~ 第三話 名探偵アルト、『山の民』の謎を解き明かす ~
洞窟、というか坑道になるのか? いやでも鉱山かどうか分からないしな。
まぁ細かいことはいっか!
とにかく、山に空いた大穴の中を進んでいくと、まず第一の驚きが待っていた。
『ぶごぶが……』 (明るい……)
壁が光っているのだ。
ランプが掛かっているとかそういうことではない。岩肌の中に光る石がはめ込まれているような感じだ。一定の間隔で埋め込まれているので、おそらく人工的なものだと思う。
「光の魔道具……だと思います。ただ、私も見たことがありません」
隣でリリーちゃんが解説してくれる。
貴族のリリーちゃんが知らないってことは、おそらく『山の民』独自のものなのだろう。
あるいはこの石が庶民的なものすぎて、貴族のリリーちゃんが知らないって可能性も……サリーちゃんが驚いているあたりそういうわけでも無いようだ。
「『山の民』は高い技術を持っていると推察されます。この光る石以外にも、我々が見たことのないものが多数ありました」
ハリソンさんが、その石を軽く撫でながら言う。俺もそれを真似て触ってみる。電球のように熱を持っているということもない。
しかし、岩山に住む高い技術を持った民族、か。
それって、ドワーフじゃね?
この話を聞いた時から、薄々と思ってはいたんだ。『山の民』といえばドワーフなんじゃなかろうかと。
なにせオークやゴブリンが居る世界なんだから、ドワーフがいたっていいじゃないか。
そしてその期待は、実際にゾルデギルに着いてみてさらに強くなった。
まるで鉱山のような岩山に、見せつけられた『山の民』の技術力。
これはもう、ドワーフでしょ!
毛むくじゃらで、背は低いけどムキムキマッチョで職人気質なドワーフでしょ!?
「まもなく、『山の民』の領域に入ります」
カモン! ドワーフ、カモン!
空間が開ける。に広間と呼ぶに十分なこの空間は、今まで通ってきた道よりもさらに明るい。そしてそこには……
「うわっ! 本当にオークじゃん!」
「すっげーっ! でっけぇー!」
「豚なの? 猪なの? ってかどっちにしろ、なんで二足歩行なの?」
「脂がのってて、美味しそう」
うるせーっ! キンキンとした高い声が広間全体に響き渡る。
一斉にしゃべるなっ! 声がデカイし高いっ! そして最後の奴、俺を喰おうとしてるんじゃねぇぞ!? 美味くねぇからな?
その場には、何人もの小人がいた。どうやらこれが『山の民』らしい。
一番大きな『山の民』でも、リリーちゃんの胸の高さ位の身長だ。そこだけ聞くと大変かわいらしいイメージなのだが、実際はそうではない。
まず、髪がスキンヘッド、もしくはマリモである。
基本的に髪がある人はアフロ、それ以外は丸坊主をいった感じだ。ちなみに坊主の人の場合、毛穴の密度がとんでもなく高いことが見て取れる。丸坊主なのに頭がとっても黒い。
いや、それはいい。ドワーフをイメージしていたんだ、髪の毛がとんでもなく太いくらいのこと、なにも問題ではない。
問題はその顔だ。
『ぶご……ぶぎゃぷぎゃぶぎょっ!』 (いや……髭の剃り跡が濃すぎるだろっ!)
青いを通り越して、青黒い。近づかなくても毛穴が確認出来るくらいの剃り跡だ。その様は、レトロな漫画に出てくるオカマキャラに通じるものを感じる。
ついでに言えば、短パンの下から覗く足も青黒い。間違いない……すね毛剃った後だ。
せめて脱毛テープを使えと言いたい! ……無いか、さすがに。
すげぇどうでもいいことだけどさ。きっと胸毛とかもすごいんだろうなぁ。シャツを脱いだらその下も青黒い剃り跡だらけだったりして。あと、わき毛も
さて、思わずツッコんでしまった俺に反応して、『山の民』の皆さんが口々に騒ぎ出す。
「オークが鳴いてるぞ!?」
「喋ってるのか!? それとも鳴いてるだけか!?」
「『大賢者』って言ってたよな!?」
「……ステーキ」
どうやら好奇心旺盛な人達らしい。そして最後の奴、メニューまで決定するなっ! トンテキになんかされてたまるかっ!
……あれ? なんかおかしいぞ?
『ぶぶぎょ……ぶごふが、ぷごぶぎょぶ?』 (普通に……人間の言葉、喋ってるよな?)
オークやゴブリンみたいに、鳴き声チックな言葉じゃない。声は異常に高いけど、間違いなくリリーちゃん達と一緒の言葉を話しているように聞こえる。
「アルト殿……いかがでしょう? 彼らの言葉が分かりますか?」
タイミングが良いのか悪いのか、そんな質問をぶつけてくる。
おかしい。なんでハリソンさんに通じないんだ?
……いや待てよ?
たしかハリソンさんが言ってたな。今までここに来た人間の中で、『山の民』の声を聞いたことがある人間がいないって。
だけど、無視されていることは絶対にないとも言っていた。たぶん他の人が来た時もこんな感じだったんだろうな。仮にこれで声が聞こえなかったとしても、無視されているとは思うまい。
ってことは、だ。
『山の民』の皆さんの声が、人間には聞きとれないんじゃないか?
ほら、あれだよ! モスキート音。年を取るにつれて、高い音が聞こえなくなっていく、みたいなやつ。子供だと余裕で聞き取れるのに、おっさんには全く聞こえないっていうあれだよ。
あれに似た感じでさ?
『山の民』の声が高すぎて、人間の耳じゃ拾えないんじゃなかろうか。だとしたら、『山の民』が普通に言葉を話しているのに、人間にはまったく通じてないっていう怪現象の説明がつく。
オークは人間よりも拾える音の範囲が広いから、キンキン声がうるさいことを除けば、少なくとも何を言っているかは分かるってわけだ。
証拠はない! でも、確信はあるっ!
謎は全て解けたっ……ことにしとこう。
もしもこの仮説が間違ってたとしたら? そん時はそん時でいいじゃん。別に間違ってて困ることもないんだからさ。
今はとにかく、通訳のお仕事に専念するとしましょ。




