第61話:メイアとハロイラ
『ハロイラです。よ、よろしくお願いするであります』
がちゃがちゃと総重量66パウンド(約30kg)以上の鎧を動かしながら、ハロイラと名乗る少女は鎧に包まれた頭を下げながら一礼する。
「ず、随分と重装備だね……?どうしたのこれ?」
『ギルドの皆様に気に入ってもらえるように重装備で来ました!如何でしょうか?』
「例え重装備でも、動きもままならないようなら意味がないでしょうに」
黒を基調とした豪華な装飾が施されたドレススカートを揺らしながら肩を竦める。
『で、ですが、ドワーフの特殊な技術と【鍛冶屋】を使った強力な装備であります故、実用性の高さは間違いないと思われます!』
「これでもかしら?」
コンっと黒光りする靴で軽く小突かれると、
『わわわっ!止めるでありますう!!』
ゴロンと後ろに倒れ、そのまま起きられなくなる。
「全く……。時・場所・場合を弁えた格好をしてほしいものですわ。ここは戦場ではないのですし」
とりあえず、これから加わる仲間だというのに顔が分からないのは如何なものか。メイア以外の四人で身体を起こして兜を外すと、
「忝いであります!!」
ゴツイ鎧からは想像もできないようなかわいらしい顔が出現する。
くりくりとした綺麗な瞳に短く切り揃えられた茶色い髪をしており、横に突き出すように小さくて尖った耳が伸びている。
「あら?何かと思えばドワーフではないですの?勇者を支えた銘剣・聖剣リライトの制作は、いい仕事でしてよ?」
「吸血鬼の名家にお褒めに預かり、光栄であります!」
背筋を伸ばして直立し、まるで軍人のように居直す。
ドワーフといえば、北欧神話においてはトールの持つミョルニル、陸海空の別なく馬より早く走れる黄金の猪のグリンブルスティ、九日ごとに八つの分身を作成する不思議な腕輪のドラウプニル、飲むとあらゆる知識が得られるとされているスットゥングの密酒、如何なる方法でも破壊することができない必中の槍のグングニルの槍など、様々なものを作成した伝説を持つ生まれながらの鍛冶屋だ。
しかし、この世界には【鍛冶屋】なるスキルが存在することで、鍛冶の腕も経験もない全くの初心者でも素材さえあれば伝説の武器や装備が作成できてしまうので肩身が狭く、「ちょっと手先が器用な背が低い亜人種」みたいな認識を受けていたのだが、【鍛冶屋】スキルを持った冒険者とドワーフが共同制作した聖剣リライトによって魔王が死亡。一躍ドワーフの知名度と評価が上がったのだった。
「リライトは凄い剣でありましたね!私も永く生きていますが、あれほどの銘剣が生まれる瞬間に立ち会えるとは、感無量であります!」
「あの輝きには何物にも形容できない美しさがあったわ。私が夜型吸血鬼だったら、余りの神々しさに浄化されていたに違いありませんわ」
その聖剣を佩いた勇者レオルスが『アルミラージの集会所』で下働きしていると聞いたら、興奮するあまり卒倒してしまいそうだ。
「えっと、確認だけど、ハロイラがタンクでメイア――」
「メイア様と呼んでくださらないかしら?」
「…………メイア様がサブディーラーで間違いないんだよね?」
「ええ、問題ないわ」
「異論なしであります!」
「それぞれのスキルを知っておきたいから、ステータスを出してくれないかな?」
「了解であります!」
まずはメイアから。イヤリングへと加工された魔証石に触れるとステータスが浮かび上がる。
●名前……メイア
●性別……女
●年齢……124歳
●種族……吸血鬼|(昼型)
●所属……なし
●役職……剣士
●スキル……【アブゾープション】|(LSランク)・【漆黒の才・神】|(LSランク)
●レベル……91|(LSランク)
●最大HP……8,371|(SSランク)
●最大MP……4,892|(SSランク)
●物理攻撃力……2,202|(SSランク)
●魔法攻撃力……2,666|(LSランク)
●物理防御力……1,603|(Sランク)
●魔法防御力……1,813|(Sランク)
●敏捷……1,855|(LSランク)
●幸運……447|(LSランク)
◇OP――――――――――――
●クリティカル確率+250
●クリティカル確率+250
●クリティカルダメージ量+250
●クリティカルダメージ量+250
◇バフ―――――――――――
なし
◇デバフ――――――――――
なし
◇状態異常―――――――――
なし
「こ、この【アブゾープション】というスキルは何でございましょうか?」
「味方からMPを吸収する代わりに、その魔力を攻撃力へと変換できるスキルよ。……まあ、このスキルを発動しなければ倒せないような強敵とは戦ったことがないから、あまり発動したことはないのだけれどね」
絵理華の後ろに隠れて恐る恐る質問したルナティに対して、室内であるにもかかわらず差している傘の柄を揺らしながら答える。
