第59話:あと二人とギルドの名前
何かをやろうとすると何かが疎かになる。マルチタスクというものは難しい。
例えばインテリアを買いにラウドレーストの街に出掛けたり、『装備の欠片』を集めるためにモンスターの殺傷が原則禁止されているフリーダンジョンに行くのであればモンスターの【テイム】作業はできない。つまり、全ての作業がついでにできるわけではなく、何かをするのであれば何かを後回しにしなければならないのである。
主にやらなければいけないのはモンスターの【テイム】、ランクの高い装備の作成、セレンのレベル上げ、LSランクのギルドの結成なのだが、そもそも絵理華が目標としているのは動物園の設営だ。強い装備を作るのは後回しになるだろう。
しかし、LSランクの冒険者四人を集めてパーティを結成しないと、絵理華が潜れるダンジョンはせいぜいAランク程度まで。そうなると、ミノタウロスやマンティコア・エリュマントスの猪などの強力なモンスターや神獣が待ち構える依頼には挑むことができないため、珍しいモンスターを【テイム】することができない。
いつまでもプレオープンのような状態にしておくと『動物園』という存在そのものの目新しさや新鮮さがなくなるため、できることなら早い時期に経営開始してしまいたいのだが、まだ目玉となるようなモンスターの【テイム】が完成していない。となると、やはり最優先はLSランクの冒険者をあと最低二人集めてギルドを結成することか。
「うーん……。だとしても、どうやってあと二人もLSランクの冒険者を増やせばいいんだろ?」
思い返せばルナティがパーティに加わったのは成り行きのようなもので、こちらから頼んだわけでも募集したわけでもない。どうするべきかと異世界の手引きことセレンに相談してみると、
「やっぱりあれじゃないですかね、ギルド案内所で募集するのが一番早いと思います」
ぎしり、とベッドに小さくて柔らかい尻を沈めながら言葉を並べる。
「絵理華さんのように「同じランクの人同士でパーティを組みたいけど伝がない」という人が名簿に名前を登録しているので、そこから自分と気が合いそうな人を見繕うのがいいのではないでしょうか?」
というわけで最も冒険者が集まる大都市・ロマリアへと『ワープ』で移動。ギルド案内所に同じ内容を相談してみる。
「新しいメンバーの募集ですか?でしたら、こちらの資料をお貸しします」
すると、分厚いファイルのような本を手渡された。どうやら一ページに一人、冒険者の履歴書のようなものが掲載されている資料のようで、LSランクの冒険者が纏められている場所までパラパラと捲る。
「エフティナ…………、LSランクの【肉体強化】を持った武闘家で、近接格闘戦が得意……。年齢も近いみたいだし、この娘なんてどうかな?」
『サイキック=エクスプレッション』でルーンに込められた女性の写真を見ながら絵理華が口を開くと、
「「それはない」」
珍しく意見が一致したルナティとタイガが首を横に振る。
「その娘って熊型獣人でしょ?獣人キャラがルナティちゃんと被ってるし、肉食系獣人はちょっと苦手なのだっ!!」
「その娘に回避タンクが務まるのかい?前衛はボクだけで十分だよ」
パーティを編成するにおいて理想とされているのは、タンク・DD・サブディーラー・ヒーラーによる構成だ。
タイガはスキルを持っていないので頭数に入れないとすると、現在DDは絵理華・ヒーラーはルナティとなる。あと必要となるのはタンクとサブディーラーだ。
「コスタート…………、LSランクの【悪魔の勾引かし】を持ち、LSランクギルドでサブディーラーの経験を持つ魔法使い」
「却下します」
「それもない」
セレンとルナティが否定する。
「忘れてませんか絵理華さん!わたしはLSランクの【悪魔の勾引かし】を持った魔法使いですよ?!わたしなら補助系スキルである【天啓の導き】もLSランクで持ってますし、思いっきり被っていますって!!」
「男でしょそいつ?かわいいかわいいルナティちゃんが本人も知らないうちに誘惑しちゃって、冒険どころじゃなくなっちゃうよ?」
……これからはルナティの意見は無視するとしよう。諦めずにページを捲る。
「レクドーア…………、黒龍ガヴェルトとの激戦で重症を負ったことにより『煌々たる裁きの剣』から脱退したが、その難攻不落の圧倒的な防御力から『城塞都市』の二つ名を持っていた女性。LSランクの【天啓の導き】を持っていることによりサブディーラーとしても活躍できる騎士である。レオルスの仲間ってこと!?こんな人材まで登録されてるんだ?!!」
「却下します」
「それもないね」
セレンとタイガが難色を示す。
「さっき言ったばかりですよね絵理華さん。LSランクの【天啓の導き】は被っているんですって!!」
「『煌々たる裁きの剣』に所属していたということは、勇者と何かしらの関係があるんだろう?そんな危険な人物にエリカのタンクは任せられないよ。やっぱりボクがやらないと」
「…………じゃあ、誰だったらいいんだよう」
