体何をすればいいというのか。
「少し古い資料が出てきたのでお持ちしました」
……こんな時でも恙なく仕事をしてくれる忠臣には頭が上がらない。ぱらぱらと紙の資料を捲りながら読み上げる忠臣の言葉に耳を傾ける。
「魔王ロザスの直属の部下である四天王の中でも最も魔術と知略に優れた王である反面、計画の緻密さと慎重さも魔王軍の中では一番。綿密な下調べをしてからでないと行動に移さないため、計画を実行に移すまでが最も遅いとのことです」
「……やはりか」
ということは、恐らくだか本拠地である『探究の古城』へと飛び、いろいろな資料を読みながらあれこれ考えているということか。
勝手に行動したらカロルに殺される可能性がある。
しかし、魔王軍の中で最も行動に移すのが遅い王らしい。
ならば、このまま普段通りに政をして待つしかない。
「よく分かった。……で、今月の税収はどうなっている?」
「は。特に問題はありませんが、〇〇村から納められる税金の量が少しだけ――」
一国の王に必要なもの。
それは、四天王の一人に生殺与奪を握られていることを隠し、臣民の前では泰然と振る舞うことだ。
王としてできることをいつものように進めていく。
☆★☆★☆
一方その頃。
「胎より出でて奇跡を起こし、喪失を良質に変換せよ!リヴァイヴァル!」
『探究の古城』に一人の魔術師の言霊が響き渡った。土・光・闇。三つの属性の魔法を過不足ない加減で使うと発動できる魔法・『リヴァイヴァル』だ。
『リヴァイヴァル』は欠損した人間の腕や脚の再生をすることができる魔法なのだが、死んだ生き物を生き返らせることができる禁断の魔法でもある。倫理観云々の問題で生き物を生き返らせるのは魔術師の界隈では御法度なのだが、それはあくまで人間共が作ったルールの一つに過ぎない。魔王の手下であるカロルが律儀に守る必要など何処にある。
机の上に置かれた人間の腕の太さよりも太い尻尾は光を帯びると、尻尾をベースとして土によって尻尾の持ち主の形が形成されていく。
まずは尻尾。
尻尾と下半身は融合されており、その寸法は人間の胴回りと同じくらいの太さを有している。子供であればそのまま丸呑みできてしまいそうだ。表面にびっしりと貼られた青い鱗が不気味な光を反射する。
次に上半身。
簡素な色をしたさらしを巻いている以外は何も装着しておらず、薄橙色の艶めかしい肌が露出している。
妖術王妃アラキラ。
上半身は人間の女性、下半身は大蛇の、所謂『ラミア』という特徴を持つ蛇型獣人である。
「ん…………」
『目が覚めたようだな』
アラキラは何処か色っぽい声を漏らすと机の上で身体を起こす。
「あれ?アタシ生き返ってる…………?レオルスにバッサリ斬られたはずなんだけど?」
『ワタシが『リヴァイヴァル』で生き返らせた』
「……本っ当何でもできるよねそれ」
カロルが握っている杖を見ながら苦笑する。
魔杖アルーフ=ザ=レストリクション。
火・水・土・風・光・闇の六つの属性の力を持つ宝珠を嵌め込むことで、使用者を『マジックマスター』に匹敵する魔法使いへと押し上げる杖である。
スキルを授かった時点で使うことができる攻撃タイプ(斬撃か魔法か)・属性が決定するこの世界においては、まさに制約を超越する武器だ。
『確かに強力な武器には違いない。だが、その対価として生命力を大きく消耗する。生身の人間が使ったら、二・三回魔法を使っただけで死んでしまうだろうな』
「けど、既に死んでいるカロルにとっては欠点なし。何度でも制限なしに魔法が撃てる、と」
『その通りだ。……っと、こんな話をしている場合ではない』
漆黒に染まった杖の柄を床板に打ち鳴らす。
『エリカ=ヤマシロという女がいるのだが、何とも『煌々たる裁きの剣』と共に行動し、強力なモンスターたちを【テイム】しているらしい。アラキラにはそいつらを潰しに行って欲しい』
「エリカが勇者と行動を共にしてモンスターを【テイム】している?もうそこから意味が分からないんだけど?」
アラキラは肩を竦める。
「だって、勇者たちはあんなにアタシたちモンスターのことを憎んでいたじゃないか?なのに、どうしてモンスターなんて【テイム】しているのさ?」
『勇者一行がエリカ率いる勢力に負けたらしく、今はエリカ共の言いなりになっているらしい。その辺りの事実も確認したいから、アラキラには様子見も兼ねて攻撃を仕掛けに行って欲しい』
「相変わらず腰が重い王様だねえ。でもいいの?アタシが斬り込んだら、そのエリカとかいう女たちは全員死んじゃうよ?このまま手柄を取っちゃうけどいいの?」
『それはそれで構わん。できるのであればな』
「……そんなに手練れがいるってこと?」
『あの勇者どもを倒すことができるような『何か』があるのは間違いない。その点だけには気を付けろ』
「ま、大丈夫だよ。アタシを殺せるのは聖剣リライトだけだからね」
そのリライトにバッサリ斬られたから死んだわけだが、反省する気があるのかないのか。半人半獣の女は尻尾を揺らす。
「あ、そうだ!どうせならもう一人生き返らせて欲しいモノがいるんだけど、そいつも『リヴァイヴァル』で復活させてくれないかな?」
『誰のことだ?ロザスか?ゼルスか?ゴルガンか?』
魔王ロザスが率いる王は全部で四人。
剣術の腕で勝るモノは大陸に存在しないと言われた剣豪・剣撃王ゼルス。
図体で底知れない膂力を持ったオーガ・剛撃王ゴルガン。
魔術に関する知識と魔力量に長けたリッチ・魔術王カロル。
幻覚や毒などによる策謀に優れた蛇型獣人・妖術王妃アラキラ。
そして、全ての魔物を束ねる王が魔王ロザスである。
が、
「ゴルガンなんて復活させても意味ないし、ゼルスは生死不明じゃん?それに、」
口の端を歪めて笑う。
「ロザス様にあれこれ命令されながら侵略活動を進めるの、凄く苦痛だったんだよねー。自分のペースでのんびりやるのが一番でしょ?」
『違いない。ロザスは強い力を持った男だったが、少し落ち着かないところがあったからな』
合わせるかのように骨を打ち鳴らして笑う。
自由奔放な王と尻が重い王。
二人の王が勇者の討伐へと向けて暗躍を開始する。




