第58話:黒髪美男と金髪美男
「あのギャルソンもなかなかの美形だったよね?!あの人よりも美男が出てくるとなると、一体どんな人が出てくるんだろ?!!」
「あれじゃないですか?やっぱりケツ顎のマッチョじゃないですか?!」
下手すると異世界の住民よりもこういう事情に詳しいセレンが便乗する。
「古くから欧州では二つに割れた顎は男らしさの象徴とされていますし、北欧では古くはヴァイキングのようなむさ苦しい男が好まれたと聞いたことがあります!!なので、これはケツ顎のマッチョに決まっています!!」
「ルナティちゃん的には「普段は頼りないけど、いざとなったら守ってくれる系男子」は外せないっ!少し弱々しいくらいの方が母性本能をくすぐられていいんだぞっ☆」
「…………興味ない」
椅子にゆったりと凭れて脚をぷらぷらさせながらタイガが呟く。
「エリポンはどう思う?!やっぱり「普段は頼りないけど、いざとなったら守ってくれる系男子」の方がいいに決まっているよね?!」
「私っ?!私に振るのっ?!!えっ、えっと……、理想のイケメンね…………」
そういえば、世話をするのも動物、家に帰ってテレビを観るのも動物番組。イケメンアイドルを追っ駆けたり、イケメン男子との恋愛シミュレーションゲームみたいな、いわゆる乙女系と言われるようなジャンルにはあまり触れてこなかった。
「やっぱりあれじゃない?普段は素っ気ない態度を取ってくるけど、ふとした瞬間甘えてくるような男の子がいいんじゃないかな?」
「んおお!エリポンの意外な恋愛観っ!それはそれでありだね!?」
「いわゆるツンデレってやつですね!?わたしは結構好きなジャンルだったんですが、今や少女漫画でもあまり見掛けなくなった気がしますっ!!」
昔読んでいた少女漫画の知識を付け焼刃で出してみたが、よく考えたら猫の特徴だこれ。もしかしたら動物しか愛せない体質になってしまったのかもしれない。
「お待たせ致しました」
そんなこんなで漫談していると料理が到着。何か聞いたことがるような声がしたのでギャルソンの顔をガン見すると、
「トール…………?」
「げ……っ。やっぱりお前たちだったか」
そこにいたのはトール。北欧神話最強の軍神と謳われた神様である。
「どうしてトールがこんなところにいるの?」
「……決まってんだろ?日銭と宿の経営費を稼ぐためだよ」
少し恥ずかしそうにしながら湯気の立つ料理を次々と机の上に置く。
「ラグナロクが起きる前からずっとここで働いていてな。また戻ってきたんだよ」
「じゃあ、もう一人の黒髪の男性っていうのも?」
「ばあ。俺のことかな?」
まるで影のように後ろにべったりとくっついているロキが姿を現す。
「俺もトールくんと一緒にここで働いていたんだ。どうやら俺たち二人は女性に人気があるみたいでさ、結構繁盛してるんだよね」
「別の机に料理を運んでおいてくれって言っただろうが!ったく。じゃ、オレ様たちはまだまだ忙しいからここで失礼するぜ」
「あっ、待って!ラウドレーストで客室用のインテリアを買いに行きたいんだけど、仕事が終わったら一緒に来てくれないかな?」
「それだと時間が遅くなっちまうから、オレ様たちのシフトがない日でいいか?その日なら付き合ってあげられるぜ?」
「本当?!ありがとう!!」
掌を見せてひらひらと振るのはギリシャなどでは相手を侮辱する時に用いるハンドサインである、……ということを思い出したので、優しく微笑んで見送る。
「だーっ!!何だよもう!!何が悲しくて高い金払って知り合いに会わにゃならんのだあ!!金返せちくしょう!!」
「落ち着いてくださいルナティさん!あの二人はこの店では人気のギャルソンなんですよ?!周りの視線が痛いです!!」
自分の推しの文句を言っているやつを見て不快に思わない者などいない。睨みつけるような視線があらゆる席から向けられて針の筵となった。
「とりあえずさ、折角料理が来たんだから食べようよ。まだ温かいうちにさ」
「これで料理も不味かったら許さないかんねっ!!」
時として知らない方が幸せなこともある。自分が何を頼んだのかも上の空だったのか、何の躊躇いもなしに千切ったパンを兎の肉が入ったシチューに浸して食べる。
そして一言。
「美味しい!美味しすぎるっ!!こんなに美味しいお肉を食べたことがないよっ!!一体何の肉を使ってるんだろ!!?きっと豪華な肉を使っているんだろうな!!」
「え?さっき自分で注文していたじゃないですか?う――」
むずり。
隣に座った金髪の女神の口を素早く抑える。
「(ここは絶対秘密にしておいた方がいいって。そっとしておこうよ!!)」
「(やっぱアレですかね?兎と兎型獣人って、同じ種族なんですかね?)」
魚の撒き餌に魚のすり身を使っているような気分だった。絵理華も鯉の出汁とパセリのスープをずずと啜ってみる。
「うん。いい味だね」
高いお金を払っているのだから不味くては困るのだが。隣に座っているセレンがスープを浸したパンを笑顔で頬張っている姿と、対角線上に座っているタイガが無言で牛肉に齧り付いているところを見れば、まだ感想を述べていない二者がどう考えているのかは一目瞭然だ。
「ふう……。満足満足。また来ようかなこの店」
「つ、次は私が飲んだ鯉のスープなんてどうかな?私がいた世界でもあまり食べる魚じゃなかったから、貴重な経験だったよ?」
「恋に焦がれるルナティちゃんにはピッタリだねっ!!」
トール・ロキと一緒に買い物する約束をしたものの、ある程度品定めをしておいた方が楽には違いない。食事を終えてインテリアや雑貨などが売っている店を転々と回ると、その日はあっという間に暮れていった。