「物理攻撃力も魔法攻撃力も高いし、サブディーラーよりもDD向けのステータスな気がしますね」
「サブディーラーというのは、DDが活躍できるように補助する役職でしょう?私は小さい頃からローゼンガウラ家直伝の剣術を嗜んできましたので、剣術でも魔法でもディーラーを補助することができましてよ。パーティで足りない方の戦力を補って差し上げますわ」
「それでは、次は私がステータスを開示してもよろしいでありましょうか?」
説明が終わったと判断したのか、左手に嵌められた腕輪の魔証石に触れてステータスを表示する。
●名前……ハロイラ
●性別……女
●年齢……257歳
●種族……ドワーフ
●所属……なし
●役職……騎士
●スキル……【妖魔の目配せ・神】|(LSランク)・【朽ち褪せない騎士道・神】|(LSランク)
●レベル……94|(LSランク)
●最大HP……12,859|(LSランク)
●最大MP……1,632|(Bランク)
●物理攻撃力……1,215|(Aランク)
●魔法攻撃力……355|(Cランク)
●物理防御力……2,691|(LSランク)
●魔法防御力……2,587|(LSランク)
●敏捷……309|(Bランク)
●幸運……178|(Bランク)
◇OP――――――――――――
●最大HP+25%
●最大HP+25%
●自動HP回復+5%
●自動HP回復+5%
◇バフ―――――――――――
なし
◇デバフ――――――――――
なし
◇状態異常―――――――――
なし
「聞いたことがないスキルばかりだねっ!【妖魔の目配せ】と【朽ち褪せない騎士道】って、どんなスキルなのー?」
「【妖魔の目配せ】は敵からのヘイトを集めるスキル、【朽ち褪せない騎士道】は一定時間の間、自身のHPが10%以下にならないようにするスキルであります!【鉄統鉄備】や【騎士の誇り】のように、自身の耐久を底上げするスキルは持ち合わせていないので、ヒーラーによる回復が大事になってくるであります!!」
「それならばルナティちゃんに任せなさ―い!ロイランを癒してしんぜよう。きゃるん☆」
「貴殿が『ズーキーパー』のヒーラーでありますか?!これからもよろしくお願いするであります!!」
「あれ?このステータスを見ると――」
ハロイラのステータスを見ながらセレンが首を傾ける。
「ハロイラさんの方がレベルも年齢もメイアさんよりも上ですね。と、なると、お二人は同期でも上下関係で言えばハロイラさんの方が上ってことですか?」
「んな゛っ?!」
金髪ドリルツインテの令嬢が嫌な汗を流す。
「なっ?!何を言っていますの?!!私は昼型吸血鬼のナンバー2であるローゼンガウラ家の正当な血筋を引く者ですのよ?!どうして獣人やドワーフに頭を下げなければいけませんの?!!」
「うーん。確かにそうだよねー。私がいた世界では年功序列って言って、年齢が高い方が偉いんだよねー。と、なると、ハロイラが一番偉いことになるんじゃないかなー?」
あの自信満々だったメイアが狼狽してる。
便乗した絵理華がからかうように持論を述べる。
「それに、ギルドに加入した順番で言えば、メイっちよりもルナティちゃんの方が早いんだよねー。ここは、ルナティちゃんたちにお願いしますって、頭を下げてみる?」
「だっ!誰が貴女のような兎に頭を下げるもんですか!!私が頭を下げるのはお父様と昼型吸血鬼の首領・イグロータスト家だけよっ!!」
「あのねメイア」
完全に聴牌っているメイアの前に立つと、赤い瞳を真っすぐに見つめながら口を開く。
「私たちはこれから一緒に冒険する仲間なんだよ?これから命を懸けて乗り越えなきゃいけないような壁だって、きっと出てくる。それなのに身分がどうとか、出生がどうとか、種族がどうとかなんて言っている場合じゃないでしょ?これからも仲良くしようよ?折角この場所で出逢ったんだからさ」
人間が。
人間(女神)が。
獣人が。
人間が。
ドワーフが。
自分を迎え入れるかのような温かい目でこちらを見てくる。
「確かにメイアは吸血鬼の中では凄いのかもしれないけどさ、いつまでもそんな態度でいたら、みんなやりにくいよ。頭を下げろとまでは言わないけど、自分から心を開いてくれないかな?」
「……ふんっ。人間如きが私に説教とは偉く出たものね」
腕を組んでそっぽを向くと、
「ただ、貴女達には特別に「メイア」と呼ぶことを許可するわ。私が貴女達を客人として招いたことを感謝するのね」
何とか聞き取れるくらいの声で呟いた。
「わーい!!よろしくねメイっち!!」
「その呼び方は許可してないわよ兎!!」
タンク・ディーラー・サブディーラー・ヒーラー。
四つのポジションがLSランクの冒険者によって埋まり、LSランクギルド・『ズーキーパー』としての活動が本格的に指導する。




