第57話:ちょっとエッチなお店?
「装備って高いんだね……」
とぼとぼと背中を丸めてラウドレーストの街を歩く一行。
装備というものは『装備の欠片』を11パウンド(約5kg)集めることで一つ完成する。
装備枠は「防具」・「装備」・「装飾品Ⅰ」・「装飾品Ⅱ」の四つの枠が存在するため、最短で完成させるとしても44パウンド集めて【鍛冶屋】で四つ生成してもらわなければならない。
装備を中古として購入するとなると、前述の作業を全て省略したことになるため、その分値段は高めの設定となっているのだ。
「いいOPも全然ありませんでしたね……」
勿論、要らなくなって売られるような装備に需要の高いOPが備わった装備など付いているはずはなく、しかも、バラバラで販売されていることからシリーズ一式を揃えられるかどうかも怪しい状態だ。中古なため仕方ないと言えば仕方がないが。
「欲しい装備があるならボクが勝ってあげるのに……。どうしてエリカは遠慮するんだい?」
隣ではタイガが頬を膨らませる。
ロマリアの街にある闘技場で稼いでいたというのもあって財産は多く持っているようだが、前世からの付き合いとはいえ相手はベンガルトラだった幼女。金銭的な面で幼女に集るのは一社会人として申し訳ないような気がしたので遠慮してしまったのである。
「まあそんなにくよくよしなさんなって!Aランクくらいの装備だったらフリーダンジョンを何回も潜ればそんなに苦でもないし、また時間を見つけて行こうよ!!ところでさ、あの行列何だろう?」
足を止めたルナティの視線を追ってみると、紫を基調とした外観の店に人集りができていた。我先にと入り口に集まった人々は何故か女性ばかりで、店の前で楽しそうに話している。
「ルナティってラウドレーストに詳しいんだよね?だったら、あそこが何の店か知っているんじゃないの?」
「ルナティちゃんはヴィルリア様みたいに全知全能の女神ではないからなっ!素性が分からない店だってあるのだ!!」
「何か店頭でイベントでもやっているんですかね?」
「……待って」
珍しく真剣になったルナティがレーダーのようにウサ耳を立て、遠くの店で繰り広げられる客たちの会話をキャッチする。
「…………店に恰好良い男がいる?特に、私は黒髪の方が好み、ですと?!」
アンテナから特定の電波を拾ったラジオよろしく口から声を漏らす。
「私は金髪の方が好き。このままお持ち帰りされたい、だって?!」
「つまり、イケメンが経営するお店ってこと?」
「美男ハンタールナティちゃんとしては、行かずにはいられませんなあ!!げへへ」
何の店か確認した方がいいのでは?と忠告しようとしたが遅かった。脱兎の如く駆けると大通りを横切って店の前の人集りへと猛アタックしている。
「どんなお店なんだろうね?」
「これはあれかもしれません。ちょっとエッチなお店かもしれません」
神妙な面持ちをしながら金髪の女神は語る。
「お店の外観がちょっと豪華な感じの紫色をしていますよね?それに、並んでいる人がほとんど女性……。これはあれじゃないですか?女性向けの風俗店的な感じの、エッチなお店なんじゃあないですか?」
「だとしたら、こういうのってピンクのイメージがあるんだけど?」
「エッチな色=ピンクというのは、日本人特有の考え方ですよ絵理華さん」
身体の動きに合わせて純白のトーガが揺れる。
「ヨーロッパ圏でも様々で、例えばイタリアでは赤、スペインでは緑をエッチな色とするみたいですが、世界共通でのエッチな色のイメージは紫だと言われています。諸説ありますが、男性をイメージする青色と、女性をイメージするピンク色が混ざった色だからと言われていますね」
「……随分詳しいねセレセレ。『いたりあ』とか『すぺいん』が何のことか分かんないけど」
「ゼロスト様から聞いてはいたけど、相当カミサマTVを観ていたようだね?」
