↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/19

3話(4)

「ピポイ! ピポイなんでしょ!?」


 失踪した兄との突然の再会。パラァは声を張り上げて呼びかける。


 しかし当のピポイは実の妹に向けるものとは思えないほど冷淡な目でパラァを見た。


「ピポイは死んだ」


「え……?」


「弱いだけだったピポイはもうこの世にはいない。俺の名はゴルジッド。人間を滅ぼす者──ゴルジッドだ」


「何言ってるの……ピポイはピポイでしょ!?」


「その名で呼ぶな!」


 ピポイ──ゴルジッドと名乗るフェアリー族の少年が片手を前に掲げる。すると周囲に赤色の結晶が急速に凝固。鋭い槍の形となり高速で射出された。


「パラァ危ない!」


 殺到する槍の雨をアーチが剣で弾き落す。粉々に砕かれた槍は粒子となって四散した。


「ご、ごめん……」


「ちょっと! 自分の妹に何してんの!」


「誰であろうと邪魔なやつは始末するだけだ」


「邪魔って……パラァはあんたを心配してここまで来たんだよ!?」


「なら無駄足だったな。俺は魔族から授かったこの力で人間共に復讐する」


「嘘でしょ……どうして」


「どうしてだと!? 人間共は俺たちからすべてを奪ったんだぞ!? だから今度はこっちが奪ってやるんだ!」


「そんなのわたしが知ってるピポイじゃない! 目を覚まして!」


「ピポイは死んだと言っている! 俺はもう──お前の兄じゃない」


 唯一生き残り、危険を顧みずに探し続けた家族。その本人からの絶縁宣言。それは残酷な響きとなってパラァを切り付けた。


「そん、な……」


 魂が抜けたように放心するパラァ。


 アーチが代わりに何か言ってやろうとすると、ヴァンテラ乾いた笑いに遮られた。


「ま、そういうこった。精々そいつと楽しむんだな」


 いつの間にか宝箱を咥えた鳥型魔獣が屋根に降り立っていて、ヴァンテラはその背に乗ろうとしているところだった。ゴルジッドとの問答に気を取られて、アーチは魔石を取り戻すという本来の目的をすっかり失念していた。


「逃げられるぞ!」


「ヤバ、そうだった!」


 再度ヴァンテラに向き直るアーチ。しかしすかさずゴルジッドが間に立ち塞がる。


「どいて!」


 アーチは疾風の相を発動し衝撃波を放つ。ゴルジッドが手を翳すと結晶の盾が展開され衝撃波を相殺した。その間にヴァンテラが魔獣の背に乗り込んでいた。


「ダメだ間に合わない!」


 ミョウザが諦めの言葉を叫んだ瞬間、


「放て!」


 号令と共に複数の火球がヴァンテラと鳥型魔獣目掛けて撃ち出された。


「うおっ!?」


 火球は直撃こそしなかったものの、襲撃に怯えた鳥型魔獣が暴れ出し、ヴァンテラが背中から振るい落とされた。半裸男の忌々しげな視線の先には、鎧に身を包んだ兵隊達の一団があった。


「ギヤカニ自警隊だ! 大人しく降伏しろ!」


 アミュウ率いる自警隊が遅れて到着した。隊員たちはそれぞれが握る剣や杖を構え臨戦態勢に入る。


「チッ、邪魔なやつらが増えたな」


 忌々しげに吐き捨てたヴァンテラが笛を奏でる。


 不気味な不協和音が響き渡る。すると不吉な地鳴りと共に足元が揺れ始めた。


「何、地震!?」


 揺れは徐々に大きくなっていく。


「本当は今日使うつもりじゃなかったんだが──」


 ヴァンテラが両腕を広げ、困惑するアーチ達を愉快そうに見下ろす。


「──派手なほうがおもしれぇからなぁ!」


 振動が最大限に達するとともに、極大の破砕音が街に轟いた。


 一同は反射的に音のしたほうを振り向く。市街地のど真ん中に、巨大な魔獣が出現していた。


「グオオオオオオッ!」


 地下から地面を突き破って現れたその魔獣は、己の存在を誇示するように咆哮を上げた。全長は周囲の建物よりも高く、太く筋肉質な肉体は茶色い体毛に覆われている。何より特徴的なのは頭部。魔獣の首から上は、兜のような硬質な装甲で覆われていた。兜は目の辺りに僅かに隙間が開いているだけで、魔獣の顔は全く見えない。


