第49話:英雄の向かう先
「おうエリカ。遅かったな」
雨が降る空。
焼け焦げた地面。
剣を握ったまま倒れる男の上に優雅に座りながらトールが口を開く。
「あれ?勇者と戦ってるんじゃなかったの……?」
「ほらここ。ここにいるだろ?今はくたばっちまってるけどな」
見せつけるように足を組む。
「オレ様たちで完膚なきまでに叩きのめしてやったのよ!勇者ってのも大したことねぇな!」
「勇者レオルス様…………」
この男が勇者であるということは、ルナティの反応ですぐに分かった。獣人少女の唇が震える。
「LSランクギルド・『煌々たる裁きの剣』のリーダーで、魔王ロザスを斃した男だよっ!その勇者様を倒したってことなの?!」
「あぁそうさ」
周囲を見渡す。
他にも鎧を着た男や聖職者の女性などが呻き声を上げながら地面に転がっているようだが、その周りには農夫のおっさんのような姿になったベヒモスや、腕を組んだレヴィアタンが監視するかのように立っている。
「悪く思うなよ?こいつらがアジ=ダハーカに先に手を出したから、オレ様たちがその仕返しをしたまでだ」
「それに、この不届き者たちはエリカ君が【テイム】してきたモンスターを皆殺しにするとかほざいていたからね。そんなことは僕たちが許さないよ」
キザっぽく言いながらヘイムダルがウインクする。
「つまり、トールたちは勇者一行を倒しちゃったってこと?私のために?」
あんなに焦っていたのは何だったのか。
何だか呆気に取られていると、
「忘れたとは言わせませんぞ?エリカ殿」
自信満々に胸を張りながらテュールが姿を現す。
「テュールとヴィーザル殿の仕事は、動物園に来る不審者を排除すること。このテュール、仕事を全うしましたぞ!」
「……ほとんどトールに持っていかれた。……今度こそ吾輩の武勇を魅せるいい機会だと思ったのに」
とにかく、左翼を切断されたアジ=ダハーカを除けば敵味方に目立った負傷者や死者はいないらしい。ウォール系の魔法を使って物理的に拘束し、自由に大きさを変えられるジズの背中に積載。ベヒモス・レヴィアタン・トールらの監視のもとに空を移動して『アルミラージの集会所』に戻るのだった。
☆★☆★☆
「理由はそこのガルシャとかいう男と龍に話した通りだ。おれたちはモンスターを駆逐する勇者として、モンスターを複数体【テイム】しているやつを見過ごすわけにはいかない。だから、そのモンスターたちを皆殺しにすべく、ゴロド王国の王に頼まれてやってきた」
『アルミラージの集会所』の一角にある机をどかして勇者一行を座らせ、屈強な北欧神話の男たちが囲う。
「「強力なモンスターを何体も自由に動かせるやつがいるから調査してこい」なんて国王に言われたら誰も命令を無視できないし、「魔王ロザスのように世界の征服を企む悪の勢力かもしれない」と思うのは当然のことだろう?その芽を摘むためにおれたちはここに乗り込んだというわけだ」
勇者の独白は続く。
「【テイム】で強いモンスターを何体も使役した冒険者と、四天王とその配下の雑魚モンスターたちを率いる魔王。特に、おれたちはモンスターや魔王に対してはいい思い出が一つもなくてね。この世界からモンスターを消してしまいたい輩ばかりなのさ」
「だからオレが言っただろうが!エリカは世界を滅ぼす気なんて一切ねぇし、【テイム】されているモンスターどもを悪用するようなこともねぇって!!動物園を作るために各地から集めてるだけだっつうの!!」
最初に勇者と対面して説得しようとするも、健闘も虚しく戦うこととなったガルシャが厳しい口調で叫ぶ。
「お前たちが闇属性の魔法で操られて『そう思わされている』・『そう言わされている』可能性だって否定できないだろうが。【マジックマスター】ほどの魔力を持っているのであれば、対象からそう思わされないうちに洗脳することだって容易にできるんだよ」
「【マジックマスター】って、そんなに強力なスキルなの?てっきり全ての属性の魔法が使えるようになっただけだと思ってたんだけど?」
「厳密に言えば、全ての属性の魔法がLSランクの威力で出せるっていう規格外のスキルだ。貴様みたいな尻の青い女に持たせるのには勿体ないくらいの賜物さ」
この世界の歴史を紐解いても片手の指で数え切れるくらいしか存在しないスキルだとは聞いていたが、それほどの力があるとは。
自分が持っているスキルが如何に恵まれているかを改めて知る。
「それで、君たちは偵察をしに来て喧嘩を吹っ掛けた結果、僕たちに見事に返り討ちに遭ったわけだけど、これからどうするんだい?そのままボロボロになった姿で王様の所に戻るのかい?」
