第56話:ピンク同盟
「到着~!」
セリィの店から少し歩いた先。
『カメレオン』という横向きの看板が入り口の上に掲げられた、一面ピンク色のペンキに塗られた店が出現する。
「こ、ここに入るの……?」
「怪しい店とかじゃないですよね…………?」
一面がピンク色といっても勿論手塗りなため、所々に塗り斑があり、ピンクの濃淡が何とも不気味な雰囲気を醸し出している。店の名前も何処かちぐはぐな気がして、名前と外観だけではちょっとエッチなお店に見えなくもない。
「ちゃんとした【染物師】のお店だよ?ささ、早速中に行くのだ―」
何の躊躇いもなく中へと入っていくので、三人も慌てて後ろに続く。
「いらっしゃい!……そちらのお客は?」
店に入ると内装までピンク一色の空間だった。店のカウンターでは気の優しそうな線の細い男がこちらを見ながら営業スマイルを向ける。
「おっすハルト!この三人はルナティちゃんの大事な仲間だぞっ☆」
「初めましてハルトさん」
「日本人みたいな名前の人もいるんだね」
「ワタシの名前はハルトじゃなくてラインハルトって名前なんだけど、ルナティちゃんが勝手に略しているだけ。ラインハルトって呼んでよ」
「恰好いい名前だね」
「そんなことないさ」
手をひらひらと振る。
「ラインハルトっていうのは下級貴族によく付けられる名前でさ、これじゃあ「ワタシは下級貴族の出身です」って言っているようなものじゃん?全然いい名前なんかじゃないよ」
日本における太郎と花子がジョンとジェーンなように、ラインハルトもまた下級貴族の間では、とりあえず男の子に付けられる名前らしい。
ちなみに、「〇〇バッハ」は「小川さん」、「〇〇スキー」はロシアでは「鈴木さん」くらいの感覚だとか。
「というわけで、この三人はルナティちゃんと大の仲良しなのだあ。だから、いつもの調子にしてもいいよ?」
いつもの調子?
一体何のことだろうか。
カウンターの前に立つ男性を見ると、
「あらそう~?」
言葉遣いが突如女々しいものになる。
「隠しておくの大変だったのよルナティちゃん~♡。で、今回も装備をピンクにすればいいのかしら?まあ、ピンク以外には染める気はないのだけれど」
「「「…………」」」
三人が呆気に取られている中、ルナティの手からラインハルトへと『月虹装備』(改造済み)が渡る。
「セリィちゃんのお店で改造してもらった後の装備ね?どれくらいのピンクがいいのかしら?」
「あんまり強いピンクよりも、少し薄めの方がいいと思うんだよね。だから、白に近い感じのピンクなんてどうかな?」
「あら素敵♡。布地の薄い服の上からピンク色のインナーが見えているような感じになりそうね。14ルーロ(約350円)いただくわよ」
「セリィの店よりも少し安いね?」
「装備の色を恰好よく変えたい、って人は結構いるからね。少し安くても利が出るのよ。……ピンクに染めたいって人はあまりいないんだけど」
壁際に張られたロープに吊るされた『月虹装備』がスキルの加減で色を変えていく中、セレンがルナティと言葉を交わす。
「もしかして、ルナティさんが着ているシルク製の男性用上衣も、ここで着色してもらった物ですか?」
「かわいいピンクでしょ?ルナティちゃんはハルトが染めるピンクがお気に入りなのだ!!」
「最初に店に入る時、かなり勇気が要りませんでした?月明りに照らされたらかなり恐ろしい外観になりそうですよ?」
「ピンクが好きなやつに悪いやつはいないのだあ!!それに、ハルトとはピンク同盟を組んでいるからねー」
「ピンク同盟?」
「ワタシとルナティちゃんが組んでいる共同戦線のことね」
綺麗に畳まれた『月虹装備』一式をルナティへと返しながら口を開く。
「二人でピンクのかわいさと素晴らしさを伝えるのよ!そして、この世界をピンクに染めてやるの!!」
「このルナティちゃんに任せなさーい!そのために、ルナティちゃんが歩く宣伝広告になっているんだからねっ!!」
受け取った装備をしっかりと確認する。
「…………うん。いい塩梅の色だね!ルナティちゃんの好みの色です!!」
「それは良かったわ♡。ルナティちゃんが有名になって、ワタシのお店も一緒に有名になる日を楽しみにしているわよ」
「むー。それではルナティちゃんがまだまだ人気がないみたいじゃないですかー……?」
