~ 第十七話 共鳴の真珠 ~
本日は、まだ更新する予定です!
では、どうぞっ!
オペの日から数えて、明日で五日目を迎える。リリーちゃんの治療もいよいよ最終段階だ。明日、スキルを使って治療を行い、問題が無ければついに“退院”だな。
リリーちゃんともメアリーちゃんともだいぶ仲良くなった。そりゃあもう、互いにタメ口……とまではいかないけれど、砕けた話し方をするくらいにはなった。
二人とも森での生活にも慣れて、今では立派なアマゾネスだな、狩りはまだ出来ないけど。夜の見張りが交代制になったのはマジでありがたかったよ。さすがに一週間寝ずに過ごすのは無理だ。
追手である人間の拠点からするとだいぶ森の奥に逃げたことも幸いしたのか、なんとか見つかることもなく明日を迎えられそうだ。ここまで来て、ハムにされるのだけは勘弁だ。
人間以外だと、獣の類に襲われる可能性はあるけど、二人とも勝手に俺の近くから離れるようなことはしなかったのでなんとかなった。
「アルトさん。隣、いいですか?」
リリーちゃんだ。隣にはメアリーちゃんもいる。両手に花……素晴らしい。
『ぶごっ、ふごふが』 (もちろんですよ、お嬢様方)
言葉は通じなくても、冗談めかした雰囲気は伝わるらしい。クスクスと笑いながら、俺を挟むようにして二人が座った。
「いよいよ……明日なんですね」
少し、寂しそうな声に聞こえるのは、俺の気持ちの問題なのかね? やだやだ……おっさんになると涙もろくていけねぇや。
「リリー様……本当に、よかったですね」
メアリーちゃんは、いまだにリリーちゃんを様付けで呼ぶ。リリーちゃんからは呼び捨てを熱望されていたが、断固拒否していた。『私は人間なので、貴族様を敬わないのは無理ですっ!』とのことらしい。
とはいえ、恐縮しまくりながらも友達宣言をしたメアリーちゃんは、きっといい子なんだろうな。
――ご迷惑じゃなければ、私と友達になってくださいっ!
その言葉を聞いた時のリリーちゃん、嬉しそうだったもん。思わずニヤニヤしちまったぜ。
青春、そして友情。よきかなよきかな。
ん? 俺? 二人ともちゃん付けだぜ? 当たり前だろ。俺、イケメンだぜ?
「アルトさん……一つお願いがあるんですが」
俺の目をじっと見つめるリリーちゃん。
なんだい? サインかい? 文字を覚えた豚に、死角はないぜ?
「治療が終わっても……また、会いにきてもいいですか?」
『……ぶご』
言葉にならない声が出た。
そりゃあ、会いに来てくれたら嬉しいよ。せっかく出来た、人間の友達だからな。まだまだ文字も完璧に覚えられたってわけじゃないし。
でも……俺はオークだ。人間から見れば、森の奥に住む魔獣だ。会いに来るには危険が伴うし。そもそも他のオークとの判別がつかないだろう。
「私も会いに来ますっ! アニメの続き、観たいですからっ」
メアリーちゃん……。治療無しでアニメだけを観に行く。それじゃあ多分、スキルが発動しないと思うぜ?イブさんがそれを許してくれる気がしない。でも、気持ちは嬉しいよ。
「明日……答えを聞かせてください」
そう言うと、俺にもたれかかって来るリリーちゃん。
年を聞いて驚いたよ……まだ十一歳なんだって。子供じゃねぇか。そりゃあ甘えたいよな。
きっとこの子は、周りに甘えることなく生きて来たんだろうな。じゃなきゃこの年で、こんなに大人にはなれない。貴族ってのも、なかなか大変なんだろうな。
気分はまるでお父さんだ。
お父さんだよ?
決して、変質者でもロリコンでもないからね? オークがその疑いを掛けられると……色々不味いんだからね!? 暖かい目で見守ってくれよ!?