「デカっ!」


「なんだあれ、熊か!?」


 巨大魔獣が鋭い鉤爪の伸びた腕を振り上げる。両脇に聳える建物を邪魔だと言わんばかりに破壊し始めた。崩壊の音と市民の悲鳴が遠くから聞こえた。


「あれはオレが扱える中でも飛び切りヤベェやつだ。いくらこの国がデカくても、全部壊すのに一日も掛からねぇだろうな」


 挑発的な笑みを浮かべるヴァンテラ。アミュウは苦々しげに奥歯を噛みしめる。


「隊長! 早くあちらに向かいましょう!」


「わかっている! だが……」


 緊急性の高さを考えれば優先すべきは圧倒的に巨大魔獣のほうだ。かといって目の前の悪漢をみすみす見逃すわけにもいかない。アミュウの胸中に焦燥と逡巡が駆け巡る。


 ゴルジッドを警戒しつつ横目で様子を伺っていたアーチがじれったそうに告げる。


「隊長さん! ここはあたし達がなんとかするから、そっちはあのデカい魔獣をお願い!」


「何を言っている、君たちに戦闘の権限は与えられていないぞ!」


「そんなこと言ってる場合じゃないっしょ! あとでいくらでも怒られてあげるから、早く行って!」


 それが最善の対応であることはアミュウもわかっていた。即座に実行できなかったのは、隊長という立場上自らが違反行為を容認するような指示を出せなかったからだ。そのためアーチの提案は渡りに船だったが、部外者の協力に甘んじざるを得ない状況にアミュウは複雑な心境だった。


「くっ……総員、これより巨大魔獣の討伐に向かう!」


 アミュウが隊員たちを伴い引き返して行く。


「ハハッ、お勤めごくろーさん」


 去って行く自警隊の背中に皮肉を吐くヴァンテラ。改めて鳥型魔獣の背中に乗り込み、ゴルジッドに告げる。


「おい、アーチは殺すなよ。オレもあいつとはまだヤリ足りねぇからな。お前は足止めだけしてくれりゃあいい」


「黙ってさっさと行け」


「チッ、ガキが調子に乗りやがって」


 鳥型魔獣が翼を広げ飛び立つ体勢に入る。


「待て!」


 アーチが追いかけようと駆け出すも、ゴルジッドの結晶の槍によって妨害される。その間にもヴァンテラを乗せた鳥魔獣は高度を上げていく。


 逃げられる──アーチが諦めかけたその時、


「行かせない!」


 紙飛行船に乗ったミョウザがヴァンテラに急速接近していた。


 ミョウザはゴルジッドの注意がアーチにばかり向けられていて、自分が脅威と見做されていないことに気付いていた。だからこそ、その隙を突いて宝箱を奪い返すタイミングを見計らっていた。


