第55話:ラウドレーストの街
「えっと、私が着る低ランク装備の購入と、ルナティは『月虹装備』のリメイク。後は客室用の小物の購入っと。何だか忙しくてゆっくり観光している暇もなさそうだね」
「とりあえずは装備を整えるのを優先した方がいいかもしれません。強い装備を手に入れれば依頼も楽になりますしね」
「トールとロキは宣伝担当だけど、まだ本格的に宣伝活動を行っていないから実質仕事がないんだろう?だったら、また後日来て二人に荷物持ちをさせようか?」
「おっ!男に荷物持ちをさせるですと!?それが許されるのは恋人同士だけだぞ☆」
「……そういうものだっけ?ボクが生前にいた動物園ではそういうカップルはあまり見掛けなかった気がするけど」
動物園の動物や水族館の魚たちは、来訪する人数が少ないとペットロスで体調を崩すという。
人間が動物や魚を見て癒されているのと同時に、動物や魚たちも人間を見て癒されているのだ。逆に言えば、動物たちはそれほどまでに人間たちの動きをよく観察しているということか。
「じゃあまずは、ルナティちゃんの『月虹装備』のリメイクから行ってもいいかな~?皆の者、ルナティちゃんに続け~☆」
土地勘があるのはルナティだけなので、別行動をしたところで迷子になるだけだ。後学のためにも装備の改造ができるという【裁縫師】の店を目指して、マイクのような武器をマーチングバンドの指揮者・ドラムメジャーのバトンのように振り上げるルナティの背中に続いてラウドレーストの街を歩く。
服や装備に関係する店が多く立ち並ぶ都市というのもあって、店先にお洒落な装飾がされた店が多く軒を連ねる。ロマリアが行政や都市としての中心地とするのであれば、ラウドレーストは娯楽やファッションの街と言った感じのようだ。
「着いたよ」
辿り着いたのは入り口の上に『フェニックスの灰』という横文字の看板が掲げられた、ごく普通のお店。
軒先に服などが展示されているわけではなく、民家に店の看板を出しただけのような簡素なデザインの外観だ。
「いらっしゃいませー。お、ルナティじゃん!おすおっす」
店の中に入ると退屈そうに椅子に座っている女性がいた。頭頂部に三角形の耳が立っているところからすると、猫型獣人のようだ。
「おっすセリリン。『月虹装備』を手に入れたから改造して欲しいのだよー」
「マジ?!『月虹装備』?!あのルナティが?!!」
がたり、と椅子を倒しながら驚愕する。
「…………本当に『月虹装備』じゃん!どうしたのこれ?何処かから盗んできたとか?」
「失礼なっ!!ロマリアで見つけた依頼に『月虹装備の欠片』が報酬にあって、そこから作ったんですよーだ!!」
紺色の服を見ながら目を白黒させる獣人少女と頬を膨らませる獣人少女。
「珍しいね。そんなに報酬を奮発してくれる依頼があるものなんだ?……おや、ごきげんよう」
ようやく後ろにいる絵理華たちに気づいたのか、ひょっこりと顔を覗かせながら挨拶する。
「あたしはセリィ。この『フェニックスの灰』で【裁縫師】のスキルを使って装備の手直しをしているよ」
「私は絵理華でこっちがセレン、こっちがタイガだよ」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
三人で軽く頭を下げる。
「……で、三人はどんな関係なの?ルナティが男に出逢えなさすぎるあまりに抱いちゃった女の子たちとか?」
「ぶっ!そんなんじゃないやい!!ルナティちゃんの頼もしい仲間たちなんだい!!」
「へえ、あの小さい頃は誰にも心を開かなかったルナティが仲間を……?あたしがお母さんだったら泣いてるねこりゃ」
「ストップストーップ!!ルナティちゃんがみんなのアイドルになるまでの前日譚は、年齢よりもトップシークレットなのお!!」
にしし、と悪戯っぽく笑いながら『月虹装備』をカウンターに置く。
「さて、それじゃあ早速リメイクするとするかね。24ルーロ(約600円)ね」
「結構高いんだね……」
ロマリアへの通行料が一人20ルーロ(約500円)であることを考えると、どうしても割高に感じてしまい、思ったことが無意識に口から出てしまう絵理華。
「あたしはこのリメイクを生業にしているんだけど、装備をお洒落に改造したいなんていう輩はまだまだ少数派でね。一回にこれくらい料金を取らないとあたし自身が食っていけないのさ。代わりといっちゃなんだけど、料金さえもらえば客が満足するまで何回もリメイクしているから、それで勘弁してくれよ。ちなみに、装備の修復作業なんかもやってるけど、そっちはちょっと安値でやっているよ」
ルナティから銅貨を受け取りながら苦笑する。