「そ、そういうわけじゃないのよっ?!ほら、一緒に有名になれば一緒に成長した姉妹みたいじゃない?その方が感動的でしょ?!」
「それは言えてるかも?!アイドルは崖っぷちから這い上がった方がアツいしっ!!」
「それじゃあ今度はワタシのお店が崖っぷちみたいじゃない……?」
「言葉選びって難しいね!!」
はははっ!と二人で楽しく笑った後、店を後にした。
☆★☆★☆
「いらっしゃい!!おっ!シュナウトじゃねぇか!……ってことは、もう一週間経ったってことか?!」
「この前ヘイムダル君が交渉しに来てくれたじゃないか?その時の商品を追加で仕入れに来たんだよ。店の前に降ろしてあるからね」
「毎回済まねえな!……あ、ビールでいいか?」
「一杯お願いするよ。やはり、一仕事終えた後はビールに限る」
「液体のパン」という別名が付くほどに紀元前から盛んに飲まれていた水漿を求めるべく、布で汗を拭いながらカウンターへと足を運ぶ。
「男は急成長するから三日間会わなかったら注意しろ、なんていう言葉があるけど、『アルミラージの集会所』も随分と成長したものだね。ガルシャ君の経営手腕や経営方法に何か秘密でもあるのかい?」
「この前話しただろ?異世界から来た女の子がいる、って。その娘が動物園を造りたいって言ってオレに協力的に働いてくれるようになってから、見違えるほどに変わっちまったよ」
「ふふふっ。もしかしてその娘って、商売の神様であるダッポス様が人間に変身した姿で、ガルシャ君に恵みを与えてくれているのかもしれないよ?」
「どうだかな。それにしては何だか落ち着かない女たちばかり侍らせて、毎日やりたいことを楽しくやっているだけにしか見えねえけど。それに、ダッポスって確か男神だろ?もしそうだったとしても、女の子に化けるなんざ一体どういう風の吹き回しだよ?」
思わず神様のことが分からなくなりそうになった大英雄だが、そういえば北欧神話のロキは雌の馬に変身して子供を産んでいるし、日本神話では英雄日本武尊命が女装して宴会に乱入して熊曾建を殺害している。案外知らないだけで女装や女体化に関するエピソードはあるのかもしれない。
「でも、静かすぎるよりも賑やかな方がいいじゃないか。僕なんて単騎で活躍する行商人だからね。こういう温かい喧噪には憧れるものだよ」
「だったら変な意地張ってないで商人ギルドにでも入ればいいじゃねぇか。その方が互いに互いの身を案じてくれるから、モンスターに襲撃される心配だって少なくなるぜ?」
「賑やかな喧噪は好きだけど、人付き合いはあまり好きじゃなくてね。ほら、ああいうコミュニティって毎日飲んでばかりでしょ?みんなで意地汚く笑うのは僕には性に合わないよ」
「……お前、商人に向いてないんじゃないか?商人にとって人付き合いは必須だろ?」
「仕方がないだろう?冒険者にも向かなかったんだからさ」
木製のジョッキを持ち上げると、その動きに合わせて指に嵌め込まれた魔証石が陽光を反射して光った。
「なろう」にて感想を一件いただきました!感想を書いてくださった方ありがとうございます!!
実は本作品、「ノベルアップ」で落選した「ファンタジー設定コンテスト」の設定をほぼそのまま使って世界観を構成しています。
さらに、本稿とは別の作品ですが、藤井は「第29回電撃大賞」では一次選考も通らないまま落選しています。
「ファンタジー設定コンテスト」の審査員の皆さん、観てますか?あなたが「つまらない」と思った作品設定は、こんなにも美しい世界を創り出していますよ?
電撃大賞の審査員の皆さん、観てますか?あなたが切り捨てた作家は、「なろう」の中では中の上に位置するくらいには大成しましたよ?
この作品を大いに盛り上げて、藤井のリアルざまあを達成させてみませんか?!!
……なんてね。出過ぎた発言でした。
「とある魔術の禁書目録」が実は三次選考で落とされた作品だったり、「進撃の巨人」が実はジャンプやサンデーに拒否されてマガジンに拾われた作品だったり、「ハリーポッター」が実は10社以上の新聞社で受け入れを拒否された作品だったりと、藤井にもいつか何処かでシンデレラストーリー的な未来があるかも?!そんな希望を抱きながら、日々執筆に精進して参ります!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