ねちっこくて嫌らしい言い方をしながら、ヘイムダルが見下ろすように言う。
レオルスは(形式上は)世界を救った勇者だ。
というのも、何ともラグナロクで三つの神話の神獣やらモンスターが暴れ回っているのと同じタイミングで魔王ロザスの力が解放。絵理華が【テイム】をしながら飛び回っている間に魔王との最終決戦となり、【テイム】が完了してラグナロクが終了すると共に魔王との戦いが終わったらしい。
そのため、各地で黒いドラゴンや銀色の体毛を持つ巨大狼、巨人などの目撃例があったものの、それらは全てレオルスが魔王を斃したことによって解決した、もしくは、レオルス自体が斃したことになっているのだという。つまり、絵理華の功績をそのまま横取りした形だ。
その勇者が魔王でも魔王の配下でもない誰かに負けた。
このことを民衆が知ってしまったら、勇者に対する信頼や、勇者そのものの権威はどうなってしまうのか。
「…………」
口を閉じて自分の立場などについてあれこれ思考を巡らせていると、
「すんすん……。先ほどからいい匂いがするぜ」
羽根飾りのついた帽子を被っていた少女が鼻を動かしながらそんなことを呟く。
「あん?山羊の肉を使ったスープの匂いだよ。最近人気が出てきたからたくさん作ったってのに、てめえらが乱入してくれたせいで店を閉めなきゃならんくなったから、今日は予定数も捌けそうにねえんだよ!」
「なるほど。道理で食欲を唆る匂いなわけだ。一杯飲ませてくれよっ!」
ふらりと立ち上がったのに全員が警戒したが、彼女の役職は弓矢使い。戦士たちに対して接近戦で勝てるわけもなく、少女からは敵意も感じられなかったので様子を窺っていると、ふらふらと厨房の方まで歩き、おたまを使って木のお椀に一掬い。こくこくとかわいらしい音を鳴らしながら喉仏を動かして忙しなく飲み込む。
「……美味いじゃねぇか!故郷でよく飲んでいたスープの味に似ているぜ!!」
一気に飲み干すと再びおたまを鍋の中に突っ込み、またお椀の中へと注ぎ入れる。このままだと鍋にある分を飲み干すまでエンドレスで続きそうだったので、
「おいこら!お客さんに出す大事な料理なんだから勝手に飲むんじゃねえ!!」
むんずりと首根っこを掴まれて悪戯を叱られる猫のように持ち上げられる。
「見掛けに寄らず料理の腕はいいみたいだな?気に入ったぜこのスープ!!」
「そうか、そんなに気に入ったってんなら、いくらでも飲める方法を教えてやるよ」
「本当か!?」
キラキラと瞳を輝かせるトルーニに対し、ガルシャは人の悪そうな笑みを浮かべる。
「ここで働いてエリカの手伝いをしろ。そうすれば賄いで飲ませてやってもいいがどうする?お金ももらえてスープも飲める。こんなに美味い話はねぇだろ?!」
相手は勇者様ご一行。
美味いスープのためとはいえ、負けた相手の元で下働きをするのは苦痛だろう。
ペルシアの大英雄らしくない茶化すような脅しを掛けると、
「分かった、いいだろう」
「え゛っ?!」
もっと迷ったりレオルスに相談したりするものだと思っていたが即答だった。口の端から涎を垂らしながら言葉は続く。
「つまり、ドウブツエンとかいうものを作るのに、あたしたちが手伝えばいいというだけの話だろ?あたしが断る理由が何処にあるのだ?」
空中に吊るされたままだというのに、ふんす、と自信ありげに鼻を鳴らす。
「あたしたちは魔王を斃した勇者様たちだぞ?ドウブツエンが何かは分からないけど、そんなものは簡単に作ってやるぜ!」
「だとよ勇者様!今後の予定が決まってよかったな!!」
トルーニを床に降ろして軽く背中を叩いてやると、レオルスは溜息を吐きながら呆れたような表情をしていた。新たなスタッフ(魔王を討伐する役目は終えたので、元・勇者?)の誕生である。
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先日地元のお祭りに行ってきました!!
数年ぶりの開催で夜には花火が上がったのですが、小さい頃に観た花火と同じものが多く、何だか懐かしい気分になりました。
花火のラインナップが変わらないのを手抜きとみるか。
それとも、時が過ぎても変わらない花火を観て昔を懐かしむか。
でも、花火玉って作るのに数年かかるはずなので、何年も前から「昔と同じ花火にしよう」と考えながら花火師さんたちが弾薬を調合していると思うと、何だか感動的ですね!!いろいろと考えさせられる花火でした。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




