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ビューティー・オーク  ~ オークになった美容外科医、世界を変える ~  作者: 香坂 蓮
ちょっ! マジ、自分違うんっすよ! 不審者じゃないッス! ……誘拐犯っ!? 違いますからっ!
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~ 第十八話  リリー=オルブライトの帰還 ~

もう一話、短いエピローグを更新して、今日はおしまいです。


では、どうぞっ!

 アルトさんに見送られ、私達は元居た場所へと帰ります。森から出るのは一週間ぶり……少し寂しいと思える程に、森に馴染んでしまいました。あんなに恐ろしい場所だと思っていた森に、また戻りたいと思えるなんて。人間、変われば変わるものなのですね。


 とはいえ、今の私達にはまず、やらなければならないことがあります。


「メアリー……二人で、ちゃんと謝りましょうね?」


「……はい」


 女が二人、オークに連れ去られて、一週間経っても帰ってこない。それだけ聞けば、絶望的な状況です。騎士様たちには、私達を連れ去ったオークが、大賢者様であるという確証が無いんですから。


 とても……心配をかけてしまっていることと思います。


 獣道になっている所にまで辿りつき、歩くことしばらく。私達のことを探してくれていたであろう騎士様が、血相を変えて走ってきてくれました。


「……っ! リリー様っ!」


 その余りに必死な様子に、胸が痛みます。本当に申し訳ない事をしました。


「リリー様っ! ご無事ですかっ!? お怪我は……か、顔がっ!」


「ありがとうございます。どこも……怪我していません。大賢者様に、守っていただいたんです」


 大賢者なんて柄じゃない、と言っていたアルトさんの顔が思い浮かびます。ですが、それを言うなら私だって、貴族なんか柄じゃないような娘なんですよ?


「ひとまず、拠点までお送りいたします!」


「ありがとうございます。そして……心配をかけて申し訳ございません」


 こうして私達は、元の世界へと戻ったのでした。


………

……


 私達を出迎えてくれたのは、多くの涙でした。


 森から無事に帰ってきたことへの、安堵の涙。


 そして、私の顔が治っていることへの涙。


 森のはずれにある拠点で、騎士様方は皆、泣いてくれました。それが申し訳なくて、そして嬉しくて。私も泣いてしまいました。この森に来てから流した涙は、全てがあたたかい涙です。


 その後は、いろんな人に謝って回りました。


 私達を探してくれた騎士様、魔法使い様。メアリーの家族、そして村の人達。


 特に、メアリーのご両親には、私のために娘の命を危険に晒してしまったことを詫びました。どうか、メアリーを叱ることだけはしないでくださいとも。全ては、私のためだったのですから。


 そんな私に、お二人ともとても優しく接してくださいました。私の顔が治ったことを喜んでくださり、また、私のために頑張った娘を誇りに思うともおっしゃってくださいました。


 心配を掛けたことを申し訳なく思いながら、それでも、両親に褒められたことへの嬉しさが隠せない。そんな表情を浮かべるメアリー。……なんだか私も、お父様とお母さまに早く会いたくなってしまいました。子供っぽくていけませんね。


………

……


 村で一泊させてもらい、翌日には屋敷へ向かって出発しました。森から無事に帰ってきて早々に申し訳ないですが、メアリーにも一緒に来てもらっています。彼女もまた、私にとっての大恩人ですから。


 屋敷に着くまでの時間は、やはりソワソワとするものでした。早く両親に会いたいような、だけど、怒られるのが少しだけ怖いような。……やはり、早く帰りたい気持ちが強かったですね。


 翌日、屋敷では、お父様とお母さまが今か今かという様子で、私達の到着を待ってくれていました。昨日のうちに、私達の生存と、私の顔のことは伝わっていたそうです。


 馬車を降りた瞬間、私はお父様に抱きしめられていました。そしてお母さまにも。


「……心配をかけるな……この馬鹿者が」


 お父様の涙を見るのは、これが初めてです。今まで何があっても涙を見せることは無かったお父様の涙。


「本当に……ごめんなさい」


「よく……顔を見せてくれ」


 私の肩に手を置き、元に戻った顔を見つめるお父様。お母さまは泣き崩れています。


「よかった……本当に、よかったな」


「はいっ! 大賢者様と……皆さんのおかげです」


 再び。お父様は私を抱きしめました。それからしばらくの間、私達はまるで子供のように泣きじゃくったのでした。



 その後は屋敷を回って、心配を掛けた使用人たちにお詫びを、そして感謝を伝えました。執事にメイド、料理人。みんなが私の無事と、顔の回復を喜んでくれました。きっと、顔に火傷を負ってからずっと、皆に心配をかけてしまっていたんですね、私。


 私の部屋付きメイドであるアガサは、屋敷で寝込んでいました。

 

 メアリーを追いかけて森に入った私を、アガサもすぐに追いかけようとしたらしいです。ですが、木々が鬱蒼と茂る森の中、使用人の服を着ているアガサはスピードが出せず見失ってしまったとのこと。


 アガサは、私達が森に入ったことを騎士様方に伝えるために、泣く泣く拠点へと戻ったそうです。


 そしてその後、「私がオークに連れ去られてしまった」という報告を聞いて、あまりのことに倒れてしまったそうです。


 ベッドの上、たった一週間でひどく痩せてしまったアガサを見て、私の胸は張り裂けそうでした。


 ここまで心配を、迷惑を掛けてしまった私に、アガサは言うのです。


「リリー様……よかった、ご無事で。……お顔が……お顔がぁっ!」


 その後は言葉になりませんでした。ただ私の顔をさすり、泣きじゃくるアガサ。この人が部屋付きメイドであることは、私の誇りです。


 ありがとう、アガサ。そして、ごめんなさい。



 夕食を終え、私はお父様の部屋へと向かいます。


 既に、森でどのようなことがあったかは、お父様に話し終えています。アルトさんがどのような人物で、どのようにして私を助けてくれたのか。全て話しました。


 これから話すのは、私の意思。ワガママなのかもしれません。


 アルトさんは言っていました。


 自分だけではなく、オークは皆、ちゃんと理性を持っている、と。


 人間が襲ってくるから、逆襲しているだけだ、と。


 ならば、共存する道は必ずあるはずです。


 言葉が通じなくても、意思があるならコミュニケーションは取れる。最初は難しくても、誰よりも優しいアルトさんがいれば絶対に出来るはずです。


 オークと私達が共存出来るような社会を作ること。少なくとも、互いに殺し合うような今の現状を変えること。


 それが、私に出来る恩返しだと思うんです。


 アルトさんに渡した『共鳴の真珠』 あれは、私の誓いです。


 私は、あなたの側で輝き続けます。必ずあなたを幸せにするという、私の誓いなんです。


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