~ 第二話 虎のマークが無いので、熊を持っていきます。
ひっさしぶりー! イケメンですよー! 星三つのイケメン、アルトですよー!
ただいま俺、ハンティング中。出来ることならば熊を狩りたいと画策しております。どうしても今日必要なのです。
なぜかって?
お土産だな。
なんとアルト君、明日、ついにリリーちゃんのお父様と対面を果たすのです。……別に、「お嬢さんを、僕に下さい!」ってやつをやるわけじゃないからな?
なんでそういうことになったのか、少し説明するとしよう。
※
ゴブリン達との騒動が終わり、恥ずかしながらリリーちゃんに慰めてもらったあの日。俺の気持ちが落ち着くまでリリーちゃんは黙って俺を抱きしめてくれた。彼女のぬくもりと、決意の強さが俺を立ち直らせてくれたんだと思う。
――ありがとう。
「いえ……どういたしまして」
俺が書いたお礼を確認し、少し顔を赤らめながら、それでも俺の目をしっかりと見つめるリリーちゃんに、心臓が少し締め付けられたようになる。この年にして、すでにいい女ってどういうことだよ!
トキメキを与えられて、うろたえている俺に、一足早く回復したらしいリリーちゃんが真剣な顔で問いかけてくる。
「それで……ゴブリンの皆さんは現在も、オークに対して敵対心を持っているのですか?」
――だいじょうぶ。いきのこったごぶりんは、なっとくしてくれている。
納得、というのはズルい言葉遣いなのかもしれないな。あれはむしろ『諦め』だ。特に雄ゴブリンにしてみれば、今でも人間の女を譲ってもらえなくなったことに不満はあるだろう。
――でも、こころからなっとくしているわけではないかもしれない。
そこまでの微妙なニュアンスを伝えきれているかと言われれば、自信はない。ただ、俺の真意を確認するかのようにリリーちゃんが何度も質問を投げかけてくれているので、会話自体はスムーズに進んでいると思う。
「なるほど。では、例えば私がオークの集落にお邪魔するというのは難しいのでしょうね」
――あぶないとおもう。
「俺もそれは止めて置いた方がいいと思い……ます。オークの集落とゴブリンの集落はかなり近いところにありますから」
サリーちゃんも俺に同意する。この冒険者の女の子は、オークの集落の様子を知る唯一の人間だ。色々と悲しい思いもしたけれど、今では俺たちオークの事を大事に考えてくれている。
「そうですか……それでは、ゴブリンの集落から離れた場所で、私がアルトさんと暮らすことは可能ですか?」
うーん。出来ないことは無いと思う。だけど、森で住むということは間違いなく危険が伴うことだし、身の安全を保障はできない。ほら、サリーちゃんなんか口をポカンと開けて驚いてるじゃん。
「まだしばらくは先のことでしょうが、私は諦めていないのです。もっともっと、アルトさんとオークの皆さんのことを知りたいのです」
キラキラした瞳だなぁ。夢に向かって一直線って感じで、ほんとキレイな目だよ。若者ってのは、こうでないといかん。……俺だって、まだ若いんだからねっ!
そんなやりとりをしていると、リリーちゃんの後ろから渋めのダンディーが声を発する。
「お嬢様、少しよろしいですか?」
リリーちゃんの護衛の一人。ハリソンさんだ。ちなみに相棒のジョンさんによると、超強いらしい。
「なんでしょう?」
「もしもお嬢様が、将来的にアルト殿と共に暮らすことを本気で望まれているのならば、一度アルト殿に辺境伯閣下とお会いしていただくべきかと考えます」
リリーちゃんのお父さん。つまりは貴族様だ。
貴族と言われてもあまりピンとはこないけど、話を聞いた感じだとすごく偉い人らしい。日本でいえば、どこぞの大企業の社長さんくらいかな、と勝手に思ってるんだけど、どうなんだろうな?
そんなお偉いさんと、イケメンであるとはいえオークな俺が対面する。いつかは娘さんと一緒に住みたいと思っていますと、お願いしに参るわけだ。
……斬られたりしないよね? 切り捨て御免とか、マジ勘弁だよ?
「……そうですね。アルトさん。一度、私の父であるオルブライト辺境伯にお会いしていただけませんか?」
おぉう。これはあれですか? 彼女のお父さんにご挨拶ってやつですか? 「君に娘はやらん!」って怒鳴られて、ぶっ飛ばされるパターンですか?
……はっ! リリーちゃんと俺、付き合ってなかった! ってか、リリーちゃんまだ子供だし! いい女すぎて、危うく忘れそうになるけど、日本だとお巡りさんに連れてかれちまうところだ。
とまぁそんな冗談は置いといて、やっぱ会わないわけにはいかないよな。
これからオークと人間が手を取り合って生きていける世の中を作るためには、どうしたって人間側の偉い人の協力が必要になる。となれば、まず会うべきはリリーちゃんのお父さんだろう。
それに、お父さんの立場からすれば不安で仕方ないと思うぜ? 大事な娘が月に一度、オークに会いにいってるんだ。よほど理解のある親じゃないと有り得ないだろ。
もし俺の娘だったとしたら、絶対に嫌だねっ! 門限は七時にするんだからねっ!
――わかった。ぜひ、あいたい。
俺はリリーちゃんと、その後ろに立つハリソンさんにメッセージを伝える。
「分かりました。お嬢様、辺境伯閣下には私からもお伝えさせていただきます」
「よろしくお願いしますね? ハリソン」
「御意」
………
……
…
とまぁこんな感じの会話があったわけだ。
それで次の月。リリーちゃんから、来月はお父さんを連れてくるとの申し出があった。
俺が出向くもんだとばかり思ってたんだけど、確かに言われてみればオークの巨体で街に行くわけにはいかないよな。街の人達に死を覚悟されたら大変だ。主に化け物扱いされた俺の心が傷つく。
――なんにちたったら、くる?
「……? 日付を決めた方がよろしいですか?」
――こころのじゅんびが。
俺の返答に、リリーちゃんはクスリと笑う。
「そんなに緊張しないでください。そうですね……それでは、三十日後に、森に伺うということでよろしいですか?」
――わかった。
とまぁこんな感じで、お父様の来訪日と特定したわけだ。ちゃんと翌日から、正の字を書いて数えたから間違えることもない。
そりゃあ緊張しないわけじゃないけれど、いつ来るかを聞いたのには他に理由がある。
偉い人と会うんだったら、手土産は必要でしょう! 社会人として! 虎のマークの羊羹、おいしいよね!
残念ながら、森には百貨店もネット通販もないから、手土産は自分で用意しなきゃいけない。そして、せっかくだからインパクトのある贈り物をしたい。
……熊だな。
というわけで、俺は必死で熊狩りをしている。出来るだけ傷つけることなく、さらには血抜きも完璧な熊を求めているのだ。不器用でパワータイプなオークにとっては、かなり難しいミッションだ。
他に話すこと……そうそう、サリーちゃん! あの子、リリーちゃんのお付きになったらしいんだよね。立場的にはハリソンさんの部下らしいよ?
ぬっ!?
熊、発見!
すまん! 詳しい話はまた今度にしよう! じゃあな!




