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第50話:新たな動物園の朝

「遅いぞみんな!私たちに動物園の仕事について教えてくれるのではなかったのか?!」


 と、よく通る声で声を発したのは『煌々(こうこう)たる裁きの剣』のタンク・ラウン。地面に剣を突き立て、直立不動のままこちらを見ている。


「ラウンが早すぎるんだよ。いつからいたんだ?」

一時課(6時)の鐘が鳴る前だ。諸君はこの鐘が鳴ると同時に仕事に取り組めるように精進せよ!」


 一応執り仕切っているのは絵理華(えりか)のはずなのだが、どうして叱責されているのだろうか。眠い(まぶた)を擦りながら騎士を見る。

『煌々たる裁きの剣』に所属して世界各地を旅する前はゴロド王国の王城警備兵隊長を務めていたらしく、その誠実な態度と時間をタイトに守る真面目な態度が高く評価されていたそうだ。


「ふああ……。一応一時課の鐘を起床の合図にして、そこから身嗜みを整えて順次集まるようにしているんですよお……。いくら何でも早すぎませんかねえ?」

「約束の時間には10分前行動!騎士としては当たり前のことだぞ!!」


 懐から取り出した懐中時計を見ながらびしりと声を張る。


 中世ヨーロッパにおける一般庶民の時間の管理の仕方は、3時間ごとに教会が鳴らす時報の鐘や決められた時間単位で燃える蝋燭・砂時計や日時計などを使用していたのだが、14世紀初頭頃には天文学者たちの間で機械仕掛けの時計が既に発明されて用いられていた。

 というのも、天動説に基づいた太陽・月・黄道十二宮おうどうじゅうにきゅう|(天秤座などの星座占いで言われる星座のこと)の位置などを知るために用いられていた天文時計(アストロラーベ)に時間を読めるように機能を追加しただけで、専ら天文学や占星術としての使い方が一般的だった。ラウンが愛用しているのも現在我々がイメージするようなシャープな印象の懐中時計ではなく、無骨な形状と大きさをした天文時計(アストロラーベ)である。


「よし!全員揃ったな!!では動物園へと向かうぞ!!」


 門の前に立つヴィーザルの脇を通り抜けて、ラウンを先頭に絵理華・セレン・ルナティ・タイガ・レオルス・リル・テュールがぞろぞろと入って行く。ちなみに、トルーニは宿での仕事を担当するということでここにはいない。


 後ろを歩いていた隻腕の軍神が小声で話す。


「(レオルス殿よ。ラウン殿はいつもあのような感じなのですかな?餌やりや清掃業務はこの中ではテュールが一番長いので、テュールに任せて欲しいものなのだが?)」

「(言っただろ?ゴロド王国の王城警備兵隊長をやっていたって。常日頃から部下を統率していた時の名残りで、こういう時に仕切りたがる癖があるんだよ)」

「(レオルスも大変だね……)」

「(幼馴染みだから慣れていると言えば慣れているけど、一応ギルドのリーダーはおれだぜ?どうにかしてほしいものだぜ)」

「うーむ……。いざという時に守ってくれる系男子というよりは、いざとしなくても守ってくれそうな男子だなあ……。ルナティちゃんの理想とは違うけど、お金はたくさん持ってそうだし、これはこれでありか?」

「……すう」


 そういえば遮光山(しゃっこうやま)動物園にいた頃のたいが君も朝は眠そうにしていたっけ。種族は変わっても性格はそんなに変わらないようだ。立ったまま寝てしまいそうだったので小さくて柔らかい手を握って一緒に歩く。


「……で、まずは何をすればいいのだ?」

「シャベルを使ってモンスターたちの糞の撤去をした後に、水属性の魔法を使って汚れた部分を掃除してもらおう。取ったシャベルはこの専用の容器の中にいれていただきたい」

「何だこれ?」


 訝しがる勇者の前に輪切りにされた樽の頭が差し出される。


「これは『桶』というそうで、エリカ殿がいた世界では広く用いられていた品だそうですぞ。壺などとは違って入れやすく持ち運びやすいから、なかなか重宝しておるのだ!」


 我が事のように胸を張る。


「くっ、勇者であるはずのおれがどうして畜生の糞尿の始末などせねばならんのだ?」

「仕方がないであろう?私もレオルスも水属性の魔法が使えぬのだからな」

「……いやラウン?そういう技術的な話をしているのではなくて、根本的な話をしているのだぞ?」

「ああそうか。まあいずれにせよ、「彼女たちに負けて帰ってきました」では我々の面目が立たないだろう?このまま蒸発したことにして隠遁(いんとん)生活を送るのも手なのではないか?どうせ世界の脅威などもう訪れないことだし」