………
……
…
いつもの光に包まれて、スキルが発動する。
リリーちゃんもメアリーちゃんも、慣れた様子で準備を始める。リリーちゃんは治療の、メアリーちゃんはアニメ鑑賞の準備だけれども。
リリーちゃんの顔……もはや傷はほとんど目立たない。近づいてじっくりと確認すれば少し違和感を感じるものの、日常生活を送るにはなんら問題ないレベルだ。完治と言ってもいいだろう。
雑談をしながら治療を進め、肌のケアに移る。
「アルトさん。昨日のお願いの答え……聞かせてくれますか?」
碧い目が、俺を見つめる。
「気持ちは嬉しいよ? だけど……俺はオークで、君は貴族の娘だ。人間がオークを恐れている以上、会う事は難しいと思う」
「大丈夫です。必ず、私が周りの方を説得します」
「説得って……」
「アルトさんは、私の命の恩人です。悪く言う人は……許しません」
本気の目だ。本気で、俺のことを大切に思ってくれている。
この子のことを考えると、ここで関係は断ち切るべきなのは分かっている。それでも……この嬉しい気持ちを覆い隠すことは出来ないかもしれない。
「人間には、俺と他のオークとを区別できないでしょ? 俺だと思って他のオークに近づいたら……危ないじゃあ済まない」
「大丈夫です。それについては、考えがあります」
「考え?」
リリーちゃんが、懐から何かを取り出す。白い……小さなネックレスだ。
「これは“共鳴の真珠”という、二つで一組の魔道具です。対になっている二つの真珠が近づけば近づくほど、光を放つというものです」
渡された真珠は、確かに光を放っている。見ると、リリーちゃんもまた、輝く真珠を手にしていた。
「アルトさんがこれを持っていてくれれば、私はアルトさんを見つけられます。アルトさんも、私が森に近づけばそのことが分かります。……ダメですか?」
ダメですか? ってのは……あれだな。これでもまだ会いにきてはダメですか? ってことなんだろうな。
あぁ……俺ってば、バカだなぁ。
ダメだって分かってるのに、止められそうにねぇや。
けど……いいじゃねぇかよ。オークと人間が仲良くしたって。むしろ、仲良くしたほうがいいに決まってるじゃねぇか。殺し合う必要なんか……ないじゃねぇかよ。
「ありがとう……リリーちゃん。俺が人間の村に行くことは無理そうだから……森で待ってるよ」
多分、もう一度会うのは難しいだろうなぁ。周りの人が止めるだろうし。
けど……また会えたらいいな。
「はいっ! 必ず、会いに来ます」
太陽みたいな、満面の笑顔。
この笑顔が取り戻せたってだけで、俺は自分の仕事に満足だ。何よりの報酬だよ。目に焼き付けとかないとな。
※
治療が終了し、森の洞窟へと戻る。治療の成果も上々……これで無事、“退院”だ。
『ぶご、ふごぷぎょ』 (よく頑張ったね)
「ありがとうございますっ」
頭を撫でながら声を掛ける。意味は伝わってないけど、意思は伝わったみたいだ。
そして気付く。リリーちゃんの頭を撫でる左手の薬指。先ほどのネックレスが指輪のように付けられていることを。
待て待て……いくらオークとはいえ、さすがにそこまでデカくねぇよ!? 人間の首にかけるはずのものが、指にぴったりなわけないだろ!? 明らかに鎖の長さがさっきより短くなってるじゃねぇか!
……この指のチョイスといい、絶対にイブさんだよな? 完全に悪ノリしただろ?
(そのような事実はありません)
なんとなく、声が聞こえた気がした。たぶん、気のせいじゃない。……次に会った時、問い詰めてやる。
………
……
…
「本当に、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
響かないような小さな声で、二人が別れの言葉を告げる。
森をだいぶ進み、人間の活動領域にまで戻ってきた。これ以上進めば、まず間違いなくバレるという所だ。ここまで送れば、他の獣に襲われる心配もないだろう。
『ぶぎゃぶが』 (達者でな)
見送る俺、気分はまさにお父さん。娘が一人暮らしを始める時のような心境です。……娘、いたこと無いから想像だけどな。
手を振る二人に、俺も手を振り返す。その手に光る真珠が少しずつ、光を淡いものにしていく。
この真珠がまた光る時、その再会が笑顔で包まれていたらいいな。
……俺、今かっこいいこと言ったよな? 自分で言っといてなんだけど、鳥肌たったぜ? 豚なのになっ!