 緊張と恐怖による冷や汗がミョウザの頬に伝う。それでもミョウザは己を奮い立たせ、鳥魔獣が咥えている宝箱に手を伸ばす。


「無駄だ」


 一切の焦りを見せることなく、ゴルジッドはミョウザに向けて結晶の槍を放った。狙いが逸れれば味方に当たりかねない距離にも関わらず微塵も躊躇いがなかった。


「ミョウザ!」


 複数の槍が紙飛行船を貫いた。紙は千切られ、ミョウザが宙に投げ出される。アーチは全力で走り、落下してくるミョウザを地面に激突する寸前で受け止めた。


「ごめん、取り返せなかった……くっ」


 致命傷は免れたものの槍が掠めていたらしく、ミョウザの左の肩口から出血していた。


「ミョウザ、血が!」


「これくらい平気……ってまた来るぞ!」


 気を抜いている暇もなくゴルジッドが槍の雨を降らせてくる。ミョウザがアーチの腕の中から飛び退

き、二人は左右それぞれの方向に逃げた。その間にもヴァンテラを乗せた鳥魔獣が遠くへ飛び去って行く。


 ミョウザが再び追いかけようと〈シャットシュット〉から紙を引き抜く。


「早く追いかけないと!」


「させはしない」


 ゴルジッドが結晶の槍を放つ。しかしミョウザにではなく──瓦礫に埋もれたままのメイヒェンに向かって。


「きゃあああっ!」


 ウィヅィンが悲鳴を上げてメイヒェンに覆い被さる。幸い槍は命中せずメイヒェン達の周囲に突き立った。


「メイヒェンさん!」


「次は当てる。妙な気は起こさず大人しくしていろ」


 こけおどしではないだろう。実の妹すら躊躇なく攻撃したのだから、他人のメイヒェンならばなおさらだ。アーチは逃げた方向が悪くメイヒェンから一番離れた場所にいるので、守ろうとしてもゴルジッドの槍のほうが確実に先に到達するのは明らかだった。ミョウザが小さく「クソっ」と吐き捨てた。


 アーチが剣を構えながらゴルジッドを見据える。


「そうやって脅さないと優位に立てないの? 身体だけじゃなくて器も小さいとかマジウケる」


「挑発のつもりか? そんなもので冷静を欠くほど俺は愚かじゃない」


「あっそ。ミョウザ、こいつの相手はあたしがするから、あんたはパラァと一緒にメイヒェンさん達を守ってあげて」


「でも魔石はどうするんだ!?」


「それはあとで考える!」


「あとって……あれ?」


「何?」


「おい、パラァがいないぞ!」


「え!?」


 アーチは周囲を見回す。ミョウザの言う通りパラァの姿がどこにもなかった。


「パラァ! どこにいるの!」


 声を張り上げるも、それに応える者は現れない。


 いつの間にかパラァがアーチ達の前から姿を消していた。


「逃げたか。これだから弱い奴は」


「そんなわけない! パラァがひとりで逃げるわけ」


「なら何故いなくなった。どうせ恐ろしくなって逃げ出したに違いない。あの時もそうだった。村が焼かれていく中で、あいつは俺の後ろに隠れて怯えることしかできなかった。パラァはそういう弱いやつなんだよ!」


 言葉が終わるか終わらないかのところで、ゴルジッドに向かて衝撃波が飛んできた。ゴルジッドは淡々と結晶の盾を展開しそれを防ぐ。相殺された結晶が砕け散り、飛び散る破片の向こうにアーチの怒り顔が見えた。


「……あったまキた。パラァには悪いけど、あんただけは一発ぶん殴る」


 出会う前のことは知らないが、アーチの知るパラァは決して弱者なんかじゃなかった。ドルクが窮地に陥った時は自らヴァンテラに突っ込んで行って助けようとしたし、ミョウザと協力して泥人形を止めた。

そもそも家族を探すために危険を顧みずここまで旅をしてきたのは、強くなければ出来ないことだ。


 それをたとえ家族でも──いや、家族だからこそ、馬鹿にするようなことは許せなかった。


 アーチの怒りの眼差しを、ゴルジッドは冷ややかな顔で受け止める。


「できるものならな」


 結晶の槍が横一列に展開。一本ずつ連続で射出される。


 アーチは走ってそれを躱す。攻撃を警戒しながらも、アーチの目は消えた仲間の姿を探していた。


 パラァが逃げるわけがないと信じている。だがそれならどうしていなくなった? 考えずにはいられない疑問に、妥当な答えは浮かんでこない。ゴルジッドには否定したものの、妥当性でいうなら「兄に裏切られたのがショックでこの場にいるのが耐えられなかった」という理由が最も妥当ではある。けれどもそんな理由で自分達が見捨てられたのだとは考えられない。考えたくない。


 だけど──。


「パラァ……どこに行ったの……」


 アーチの不安げな呟きは、遠くからの魔獣の咆哮に掻き消された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。