「それもそうなんだが、このまま勇者が消えたということになると世界中で大騒ぎになってしまわないか?ゴロド王への報告もまだ終えていないわけだし、エリカのモンスターを殺すために新たな刺客が送られてくる可能性だってなくはないだろ?王様には「倒しました」って嘘をついておくか?」

「嘘はいけないだろう嘘は。誠実に生きることこそが騎士の務めであり、勇者である我々『煌々たる裁きの剣』が掲げた勲章だろう?」


 普段剣を振り回してモンスターたちを斬り伏せることが多いからか、こういう黙々とできる仕事は彼らにとっては物珍しいのかもしれない。神話に属さないモンスターたちが展示されているエリアで会話をしながらグリフォンやヒポグリフの糞を拾い、汚れた部分をシャベルでがりがりと削る。


「かといって、何事もなかったかのように帰れないのも確かだな。それに、動物園が盛況となったらゴロド王も黙ってはいないだろうな」

「どういうこと?」


 気になる話題についつい顔を突っ込んでしまう絵理華。


「何せ、立地が悪いとは言えゴロド王国に観光地ができるのだからな。ゴロド王が介入してくるに決まっている」

「ということは、後ろ盾に国が付くってこと?ならいいことなんじゃないの?」

「そういうわけでもねぇよ」


 魔方陣からちょろちょろと水を出す絵理華に対してレオルスは口を開く。


「確かに国が後援になってくれれば金銭的な面では困らないだろうけど、やれこうしろ、やれ値段設定はこれくらいにしろと五月蠅(うるさ)いくらいに意見を出してくるようになるから、自由にできなくなるぞ?しかも、あそこの王様は吝嗇(りんしょく)で有名だから、儲けのほとんどは絞り取られて、むしろ経営が危なくなるかもしれねぇな」

「それは嫌だなあ。でも、この土地がゴロド王国の領内にある以上はどうしようもなかったりして?」

「ゴロド王のことだ。あらゆる手段を使って動物園を国営化しようとするに違いない。いいか?何があっても首を横に振るんだぞ?」

「私は会ったことないから分からないんだけど、その王様って話せば通じるような人なの?口答えしたら首が飛んだりしない?」

「…………」


 その命令違反による打ち首を恐れたから動物園に乗り込みに来たのだった。痛い所を突かれて閉口する。


「……心配ない。暗殺者(アサシン)や内通者が差し向けられるようだったら、おれが守ってやる」

「本当?!いやあ勇者が守ってくれるなんてありがたいなあ!頼もしいなあ」


 にへら、と笑いながら水を出す絵理華の横顔を見る。

 何だか咄嗟の判断で彼女を守ることになってしまったようだが、考えてみればレオルスには絵理華を守らなければいけない義理などないし、むしろ、ゴロド王からは「モンスターを始末しろ」と命令されているため、この女を殺害してモンスターたちを皆殺しにするのが本来の目的である。


(今なら殺れるか……?)


 ここで功績を上げれば勇者としての立場も安泰。大量のモンスターを殺した英雄としてゴロド王や市民から褒められるだろう。背中に隠し持っているショートソードの柄を握ると、


「無駄だよ」


 背後から無機質な声で少女に声を掛けられる。


「そうくると思ってずっと監視を続けていたんだ。エリカには指一本触れさせないよ」

「聞いた話によるとウェアタイガーだそうじゃないか。スキルを持たないモンスター如きがおれに勝てると思っているのか?」

「やってみなくちゃ分からないけど、ボクだけじゃ分が悪いのは確かだね」


 がさがさ、という音がした。

 存在を示すためにわざと音を鳴らしたのだろう。音の方向に目線を動かすと、森の木に背中を預けるようにして黒い衣装を身に纏った道化のような男が立っている。


「ボクを含めて一部のモノたちは、まだ君たちのことを信用していないよ。何人かは君たちを監視しているから、そのことを忘れないでね」

「……ちっ」


 握った手をシャベルへと戻すと、次の展示スペースを清掃すべく立ち上がった。

「なろう」にて評価ポイントが10点ほど加点されました!評価してくださった方ありがとうございます!!


 夜寝る前、クーラーの設定温度を28℃にしてあった状態で、1時間かけても全然涼しくならなかったので設定温度を27℃に下げて寝たら、今度は寒くて目が覚めました。室内温度を見ると25.5℃!暑いのと寒いのとが両極端なんだよ!!



 ではまた!これからもよろしくお願いします!!

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