「リメイクはどうやってやるんですか?見たところセリィさんが着ている服は作業着ではないですよね?」
「スキルを使ってぱぱっとやっちゃうから、工具とかの類は要らないのさ。さあルナティ。あんたはこの装備をどんな風にしたい?」
ローブの裾に紐を通し、その紐の一端を壁に打ち込まれた杭に結ぶと、あまりいい例えではないが、ローブが磔にされたような状態となって空中に吊るされる。
現代の我々の感覚だと『吊るす』=ハンガーなのだが、現在のようなプラスチック製のハンガーが使われるようになったのは昭和時代以降のことで、明確な開発者・発祥の地・時代は判然としないのだという。
コートを掛けるために用いられたコートハンガーが西洋から日本に持ち込まれたのが明治時代に入ってからであることからすると、ハンガーが生まれたのは近世に入ってからのようで、中世には存在しなかった可能性が高い。
「ケープって首回りをすっぽり覆っちゃうじゃん?まずここがルナティちゃん的にはダサい!!首回りに着けるフリルみたいな感じにすることはできないの?」
「それだとほとんど原型がなくなって、頭巾としての形がなくなっちゃうけど大丈夫そう?」
「頭巾で頭をすっぽり覆ったら、ルナティちゃんのかわいいお耳と綺麗な髪が見えなくなっちゃうんだぞ☆。頭を覆わないようにするのは絶対条件だねっ!!」
「はいはーい。了解了解」
「これってあれだね。貴族とかがよく首回りに着けているひらひらみたいだね」
「襞襟のことですか?確かに、そう言われればそう見えなくもないですね」
作業の様子を見ながら絵理華とセレンが思い思いに意見を述べる。
余談だが、王族や貴族の肖像画などでよく見られる襞襟は近世に入ってからのファッションである。
「こんなもんでいいかな。……んじゃ、次はローブ。どんな風にしたい?」
「袖をばっさり切っちゃおうか!!やっぱりルナティちゃんのナイスなボディを活かして男共を悩殺するには、なるべく肌の露出を増やすのが一番!!ローブの丈も少し短くして、膝が隠れるくらいにしてよ!!」
「モンスターと戦う時の装備のはずなのに、これじゃあまるで都会に出掛ける時のカジュアルファッションじゃないか……。まあ、装備の性能に差が出るわけじゃないから、別に問題はないんだけどさ」
【テイム】を日頃から使っている絵理華が思うのもアレかもしれないが、スキルというのは実に不思議だ。
何か魔法を使っているわけでもないのにローブの指定された箇所をセリィが指先で撫でるだけで、裁ち鋏や縫い針・糸などがなくてもルナティの要望に合った形にローブやケープの形が変化していく。さっ、と手で隠した瞬間に消えるトランプマジックを見ているような気分だ。
「よし。これでどうかな?」
「おぉお……!ありがとうセリリン!!」
最終的には、ローブは紺色のワンピースのような形に、ケープは首回りに装着する少し大きめのシュシュのような形になった。『月虹装備』を嬉しそうに抱えながら店を出る。
「服の色は変えないんだね?ルナティのことだから、ピンク色にでもするかと思ったけど」
「うん?するよ?ピンク色に」
「じゃあ、ついでにセリィに頼めばよかったんじゃないの?」
「セリィができるのは装備の見た目を変える作業まで。装備の色を変えられるのは別のスキルだよ」
先述の通り、中世には様々な職業が細分化されていたように、【スキル】も細分化されている。
【鍛冶屋】は『装備の欠片』から装備を生成する作業まで。
【裁縫師】は装備の形の変更と破損部分の修繕まで。
【染物師】は装備の色を変更するまで。
それぞれのスキルができる範囲は限られていて、【鍛冶屋】スキルで装備の色を変更したり、『装備の欠片』を使って【裁縫師】スキルで装備を作成することはできないのだ。
「それじゃあ、次は【染物師】のお店に行くよー!!」
ふんふんと興奮気味に鼻を鳴らすルナティの後ろをカルガモの雛のようにくっついて歩く。
「ノベプラ」にてスタンプを一件いただき、「なろう」にてブックマークが三件増えました!スタンプ&ブックマークをしてくださった方ありがとうございます!!23日金曜日にスマートフォンの電源が突然点かなくなり、スマホの買い替えやらゲームや画像のバックアップ等でバタバタしていたら反応が遅れてしまいました。申し訳ないです……。
ここでどうでもいい愚痴を一つ。
ハンガーっていつから使われているのかなー、と思って、「ハンガー 歴史」で検索すると、「日本で使われるようになったのは明治時代からですよー」とヒットして、「ハンガーが生まれた国」で検索したら、「ハンバーガーが生まれたのはロシアです!」ってヒットしてキレそうになりました。
どなたかハンガーについて詳しいハンガーガチ勢はいませんか?!