「ぶっ!?ひっ、人の営みを空から見るのって結構楽しいんですよ?!いやあ、みんなにもさせてあげられるんだったらさせてあげたかったんですけどねえ!残念ですねえ!」
そうこうしているうちに女性たちの波は進んでいき、店の中へと到着する。
「いらっしゃいませ。四人でよろしかったでしょうか?」
考えてみれば、エッチなお店というのは夜に店を開き夜に繁盛するもの。大陸最大の都市に隣接する市街地で、大通りに面した店で白昼堂々と経営するわけがないのだ。『アルミラージの集会所』のように宿と居酒屋が隣接したタイプのお店のようで、高級志向なのか綺麗な衣服を身に纏ったギャルソンが対応する。
「……えっと、宿泊はいいので四人分の食事を摂りたい、ん、だけど?」
思い描いていたようなエッチなお店じゃなくて嬉しいような寂しいような。ギャルソンに案内されるままに席に案内される。
「見てよエリポン!こんな所にフィンガーボウルで濡れた手を拭くための布があるよっ!もうこれだけで高級だって一目で分かっちゃうね!!」
精緻な造りがされた椅子に座るや否や、綺麗に折り畳まれたリンネル生地のタオルを見て思わず歓声を挙げるルナティ。
現在わたしたちが使っているタオルは19世紀頃に生まれたものであるため、厳密に言えばタオルではないし、リンネルを使った布製品自体は紀元前から用いられていたのだが、濡れた手を拭く時などは余った布や使っていない布類などを使うのが一般的で、『わざわざ手を拭くためだけに布を用意する』というのが、既に貴族や上流階級の考え方なのだ。
「ご注文は如何致しましょうか?」
「…………」
さすが高級志向の店。ただのパン一つ頼むだけでも8ルーロ(200円)もしやがる。
中世においてパンを焼く窯は共有物であり、とりわけ貴族や上流階級の持ち物であった。さらに、窯を使おうとするのであれば使用料を徴収されたため、貧民や農民は古くて硬くなったパンくらいしか口にできず、それこそふわふわした柔らかいパンこそが高級食品の一つと言える。
それだけ味に自身のあるパンというのであれば食べてみたい気にもなるが、この値段であればゴロド王国の市場で質の悪いパンと言えども大量に変えてしまう。一袋1,000円の高級食パンの値段を見て、「同じ値段で市販のスーパーで食パン三袋買うわ」と思い直した気分だった。
麦さえあれば比較的簡単に自分で醸造できるビールが『液体のパン』と呼ばれていた理由が何となく分かってきた辺りで、
「あ、あのっ……」
デカいウサ耳が付いているのに他人の前では借りてきた猫のように大人しいルナティが、上目遣いでもじもじとしながらギャルソンに質問する。
「この店には黒髪の美男と金髪の美男がいると聞き及んだんですけど、もしかして、あなた様がその美男でしょうか……?」
「黒髪と金髪の美男……。ああ、あの二人のことですか。当店では料理をその二人に支給してもらうこととなっておりますので、まずは料理の注文からお願いしてもよろしいでしょうか?」
……つまり、「イケメンに逢いたかったら高い金を払って飯を食え」と。
「んほぉ~!ここは奮発しちゃうぞルナティちゃん!!兎肉のシチューを注文してもいいかな?!」
興奮するあまり共食いになることすら気づいていないようだ。「うげえ!やっぱり交換する!!」と後出しされてもいいように、絵理華は鯉の出汁とパセリの入ったスープを注文し、セレンは豚肉スープ、タイガは牛の焼肉を注文する。
「なろう」にてブックマーク1件、感想1件いただきました!ブックマークしてくださった方&感想を書いてくださった方ありがとうございます!!
先日スマホを買い替えたという話をしましたが、初代・二代目でずっとAndroidを使っていたところからのiPhoneの移行となりました。
そのためiPhoneには全然慣れておらず、検索時の新しいタブの開き方ですら分からない始末です。全然分からねぇ!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