このままでは誰を採用しようとしても却下させる気がする。ちょっと泣きそうだった。
「決められないというのであれば、募集する手もありますよ?」
見兼ねたのかいつまでもわちゃわちゃされると邪魔だからなのか、ギルド案内所の受け付けのお姉さんが助言する。
「ギルドの名前や加入条件などを事前に決めていただければ、私たちの方から紹介したり、勧誘したりすることもできますが?」
「……それにしようか」
名簿を返してロビーの隅の方にそそくさと移動すると、輪になって会議スタート。議題は登録するギルドの名前についてである。
「ギルドの名前ですか。考えたことがなかったですね」
「ここはあれだよ、『ルナティちゃんと楽しい仲間たち』にすべきだよ」
「…………」
「えっ!エリポンが今まで見たことないような顔してるっ!!怒らせるようなこと言ったんだったらゴメンねっ?!!後で砂糖菓子おごってあげるからさ!機嫌直してよ!!」
「こんなに怒りを顕わにした絵理華さんを初めて見ましたっ!もう少し真面目に考えましょう!!」
うーん、と頭を捻る頭のネジが抜けた二人。
ちなみに、砂糖は大航海時代に突入して世界各国との貿易が盛んに行われるようになるまでは高価な調味料であり、その砂糖を使って作られたお菓子は貴族しか口にできないほどの高級食品であった。
「……っ!こんなのはどうでしょう?!絵理華さん、タイガさん、わたし、ルナティさんの四人の頭文字を取って『エタセル』!!いい名前じゃないですか?!!」
「『エタセル』か。確かにいい名前だけど、これからメンバーを二人増やすとなると、その都度名前を変えなきゃいけないよね?完全に反対するわけじゃないけど、保留にしとこうかな」
「っ!じゃあ、ずばり『ドウブツエン』なんてどうかな!?エリポンはドウブツエンの開園を目指しているんだよね?だったら宣伝する意味も兼ねてそのままの名前にしちゃえばいいんだよ!!」
「宣伝するのには申し分ないけど、もうちょっと捻りのある名前が欲しいなあ。……あ、『ブリーダー』なんてどうだろ?トリマーとかとの違いはいまいち分かんないけど、動物に関係する人であることは確かだったよね?」
気になったのでスマートフォンで「breeder」の綴りを検索。意味を調べてみる。
「「栽培者」・「過度に繁殖する動物を指す語」・「同性愛者が異性愛者を侮辱する時に用いる語」…………。あんまりいい意味じゃないね。何か他にいい言葉ないかな?」
「『ライザーズ』」
ここで思わぬ人物の介入が入る。
こういう話題にはとことん縁のなさそうな少女・タイガだ。
「ボクは英語について詳しくないから合っているかどうか分からないけど、「飼育者」のことを英語で「raiser」っていうよね?だったら『ライザー』を複数形にして『ライザーズ』にするのはどうかな?」
「『ライザーズ』ね。……あ、だったら「動物園の飼育員」って意味の英単語に「zookeeper」っていうのがあった気がする。そっちの方がいいかも?」
「それだと同じ名前のゲームがありますよね?さすがに同じ名前を付けるのはマズいんじゃないですか?」
異世界なのだから現実世界の事情や著作権云々の問題はあれこれ深く考える必要もないのでは、と思いつつもスマホで調べてみると、「ZOO」・「ZOOKEEPER」・「ズーキーパー」などの名前でシリーズ作品を出しているらしい。英語表記でもカタカナ表記でも名前が被るということか。
「うーん……。『ズーキーパー』にすると何だかパクリっぽくなっちゃうわけかー。それなら、『ライザーズ』の方が独創性があっていいかもね!ありがとうタイガ!!」
「エリカの役に立ててボクは嬉しいよ」
あんなに一生懸命意見を出したのにポシャった二人に対して手の甲を見せながらピースをし、自分が絵理華の役に立てた喜びを噛み締めるウェアタイガーの少女。
本人は知らないだろうと思うが、手の甲を見せながらピースをするハンドサインは、主にイギリスなどでは「くたばれ!!」などの侮辱を意味するサインである。
「なろう」にてブックマークが2件ほど増えました!ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!
ついでなのでここで今後の更新スケジュールの告知を。
現在第63話まで執筆が完了しておりますので、
・10月1日(土)……第61話投稿
・10月2日(日)……第62話投稿
・10月4日(火)……第63話投稿
と、しようかと思っております。
いよいよ書き溜めた分を全て消化したので、ここからは毎週火・木・金曜日の不定期更新となります!一週間に1~2本のペースで出せればいいかな、と思っております!!あしからず。
え?何故火・木・金曜日なのかって?
藤井が「リングフィットアドベンチャー」をやる曜日だからですよ!何かのついでがあると覚えやすいですよね!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




